2.会話は大事
エルネストと別れた後、自室に戻ったユリアス。
とんでもない会話を聞いてしまったダンは汗を流しており、仲間から色々心配されていた。
「ちょっとダンさん、凄い汗よ?拭きなさいよ」
「隊長、何かあったんすか?」
「ちょっと汗でバレるだろっ」
「水飲んでこい!水!」
部屋のあちこちからバタバタと聞こえてきた。
『何かやってましゅ』
「気にしないで上げて、仕事だから」
『はい』
そう言いながら読書を再開させたユリアスだった。
数時間後、久々にフリップがやって来た。何時もの若者顔負けな発言をするフリップだったが…今日はそうでもなかった。
どうやらアルベリクと夕食を食べろとの事だった。
絶対に嫌だと言ったが…ナソスによって綺麗にされ連れていかれた。
まだ正式な婚約者ではないのだ、こんな扱いは困る。
でも連れてこられたからには対応しなくては…どうせ話す事はないのだ。
ちなみにシルヴァもいる。リボンを外したのでフリップ達には見えてない。子ギツネがついてきてる事に気付いていなかった。
ダイニングホールに入って席につくとアルベリクが後からやって来た。珍しい…
短い挨拶を交わして食事に口をつけた。
シルヴァに食事は不要、だから連れてくる必要はなかったのだが、この子が存在するだけで安心する。
黙々と食べてると…アルベリクが声を掛けてきた。
「今日は何をしていたんだ?」
「今日は散歩をしたり読書をしていました」
「暑くなかったのか?」
「全然平気です。色々工夫してるので」
「そうか…」
……会話が続かない、何なんだ!
「(何急に!?何回か食事してるけど1回も話しかけてきた事無かったよね?!…皇太子なりに頑張ってるようだけどさ…無駄なんだよね。関わりたく無いからさっさと出よ)」
「(やっぱりダメか!?いきなり興味無いヤツに話しかけられたら…良い気はしないよな…。でも外に出れて嬉しそうだっから良かったが…)」
18歳の自分よりも大人な彼女、いくら彼女への誤解が消えたからと言って…彼女にアルベリクへの気持ちが生まれたとは限らない。未だに興味が無いよう…いや、関わろうとしてないのだ。
自業自得だから弟や両親に相談も出来ない…ケイオスも同罪なのでどうしようも無い。
アルベリクが何かを考えてる間にユリアスは料理を食べ終えてデザートを食べていた。
「!?(早くないか!?いや、俺も同じような事をしてたんだ、文句を言う資格は無い。避けられて当然なんだ…)」
「(申し訳ないけど…関わりたく無いんだよね。皇太子が悪い人じゃないのは分かるんだけどさ、私に結婚する気がまず無いから…何かごめんなさい)」
皇族が変わってくれたのは良かったが、未だに騎士や使用人による嫌がらせは続いてる。腐った食材の料理、部屋の荒しや侵入…ワザとぶつかって来たり、嫌な発言を言ってきたりと…変わって無かった。
しかし理由はわかってる。騎士、使用人達がユリアスに嫌がらせをしているのは…ユリアスが悪女だからじゃない。
皆…エリスを推してるのだ。エリスに皇太子妃になってほしいからさっさと消えろ!と言ってるのだ。
これを言う必要は無いので彼に伝えなくて良いだろう、だって全て水の泡になるから。
気が付くとデザートを食べ終えてたユリアス、気付かずに食べていたせいで…食べた感じがしなかった。
アルベリクを見ると、今デザートを食べていた。
改めて彼を見ると…かなりの好青年だ。これはエリスや多くの女性が惚れてしまうはずだ。イケメンだが…ユリアスには効果は無かった。
ミアなら…どうだろう。彼女の好みはわからない…彼女にとって男性は都合が良い存在なのだ…良いカモになるだろうと思って関わってくるのだから…
エルネストがミアの洗脳に掛かる事なく悪事を見抜いたのがホントに凄い…が、会ってないからこそ出来たのだ。
もしミアが帝国に来ていたら…エルネストはミアの餌食になってたかもしれない。
どうすれば貴方の想い人のミアが真の悪女だと言えるだろう。和平交渉の条件にする程ミアに好意を寄せていたのだ…簡単には解決しない。
洗脳が解け始めてるとはいえ、ミアへの想いが消えるとは限らない。
ヤキモチではない、心配をしているのだ(本当に)。
うぅんと険しい顔で悩むユリアス…険しい顔を見たアルベリクは不安しか無かった。
「(ヤバいヤバい…すげぇ嫌そうだ。早く部屋に戻してあげよう…)」
丁度デザートを食べ終えたので席を立つことが出来る状態になった。
しかし気まずいのか…どちらも立とうとしない。
