10.うまい話には裏がある

「(こ、この人なんなの!?こっちはただでさえ顔が見えなくて困ってるって言うのに!怯むな怯むな…こんなんでも協力者なんだ。話さなきゃ何も始まらないわ)」


 冷や汗を流しながらも何とか会話を試みるが、舌打ち、無視、睨まれる(顔が見えないけど)をうけた。

 でも慣れてるから平気だ、怒りは溜まってくるが…爆発したらエルネストとの作戦が無駄になってしまう。


 そう思ってる時だった。


「その態度はわざとか?」

「へ?」

『きゅ!?』

「こんなの奴が相手とか…お前の主は何を企んでる?」

「せ、聖女エリス様を皇太子妃にする為、皇太子殿下の心を操る存在を打倒しようとしてます」

「はぁ…で?俺が呼ばれた本題は?」

「(皇子殿下が何て伝えたのかわからないから…下手に名乗れないなぁ…どうしよう。こうやって2人で話せるようにしてくれたから明かしても良いのかな…でもなぁ…)えっと…」

「まさか、お前って言わねぇよな?皇子の手紙には悪評まみれの王女を逃がしてやって欲しいって書いてあったんだぞ?

 だが、いざ来たら悪女な王女は来ない、何て態度だ」

「(あっ、コレ明かして良いヤツだ。そこまで話を聞いてるならすぐに本題に入るべきね。顔が見えないとかもう良いや)」


 吹っ切れたユリアスは魔法を発動した。

 ローレントとシルヴァは一瞬驚いた。しばらくすると茶髪な中性的な若者の姿ではなく、翡翠の髪に金色の瞳をしたの姿があった。


「騙すような事をしてごめんなさい。

 私は『ユリアス=フィリスタル』、皇子殿下からの手紙の者…自由になりたがってる者です」

「…ほぅ?悪女と言われてるお姫様が自由にねぇ…何を企んでる?逃亡か?それとも別の理由か?」

「そうですね、後者のほうですね。私は自由になりたいのです。ホントに…色々疲れてましたし…だから誰にも文句を言われない、自分の好きに生活したいのです

 これでも、冒険者の資格ライセンスも取得済みなので自由になりしだい冒険者になってみようかなって思ってます」

「はっ、悪事を働き、国を困惑させてる悪評まみれの性悪王女の頭脳はかなり低いな。嘘を並べても無駄だぞ?」


「…(ミアの洗脳を受けてる様子は無い。ってことは…本能で私を疑ってる。み、見下されてるんだわ…ミアと絡んで無くて良かった)」


 アルベリクの時とは違い、ローレントは本能で疑ってるようだ。どちらにしろ、ミアが何かしても神秘の存在と繋がってる彼には効かないだろう…

 ミアが絡んでなければ、これは普通の話し合い、協力を得るための交渉だ。


 なんだ、冷静になれば…余裕じゃないか。慌てる必要は無い、さっきまで怯えていたのが嘘みたいだ。

 ユリアスはニコリと笑って話を始めた。


「殿下がどう思うがは自由です。ですが、私が自由になりたいのは本当の事です。今は訳あって出来ませんが、事が解決したらこの国を出るつもりです」

「……」

「(焦る必要は無い、相手は既に色々聞いてる、だから一から話す必要は無い。本題を伝えたから…どうしようか)」

『ユリアスさまぁ…』


 16歳の王女とは思えない冷静さ…ローレントは…まだ疑ってるようたが、溜め息を吐いて口を開いた。


「…はぁ、まぁ良い。だが俺は犯罪には手を貸さねぇからな」

「犯罪なんかしませんよ」

「どうだか、まぁ…自由を望むのは悪い事じゃない」

「!(空気が変わった…)」


 先程より空気が和らいだ気がした。


「俺は第四王子、一番王座に遠い存在だ。俺の上には王子3人、王女が3人、下に1人いる。オルタナは女児でも国王になれる、だから俺は自由にさせてもらってる」

「!!」

「王座に興味が無いのが一番の理由だが、そもそも俺は側妃の子だから国王になるのは無理だ。

 女児でもなれるって言ったが、第一条件は正妃の子である事だ。そいつらが居なくなったら予備の俺にも回ってくるかもしれないけどな」

「既に自由を手に入れてるのですね…(羨ましい!!やり方教えてよ!)」


 王族でありながらも既に自由を手に入れてるローレント、ユリアスからしたら羨ましすぎる…こっちは祝福を持って生まれたにも関わらず嫌われ、冷遇されて育った、それなりに自由ではあったが、完全な自由では無かった…

