聖女の失敗 4

「聖女エリスが投獄された…最悪な行動をしてしまったのか…彼女らしくないね」

「何故…何故彼女が牢に…聖女でもある方が」

「……話せば長くなる…」


 ★☆★☆

 エリスが騒ぎを起こした日


 アルベリクの衣服に手をかけ、彼の肌に触れた瞬間…彼女の力によるモノなのかアルベリクは気絶した。


 いくら彼女でも…体の自由を奪えても起きてるアルベリクには勝てない。

 だから意識を奪い…そこからだ。


 彼に触れ、勝ちを確信したように嗤った時だった。

 突如気絶したはずのアルベリクに腕を捕まれ、直後にケイオス、アリサ、ロイが現れてエリスを拘束したのだ。


 しかし簡単にやられないのがエリス、アリサに拘束されるが抜け出してアルベリクに近付こうとしたが、今度はロイに捕まった。

 男女の差もあってか、ロイに捕まった時には抵抗したが…徐々に大人しくなった。しかしアルベリクを睨み付けていた…


「やっぱり…ダメなのね…」

「エリス様、どうしてこんな事を…」

「貴方が…全部アルベリク様のせいなのよ!!全部!!なのに!」

「……」

「エリス様…」


 噛みつくようにアルベリクを罵倒するエリス…

 目を覚ましてケイオスに助けられながら彼女の叫びを聞くアルベリク…


 彼にもわからないのだ…心は何処の誰なのかもわからない相手に向いてる…

 …ユリアスに向いてる訳でもない…


 じゃあ誰に……


 …でも自分が悲しむ資格は無い…全部自分が招いた事だ…

 エリスの想いを裏切り…ユリアスの悪評を鵜呑みして侮辱した…

 彼女の情報は全て妹のユリミア王女…ミアから教えられたモノだ。


 だからと言ってミアに心が向いてるのかはわからない…

 しかし思い当たる人物が彼女しか居ない…



「(俺はずっと間違った事ばかりしてるな…)」


 その後、エリスは彼の護衛達(監視達)に牢屋に連れて行かれた。


 その後、エリスは尋問を受け…アルベリクと離れたくなかったが故に行動を起こしたと判明…

 神官達は激怒、しかし大事な聖女なので解雇も追放も出来ない…


 未遂で終わったとは言え、いかがわし事をしようと…既成事実を作ろうとしたのは事実、聖女已然に公爵令嬢として絶対にしては行けない行事だ。


 結局、彼女もベルティナ王国の第二王子と同じ事が解決するまで釈放しない事になった。


 聖女の祈りは重要だったので、祈りだけは監視をつけてやらせた…


 しかし…更なる問題がカリブルス帝国を襲う。

 聖女が神殿に居ない事が原因か…結界が弱まり魔物が国に攻めて来たのだ。

 人々の命は無事のようだが…一部の者は違った。


 …ただの魔物による攻撃じゃなかったのだ…人の手によるモノだった…

 ジョシュアが瞬間移動する時…怪しい人物を見つけ、排除しようとしたが…見たことの無いモノを使った攻撃を受けて今の状態になったそうだ。


 ーーーー

「視察は中止だ皇子様…今の状態はかなりマズイ。

 聖女が未遂とはいえ不貞を犯した今…神聖力が弱まってる…オマケに人間が魔物を操って攻撃してきてる。この意味…わかるか?」

「……」

「……(この1ヵ月でそこまで仕掛けられるだなんて…)」


 エルネストはユリアスをチラリと見た、真剣な表情をして固まってる彼女だった。


 思い当たる事しかない…

 恐らく魔物を操って攻撃を仕掛けて来たのはフィリスタル王国の人間だ。

『魔物使い』と呼ばれる職業ジョブを持つ冒険者が居る世界だ…素質を持つ者が力を隠して王家に使えててもおかしくない。


「…どうするユリアス王女?事態は最悪な方に進みだしてる。エリスが皇太子妃になる可能性が低くなってしまった」

「低くなっただけです。彼女を捨てる選択はありません」

「??」

「エルネスト皇子殿下、私は魔物を仕向けてきた人間に少し心当たりがあります。

 …彼女と会って話が出来れば良いのですが…」

「じゃあ城に戻るの?」

「戻りません。このまま視察を続行しつつ…私が何とかします」

「はぁ!?無茶言うな王女サマ!アンタは帝国を滅ぼそうって言うのか!?」

「まさか。してたらこうやって視察に同行してません。

 滅ぼさない為にもエリス様に会いに行くのです。

 魔物の攻撃を防ぐ為にも彼女と話をしなくてはなりません…


 単刀直入に言います、事を起こしてる元凶を始末しない限りこの攻防は永遠に続きます。

 この騒動を起こしてるのはフィリスタル王国です。今回の指示を出したのは…妹でょう」

「っ!?」

「…そんな気はしたよ…」


 ミアなら簡単に魔物使いに帝国を滅ぼしてこいと言える。

