3.変わり行くもの
翌日、昼前
ユリアスは図書室を訪れていた。
前に借りた本を全て読み終えたらしく、違う本を探していた。
そして偶然図書室に来ていたアルベリクと会ってしまった。昨日の今日、お互い気まずい…そもそも喋る仲ですらない。
とにかく挨拶はしようと、ユリアスとシルヴァは頭を下げた。
「おはようございます皇太子殿下」
『おはようございます』
「あぁおはよう…」
「こちらにご用でしたか、すぐに退きます」
「いや、退かなくて良い」
「?? では選んだら行きますので」
「あぁ…」
ユリアスは本を選ぶのを再開させた。シルヴァも下の段の本を見てこれはどうかと話したりしていた。
『あっ。絵本でしゅ!文字を覚えるには絵本が一番だってクレイさまが言ってました!』
「シルヴァは話せるけど読めないの?」
『はい…読めないでしゅ…』
「じゃあこれも借りて一緒に覚えよっか」
『はい!』
「……」
アルベリクとユリアスが居るのは小説や絵本が並ぶ棚だ。
シルヴァと笑いながら選んでいて楽しそうな彼女…
アルベリクは本当にたまたま図書室に来ていたのだ。彼も読書を嗜む者、若者に流行る恋愛モノや異世界モノよりも史実を元にした物語を好む。
その時、選ぶのに夢中になっていたシルヴァがアルベリクの足にぶつかった。
『あぅ!…ハッ!申し訳ございましぇん!皇太子しゃま!』
「気にしてない、大丈夫か?」
『よ、汚してしまいましたぁ…』
「汚れてない。大丈夫だ、立てるか?」
『ヒック…ふぇぇん…ふぇぇん』
「ごめんな、大丈夫だから…」
ピーピー泣くシルヴァに嫌な顔せず抱き上げると、人間の赤ん坊をあやすように抱き抱えた。
「……(やっぱり優しい人じゃん、これからは変に警戒する必要はなさそうね)従魔が失礼しました」
「失礼じゃないさ、前の俺の事もある…泣かれて当然だ…。それに、この子は精霊といえ生まれたばかりの子なんだ、なおさら俺が怖いはずだ」
『ふぇぇん…ふぇぇん』
「どうやら俺じゃダメみたいだ、君が抱えてると泣き止むかもしれない」
「わ、わかりました…シルヴァ」
『ひっく…ゆりあしゅしゃまぁ…』
涙を流す子ギツネを抱え渡された。可愛い顔が涙と鼻水でべちゃくちゃだ、後で綺麗にしてあげよう。
「本は後で届けさせよう、君はその子を連れて浴室に行くと良い」
「ありがとうございます……失礼します」
『ごめんなしゃい…ごめんなしゃい…』
「大丈夫よ、謝らないで」
自分の事ばかり考えていて…彼やこの子の事を何も考えてなかった。
シルヴァは幼いのだ…。
幼いのに困ってる自分を助けてくれた、自分に会う為に小さな身体一つで【竜脈】から城に来てくれたのだ。
道中…怖い目にも遭ったはずだ。怖い思いもしたはず…
そして…怖がってた…彼女が警戒していた相手アルベリクにぶつかってしまった事で感情を抑えていたモノが壊れて泣き出してしまったのだ。
浴室に入り、シルヴァの顔を優しく洗った。
つぶらな瞳から大粒の涙が…彼が気にしてないと言ってもこの子には大事だった。
ベタつきが無くなったので風魔法で乾かすとふわふわに戻った。
まだ心が落ち着いてないようで…礼を言うとユリアスに背を向けた。小さな背中が震えてる…
「シルヴァ…私こそごめんなさい。私、自分の事ばかり考えていて貴方の事…何もわかって無かった…。小さな身体で頑張ってくれてるのに…私は…」
『……』
「…おいで、部屋に戻ろっか」
『ひゃい…』
シルヴァをぎゅっと抱き締めて浴室を出て自室に戻って行った。
☆★☆★
部屋に戻ってしばらくすると監視の女性が数札の本を持ってきてくれた。一番上にはシルヴァが見つけた子供向けの絵本があった。
本を受け取って机に置くとシルヴァに声をかけた。
「シルヴァ、勉強しよ?」
『!!』
「おいで、こうすれば一緒に読めるでしょ?」
ユリアスはシルヴァを抱き上げ、自分の膝に乗せて本を見させた。
恥ずかしいのかジタバタするシルヴァ、可愛い…
『お、重くないでしゅか?』
「重たくないわ。ぬいぐるみみたいに軽いわよ」
『で、でも…ぁぅ…』
「あの人も気にしなくて良いって言ってたでしょ、大丈夫。シルヴァが責任を感じる必要は無いわ。もし気がすまないなら私と一緒に謝りに行きましょ。そうすれば気が済むでしょ?」
『…わ、わかりました…』
その後、フリップに呼ばれるまで2人で絵本を読んで文字を覚えていたのであった。
ーーーー
この日の夜もユリアスはアルベリクと夕食を食べる事に…
しかし…これまでのような警戒はしてないが…アルベリクと仲を深める気は無かった。
2人が食事を終えると、シルヴァが恐る恐る彼の近くにやって来て、ごめん寝をした。この子の土下座だ…可愛いすぎる。
あまりの可愛さにアルベリクも笑ってしまった。彼はしゃがんでシルヴァを撫でた。
『あの時ごめんなさい』
「謝らなくても良いんだぞ、気付かなかった俺も悪かった。それで…トラウマを植え付けておいて言える事じゃ無いが…俺は怖くないか?」
『は、はい。皇太子でんかは怖くありません。お優しいかたでしゅ』
「そうか、ありがとう」
『わっ!』
シルヴァを軽々と抱き上げて可愛がった。
「君の従魔は可愛いな」
「はい。ちょっとした仕草でも可愛くて癒されます。精霊なので無性別だと思います。でも生別関係なくホントに可愛いですよ」
「そうだな」
『
深く考える必要は無かったのだ。
監視のダンと妻マリナのようにちょっとした事が切っ掛けとなって話すようになる…
2人を結びつけたのは共通の小説家、そしてユリアスとアルベリクの切っ掛けはシルヴァだった。
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