4.嵐の予兆 1

 ユリアスのアルベリクに対する警戒が弱まって1週間後。 午前9時過ぎ

 ユリアスはドレッサーの前に座っていた。


 数分前、ナソスとフリップ、そしてアルベリクが来て帝都に行かないかと言われたのだ。

 断りたかったのだが、使用人頭2人の前で変な事はしたくないので渋々了承した。


 ナソスはユリアスの髪を整えると出ていった。

 ドレスやワンピースではなく、王女らしくないがシンプルなブラウスとロングスカートを身に付けていた。

 これが一番動きやすい、パンツスタイルで行きたいが…今回はやめておく。


 荷物を魔法でしまってシルヴァに声をかけて部屋を出た時だった。


 バシャッ!


『ひっ!!』

「っ!…」


「きゃははっ!ざまぁみなさい!!」

「これで帝都にいけないわね!」

「調子乗ってるからよ!婚約者ですら無いのに皇太子様と出掛けるなんて図々しい!!そこはエリス様の席よ!」

「そうよ!そうよ!自分の立場をわきまえなさい!」

「は~傑作!メイド長が言ってくれなかったら危なかったわね~」


「(なるほど、相変わらず…お馬鹿さんしかいないのね)」


 頭から水を被り、全身びしょ濡れになってしまったユリアス…。シルヴァが濡れなくて良かったが…

 どうやら扉の開け閉めを利用して水を落とす古典的な罠にかかってしまったようだ。


 反抗に及んだのは…あの時の無礼なメイドと仲間と思われるメイド2人、勝ったつもりで盛り上がってるようだが…


 パチンッとユリアスが指を鳴らすと


「きゃあぁぁ!!」

「なにするのよ!!」

「最悪!!」


 無礼なメイド達の頭上から大量の水が…しかし床は濡れてなく、濡れたのは彼女達だけ。

 また、水魔法を落とすのと同時に風魔法で自分を乾かしたので綺麗な状態に戻っていた。


「自分の立場を弁えなさい、こんな嫌がらせで私が泣くと思ったの?ここの使用人はみんな馬鹿なのかしら?古典的な嫌がらせしかしてこないのね、対したこと無いわね」


「「「っ!!」」」


「邪魔、消えなさい」


「えっ!きゃぁぁ!!」

「また!?覚えてなさい!」

「自分にしたみたいに乾かしなさいよ!」

「嫌よ。さぁシルヴァ、行きましょ」

『ひゃい!』


「きぃぃ!!嫌われ王女のクセに!」

「ってか顔の鱗消えてたよね?」

「そんなのどうでも良いわ!覚えてなさいよ!嫌われ王女!あんたなんかすぐに追い出されるんだから!!」


 見事返り討ちにあった無礼なメイド達、あの時のように風魔法でエントランスに飛ばされてしまった。しかも乾かしてもらえず、髪と服がびしょ濡れの状態…自業自得だ。

 しかし、前と違うのは…この場にアルベリクとケイオスがいた事だ。


 を聞かれてた事に気付いたのは…すぐだった。


「誰が彼女を追い出すと?」

「それは皇太子殿下で…す…ひっ!」

「お、皇太子殿下!?何時から!?」

「ケイオス様まで…こ、これは違います!あの嫌われ王女がやったんです!」

「そうです!そうです!!ナソスさんが嫌われ王女が外出するらしいって言ったからあたし達で防ごうとしたんです!」


「ほぅ、あのナソスさんが…でも実行したのは自分達では?」

「悪評まみれの王女が帝都に出たら大変ですからあたし達で動いたんです!」


「そう、なら本気でかかってきなさい」


「「「!?!?」」」

「「!!」」


 冷静なユリアスが階段を降りながら言った。肩にはシルヴァが乗っている。 


「あんな古典的な罠や嫌がらせじゃ私は泣かないわよ。暗殺者や暴漢でも雇って傷物にしろとか命じてみる事ね、まぁ無駄だけどね。私は簡単にはやられないから」


