エリスの恋 2
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この日の夜
ユリアスが部屋で勉強をしていると、またしても嬉しそうなナソスがやって来た。
何でも…エリスとアルベリクの仲が深まったと喜んでるようだ。
普通なら心が傷付くはずだが…愛や恋がわからないユリアスは何も感じなかった。モヤモヤもチクリと心が痛む事も無かった……
それが面白くなかったナソスは乱暴に扉を閉めて出て行った。一体何がしたいのか…嫉妬に狂うユリアスが見たかったのだろうが、残念ながら一生見ることは無い。
監視の気配も減ってる…ロイとメイリーンがいたはずが…誰もいない…。
シルヴァに何か感じないか尋ねても首をコテンと小さく傾けるだけ。
しばらくすると、今度はフリップが夕食を持ってきた。しかし…料理がおかしい…
腐った食材は見当たらない…これまでと違って普通の食材が使われてる…
怪しい…そう思って魔法で確認してみると…毒の反応があった。
シルヴァが興味深々で近付いてきたが、危ないので抱き上げた。
「ダメよ。毒が入ってるの」
『毒でしゅか!?…まさかユリアスさま食べるんでしゅか!?』
「……(毒は消せそうね)心配しないで、大丈夫だから」
『危ないでしゅ…』
「でも食べなきゃ…もっと面倒な事になっちゃうから…」
『あぅ…』
不安そうな表情をしながらユリアスを見るシルヴァ、料理に毒消し魔法をかけて毒を消したが…この後が面倒だ。
毒がある場合は口にすれば何の毒なのかわかるが、食べる前に消したのでわからない。
料理は美味しいが、毒が気になって仕方がない。しかし問題はこの後だ。
「(毒と腐った食材は同じ人間によるモノね…)シルヴァ、念のためベットの下に隠れて。私は体調が悪いフリをするけど気にしちゃダメだからね」
『で、でもっ!』
「お願い、犯人を捕まえられるかもしれないから」
『あぅ…ぁぅ…わかりました…』
「ありがとう…っ!隠れて」
『!!…』
彼女が毒入りの料理を食べたと知ってるのは作った本人と内通者だけ、だから来るのは…
部屋を暗くし、わざと扉の鍵を開けたままにしてベットに横になっていると…誰かが来た。足音が部屋の前に止まると…ノックをせずに入ってきた。
ベットの下に隠れてるシルヴァはプルプルと震えていた。
侵入者が横になるユリアスに触れようとした時…
「(ホント、古典的な嫌がらせしかしてこないわね)」パチッ
「ギャァァ!!」
ユリアスが指を鳴らした途端、侵入者は青い火炎に包まれ悲鳴を上げた。
赤い炎よりも威力が強い青い炎…ユリアスは体を起こして部屋の明かりをつけた。
部屋の扉を開けたままにしていたのが仇となり、侵入者の悲鳴が部屋の外にまで響いた。
監視達にもこの悲鳴が聞こえただろう…
部屋を明るくして侵入者を見ると…料理人の白衣を身につけた男がいた。
炎を消し、回復魔法で叩き起こした。
「ハッ!…な、何しやがる!」
「その言葉そのまま返すわ」
「は!?どうして効いてないんだ!?」
「私が何も出来ないと思った?伊達に嫌われ者やってないわ。毒消しくらい身に付けてるし、毒耐性だって有る、毒なんて余裕よ」
「ち、ちくしょう!お前さえ!お前さえ居なければエリス様が皇太子妃なんだ!!」
「……」
慕う相手が違うが状況は同じだ…
ミアに心を奪われ狂信者の如く慕う者…権力を使わず、地道に自分の力で全てを見せてきた聖女エリス…
エリスこそ皇太子妃に相応しい…
国の為に尽くす彼女に対し、自国の滅亡を願ってるような
目の前の料理人はミアの虜になってない…自分の目でエリスが相応しいと判断した上での行動なのだ…
悪評まみれな王女とか関係ない…
わかってるさ、でも簡単に消える事が出来ないから困ってるんだ…
ユリアスは料理人を黙って見ていた。
フィリスタルでしていたような事をする気が起きなかった…。
全裸でエントランスに吊し上げても良いが、今はそんな気分じゃない…
ユリアスは料理人の襟元を掴み、部屋から放り投げた。
「二度目は無いわよ…安心しなさい。あんたに色々言われなくても皇太子妃にはならないから」
「っ!」
『ユリアスしゃまぁ…』
「もう大丈夫よ。おいで、シルヴァ」
シルヴァが飛び付いてきた。ギュッとぬいぐるみを抱き締めるように…シルヴァを抱き締めた。いくら大人びてるとはいえ、ユリアスはまだ16の少女なのだ…。
「…これで監視対象が死んだらどうしてたの」
「その時はその時だ」
「これが一番手っ取り早く犯人を見つけられる方法なのよ」
「…そう、悪くない作戦ね」
事が解決した時に監視のロイ、メイリーンが現れた。
『ユリアスさま…』
「…(ショックを受けてる訳でも無いのに身体の震えが止まらない…そういう毒を盛られた訳でもなさそうだけど……
…あぁ…そっか……現実を叩きつけられて心が動揺してるのか…頭では何もかもわかってるけど、心はそうでもないから…)」
ここまで自分が冷たい人間だったとは…自分の身体と心が何故動揺してるのかわかってない…。でも、あの男の発言は理解出来てる。
自分は…残酷すぎる人間だ…こんな人間が後の国母とか有り得ない…。
残酷な自分はアルベリクに無関心でエリスの恋心を利用して自由を得ようとしてる…
戦争を起こさない為とか言ってるが…自分の為だけに動いていた…
周りの発言をわかっていたようで…わかっていなかった。
★☆★☆★
翌日、ユリアスは高熱を出しベットに寝ていた。
うぅんと唸るユリアスを見てシルヴァは悲しそうに鳴いており、ベットの周りを歩いた。
「大丈夫よシルヴァちゃん、王女様は大丈夫だからね」
「きゅ~ん きゅ~ん(ユリアスしゃまぁ…)」
「症状は何なんだ?」
「魔力切れでも毒による症状でもありません…恐らく、精神的に疲れ弱った所をやられてしまったのでしょう。今回は風邪ですが、状況によって危険性は異なります…。
他国の姫君とはいえ、まだ16歳の少女ですから…相当精神的に疲れていたのでしょう」
「「……」」
「精神的疲労か…」
思い当たる事ばかりだ…嫌がらせをしていた者、悪評を信じユリアスを攻撃していた者、そして…監視として四六時中生活を見られていた事等…彼女にとってどれも普通の事だったが…普通の事ではないのだ。
精神が鋼よりも強いから何にも負けない…と思うが、病には勝てなかった。
「うぅん…うぅ(しくじったわ!肝心な時に風邪引くとか!でも魔力切れじゃないマシよ、さっさと風邪治してエルネスト皇子の所に行って次の作戦を考えなきゃ!)」
身体は風邪で弱っても心はタフなユリアスだった。それを知らない監視と医師は深刻な表情でユリアスを見ていたのであった。
ユリアスが寝込んでる時、神殿跡地での調査が進み、新たな情報も得られたとの事だった。
…そして…アルベリクとエリスが仲睦まじく腕を組んでる姿があったのだった。
エリスは満面の笑みを浮かべていたが…アルベリクの表情は見えなかった。
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