「(何で今日に限って座ってるのよ!?何時もなら食べ終わったらすぐに帰ってたじゃない!)」
「(どうすれば良い!?部屋まで送るか!?いや、それだともっと気持ち悪るがられるだけだ。そういうのはもっと仲良くなってからするべきだ!)」
2人が苦しんでる時だった。
「きゃん!」
「「!!」」
シルヴァがきゃんと鳴いた。我に返った2人はシルヴァを見た。青いドレスを引っ張る小さな手が可愛すぎる…
「シルヴァ…」
『お部屋に帰りましょ ユリアスさま♪』
「そうね……お先に失礼します。おやすみなさい」
「あぁ…おやすみ」
彼女はシルヴァを抱き上げてダイニングホールを出て行った。
残ったアルベリクは…はぁ…と大きなため息を吐いた。
「はぁ…子ギツネに助けられるとか…情けなさすぎるだろ…」
「もっと楽に接すれば良いのでは?」
「それが出来たら苦労しない…16にしては大人び過ぎてる…だから対応が難しいんだ…」
「確かに大人びてますね…」
同じ頃…部屋向かってる途中…
「ありがとう、シルヴァ」
『お役に立てて良かったでしゅ。あまりにも暗い空気だったので、ボクが我慢できましたせんでした』
「そうだったの…でも助かったわ」
『エヘヘ♪』
ギュッと子ギツネを抱き締める彼女だった。お互い笑っていて幸せそうだった…
★☆★☆★
それぞれの入浴が終わり、ユリアスが就寝した同時刻…アルベリクの部屋にはダンがいた。
深刻な顔で今日の報告をした。ユリアスとエルネストの怪しげなやり取りについて言おうと思ったが…言えなかった。言ったら怖いからだ…
何かを察したケイオスは自分に話して見ろと言って耳を近づけた。
それは…とんでもない発言だった。
「ユ、ユリアス王女殿とエルネスト皇子殿下は皇太子殿下と聖女エリス様のご結婚をお望みのようでして…意気投合した2人が良からぬ事を企んでるようです…」
「はぁ!?!」
「っ!?」
「失礼、他にはなんと?」
「あと…王女殿には何やら結婚したくない理由があるみたいでして…」
「えっ?それホントですか?!」
「はい…皇子殿下にだけ聞こえるように話していたので自分は聞けませんでした…」
「えぇ…うむ、これは殿下に言わない方が良いですね…ショックを受けてるでしょう…」
「おい、ケイオス…ダンは何と言ったんだ」
「…殿下は聞かない方が良いです。言うのであらば…自業自得…です」
「どういう事だ…」
「自業自得、それしか言いようがありません」
「なんだよぉ…それぇ…」
報告が報告じゃない…本当に困った事になった…
「っ!…ダン!あなた既婚者でしょ!何かをアドバイスを与えてあげなさい!」
「えっ!?ですが…」
「恋愛ではありません!異性と接する為の方法です!初対面からのです!」
「えっ…えぇ…そうですね…」
…ダンはポツリポツリ話し出した。まさか既婚者だったとは…
「自分と妻『マリナ』は元々…余り者同士だったんです。お互い騎士ではありましたが…他の者よりも優れておらず、遅れていました。
余り者同士笑われていた頃、初めてマリナと話そうとした時に怯えられ避けられていました。それがずっと続いてましたが、少しずつ話すようになり、お互い趣味が同じだったり、好きな小説が同じだったりと…共通する話題で盛り上がって、気付いた時には彼女が隣にいました。そして告白し、後に結婚しました。
結論からして、無理やり趣味を合わせる必要はありません。自分と妻は偶然同じで盛り上がったので、真似しないでください。
大事なのは会話だと思います…避けられても少しずつ話すようになった自分達のように…少しずつ警戒を解いて行くのが大事なんだと思います」
「少しずつ警戒を解いていく…」
あれは警戒されてるのではなく…貴方に興味ないです。関わらないでくれと言ってるのだ…ダンのように上手くいく可能性は低い。
「だが…彼女は俺に興味がないんだ、当たり前なんだ…お前と結婚しないと言った男に興味がわく訳ない…」
「うわっ…それはダメですよ…」
「ですが…やはり話さないと何も変わりませんよアルベリク様、王女殿下と話さないと…何も起きず期限が来てしまいます」
「っ!…」
アルベリクはユリアスと話がしたい…だが彼女は関わりたくない。嫌がる彼女と無理やり関わらせる事はしたくない。
自分の失態で招いた事に苦しんでるアルベリクだった。
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