「はぁ!?フィリスタルではそんな事されてたのか?!」

「ご安心を、やられる前にやったので無事ですよ」

「そういう事じゃない…俺はホントに何も知らないんだな…」

「悲しんでる場合ではありませんよ。とにかく、こちらで色々やっておきますので、御二人は行ってください」

「悪いな…」

「仕事ですから、代わりに『ロイ』と『アリサ』行かせます。行ってらっしゃいませ」

「行ってくる」


 色々あったが2人は城を出て馬車に乗った。


 …目立たない所からエルネストが全てを見ていた。


「よく隠してこれたね…ホント、これはとんでもない存在を手放しちゃったね…フィリスタルは今頃大変な事になってそうだ」


 やはり同志は見る所が違う、ユリアスがただ者ではなのはわかってたが、あそこまで強力な魔法や才能を持ってるとは思ってなかった…気付かなかったフィリスタル王国を哀れに思ったのだった。


「安心しな、強い魔法を見せても帝国は利用しないよ。思う存分使って、馬鹿にしてくる奴ら全員に見せつけると良いよ。

 …でも見せつけ過ぎると自由になるのが難しくなるかもね、気を付けなユリアス王女」


 15歳の少年とは思えない大人びた雰囲気…

 彼は従者を連れて城の奥に消えて行った。



 ★☆★☆

「さっきのは本当にされた事なのか?」

「無礼者に水をかけられた事ですか?」

「そっちじゃない、暴漢に襲われたってやつだ」

「あぁ、それですか。襲われてはいませんが、暴漢が居住地に侵入して脅迫してきたのでてやりました。

 派手にやったので色々使かもしれませんね」


「……」


 この発言を聞いたアルベリクの顔が青くなった…。

 おそらく本当に身体のにしたのだろう…。手足の筋や背骨…身体を動かすのに必要な部分や…その他を壊してやったのだろう…聞いてるだけで痛い…。


「恐らくミアを慕う者に雇われたのでしょう、ミア本人が雇っても良かったでしょうが雇われ者が口を割らないとは限らないと思ったのか、本人はやらず他人にやらせたのでしょうね。


 しかし彼女らの誤算は、私が既に大男一人を片手で倒せる程の体術を身に付けていた事。

 これが起きたのは確か…10歳頃でしたね」


「っ!!悪趣味な奴らだ…(10歳で既に最強コレだったのか…強い訳だ)」



 まさか10歳になったばかりの少女を傷物にしようと企む者が変質者を送り込むとは…しかし10歳の少女にあらゆるモノを壊される返り討ちに遭ったと…


「(暴漢のあらゆるモノの破壊ならなら…暗殺者の四肢を不能にしてても可笑しくない!彼女にとって暗殺に必要な視力等を奪う事も簡単に出来るはずだ!拷問以上の拷問だぞ!)」


 実際それ以上の事をしている…暗殺者の手足の感覚と五感を奪う(鈍らせる)魔法で返り討ちにしてるのだ。

 視力、防御力等を失った(弱まった)暗殺者など腹パンで倒せる。そしたら見事失神、後は王城の目立つところに捨てるだけ。ちなみに、暴漢は全裸で捨てた。

 殺してないだけマシ、国の汚点にはなったがな


 ユリアスのとんでもない武勇伝に身体を震わせるアルベリクだった。


 そんな2人を乗せた馬車が帝都に到着した…

 が、彼女は今回も彼の手をとって降りなかった。彼が手を差し出す意味がわからず、抱えていたシルヴァを渡して降りた。

 アルベリクはシルヴァの顔を見た。子ギツネ(幼い精霊)もエスコートがわかってないみたいだ。むしろ何故アルベリクに渡されたのかわかってないようだった。 


 その後、ユリアスとアルベリク、シルヴァは帝都を案内され、帰る前にある店に案内されたのだった。

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