 ミアなら出来る…しかし、自分の手では絶対にやらない。


 出来ないからだ…彼女は人々を魅了する事しか出来ないし、自分で何かをすることが出来ない…弱点をつけば反撃は簡単だ。



「ミア…ユリミアなら周りの者に残酷な指示を出せます。

 しかし…ミアの目的は私への嫌がらせです。

 ミアは帝国との戦争を起こすつもりです…フィリスタルだけでは勝てなくても、彼女の虜になってる多くの国の力を借りれば帝国は滅んでしまうでしょう…」

「…それが愛され王女の狙いか?」

「ミアにとって国なんてどうでも良い、私に嫌がらせが出来ればそれで良いのです。

 今回の騒ぎも嫌がらせです…呆れるでしょ?

 嫌がらせの為だけに戦争を起こそうとしたり、魔物を仕向けてくるとか…カリブルス帝国を侵略する為ならわかるでしょ?でも侵略なんか興味ない、彼女は私に嫌がらせが出来るなら何でも良いんですよ」


「……」

「なるほど、確かにその通りかもしれないね」

「エルネスト様?」


 エルネストはヨシュアとジョシュアを交互に見て口を開いた。


「視察は続行だけど、影武者を呼んで。それと聖女エリスとの面会を手配して」

「…かしこまりました」

「しょうがねぇな…後で全部話せよ」


 気になる事だられけでも2人は動いてくれた。

 シルヴァはユリアスを見た。

 常に冷静な彼女らしくない…そう感じたのかきゅ~んと鳴いて話しかけた。


「きゅ~ん(ユリアスさま?大丈夫でしゅか?)」

「大丈夫よ…ホント…嫌がらせに関してだけは天才よね…こんな方法が思い付くなんて…そこだけはずば抜けてるわ…」

「きゅ~ん…」


 …何時もの事だと思っても…今回は笑ってしまう。

 今回は少々厄介だ。エリスの投獄とミアの攻撃が重なってしまった…


 至急エリスを救出してミアを対処するしかない…


「はぁ…」

「思い詰めても仕方がない、まだ戦争を仕掛けられてないだけマシだよ。

 でも自国と戦う事になるよ、味方は居たんじゃない?」

「味方?アハハ…そんなの誰一人居ませんでしたよ、私は何時も一人でした。

 国が滅ぼうが自滅しようがどっちでも良いです。あの国に思い出も未練も無いので…」

「そっか…全てが終わったらどうするの?」

「全てが終わったら?あぁ…そうですね…」


 考えてなかった訳では無い、全てが解決したら…遠くに行って自由に暮らすつもりだ。冒険者をしたり、一人でまったり生活していきたい…そう考えていた。(冒険者の資格ライセンスは取得済みなので自由になり次第冒険者としての生活が出来る)


「この国を出て自由に暮らしたいですね。遠くに行って…誰にも文句を言われない人生を歩みたいです」

「目的は変わってないと…」


 エルネストは真剣な表情をして話を聞いてる…

 そして…驚きの発言をしたのだった。


「君を自由にする方法があるよ。婚約関係なく…確実に目的を果たせられる」

「どういう事ですか?」


「協力者を用意してあげる、君の願いを叶えてくれる人を…呼んでおく」


「!?」

「きゅ?!(そんな人いるんでしゅか!?)」

「一人だけ思い当たる人が居る…でも全部が解決したらだ。呼んだら…すぐ来るかもしれない、もし城に戻って知らない人が居たら、僕が呼んだ者だと思って。

 …すぐには来ないと思うけど…なるべく遅めに来るよう伝えておく…」

「は、はぁ…ありがとうございます」


 どうやらエルネストが言う者はすぐに行動するタイプのようだ…



 その後、ヨシュアが一人の少年を連れてきた。

 彼はエルネストの影武者でもある若い騎士だ。

 背丈も声も、そして見た目もそっくり…

 今回の視察に同行はしてないが、この宿屋の警備を担当してる騎士達の一人だ。


「はじめましてユリアス王女様。ボクはエルネスト皇子殿下の影武者をしている『キース』と申します」

「キースはエルネスト様の影武者として、自分達が乗ってた馬車に乗ってあちこち行ってもらいます。視察してるフリをしてもらいます」

「報告書はどうする?」

「この水晶に記録してもらいます。エルネスト様は水晶を見て報告書を書いてもらいます」

「上手く行けばいいけど、取り敢えず作戦を練ろう。話はそこからだ…」

「「はい」」

「……」

『ユリアスさまぁ…』


 ミアとの決着をつける時が来た…



 同時刻…ジョシュアは牢屋にいるエリス、アルベリクに面会の件を話していた。

 視察に行ってるエルネストがエリスと話したいとだけ…

 怪しまれたが、何とか面会出来る事になった。

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