 ミアと兄弟に見つかればすぐさまオモチャにされたり、ストレス発散用のサンドバッグにされたり…散々な時間もあった。


 でも地獄を耐えきれば最高の自由時間(時間有限)が手に入った。

 ミアの件を片付け、帝国を離れれば無制限の自由時間を得られる…

 自由になれば何だって出来る!冒険者になっても良い、雇われ傭兵になって戦場を駆けるのも悪くない。

 剣を振るのも魔法術を使うのも好きだ。

 外の世界は強い人間程称えられる、でも英雄になる気はない。有名人止まりが理想だ…

 まずい、まだ自由になってないのに妄想が止まらない、顔がにやけてしまう。


 あぁ…自由が待ち遠しい…これ程欲しいものは無い。


「何笑ってんだ」

「フフッ、失礼しました。あまりにも羨ま、良い人生を歩んでるのですね。見習いたいです」

「……素直に羨ましいって言えば良いだろ」

「羨ましいです」

「即答だな…」


 目を輝かせて即答してるのだ、彼が困るのもわかる。


「とにかく、お前の仮初めの目的はわかった」

「仮初めではありませんよ、本当に望んでます」

「その証拠は?今のお前が猫を被ってるだけの悪評まみれな性悪王女って可能性も有る。

 そんな奴を手助けして問題を起こされたら困るのは俺だ。第一、お前を自由にさえて俺に何の得がある」

「(確かにそうね。洗脳じゃない…純粋に悪い噂を信じてるみたいだから、皇太子の時みたいに脅せない。妹が広めてるんです!って言っても信じてくれないかもね…うぅん、証拠とこの人が得をする事…っ!そうだわ!)

 でしたら交換条件はどうでしょうか?私に自由を与える代わりに私が王子殿下の望みを叶えます」

「お前を使っても得が無さそうだが」

「(そこが思い付かないから提案したのよ!)と、とにかく!私は自由になりたいのです!理由は後で全て話します!条件付きでも構いません!」

「……」

『ユリアスさまぁ…無理は駄目でしゅ…』


 無理をしてでも交渉しなくてはいけないのだ…今この機会を逃したら二度と自由になれない気がする…


 …相手も折れない、既に自由を手に入れた相手だ。簡単に方法を教える訳にもいかないだろう…


 しばらくすると、何かを思い付いたローレントが口を開いた。


「…そうだな、俺は『自由を与える者』だ。自由を望む者に手を差し出すのが今の俺の役目だからな…

 …悪人に手を貸すのはしゃくだが、自由を望んでる人間だ。わかった、手を貸そう」

「えっ!?本当ですか!ありがとうございます!」

「ただし、自由を与えるのは事が終わった時だ」

「はい」

「……」

「……(わっ!なにその悪い笑みは…は、嵌められた!?)」


 ユリアスの予想は的中した…

 彼の考えが単に変わった訳では無かった…


「今、俺にも困ってる事がある。お前にはそれをやってもらう」

「な、何でしょうか?」

「俺は王座に遠い存在とは言え王族だ。そこらの貴族から娘を婚約者にとしつこく言われてうんざりしてる。

 そこで、お前の登場だ。悪評まみれの性悪王女とはいえ腐っても王族、顔は…まぁ悪くはない…普通だろ。

 他国の王女と結婚すれば誰も文句は言えない。

 俺はお前に自由を与える代わりに、お前には俺の女除けにでもなってもらう」

「!(なるほど、悪くないわね…でも…)矛盾してませんか?」

「うまい話には裏が有ると聞くだろ?

 せっかく自由を与えても王子の女除けの妃は自由とは言えない。

 そこでだ、ただの女除けじゃなく、俺が悪評まみれの性悪王女を捕まえた、監視する為にこの国の者と話して婚約等を結んだって事にするんだ」

「な、なるほど(そっちでも監視ね…構わないけど)」


 確かに一理ある提案だ。

 偽りの情報を利用してオルタナに移り、条件付きの自由を手に入れる。

 悪くは無い、色々めちゃくちゃだが…一番手っ取り早い方法だ。


 まさに【うまい話には裏がある】だ…


「これは自由になるための契約だ、契約の結婚だから自分の好きな事だけすれば良い。必要になる時だけ呼ぶ、その時に女除けを務めれば良い。

 ただし俺の邪魔はするな、愛される事も期待しない方が良い。

 俺も自由時間を潰されるのは嫌いだからな。詳しい事は事が終わった時に話す」

「わかりました」


 ミアの広めたモノを利用して自由を得られるとか…その使い方は思い付かなかった。

 広めた本人も悪評で苦しんでる訳じゃなく、喜んで利用されてるとは思って無いだろう。


 なんだか流行りの小説やマンガにある【お決まりな展開】になってるが…


 後から好きになったから契約は無かった事にさせて欲しいって言うなよ?


 絶対に?


「(それ系の本とか読むけど…好きになるなら最初から「契約だ」とか「お前を愛さない」とか言わなければ良いのに…って思っちゃう。でもそれ系が好きな人もいるだろうし、あくまでも小説とかの話、現実は契約結婚や政略結婚は多いし、私も結婚は望んでないし…愛されたいとは思ってないから…とにかく自由になりたい…それが私の望みだし…)」

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