第一章 2部

1.同志は身近な所に 1

 六の月の半ば、暑さが出てくる時期だ。


 本格的な夏はまだ始まってない時期、この先…苦しくなるだろう。


 ユリアスは自室で涼しい顔をして図書室の本を読んでいた。

 風と氷魔法を上手く使って自分だけ涼しくしていたのだ。暑苦しい毛並みをしてるシルヴァだが、精霊で眷属なので暑さも寒さも感じない身体をしている。今日も青いリボンを着けていた。


 相変わらず帝国の文字は難しい、一文字一文字意味を調べながら読んでるが…これが楽しいようだ。


 フィリスタル王国とは違う娯楽小説で、身分差を描いた恋愛、コメディーやちょっとアレで大人なモノなど…結構面白い。


 区切りが良いところまで読み終えると栞を挟んで閉じた。

 背を伸ばしてシルヴァに声をかけた。


「ん~ さてと、シルヴァ外に行こうか」

『お散歩でしゅね!』

「そうよ」

『わ~い!今日は何処を歩きましゅか?』

「庭園の近くまでかな、今しか咲かない花があるみたいだから見に行かない?」

『行きたいでしゅ!』

「フフッ じゃあちょっと待ってて」

『はい!』


 ユリアスは白いブラウスに黒いスカートを着ている、魔法で涼しくなってるので暑くない。

 収納魔法で大事なモノを入れ、片付けを終えてシルヴァと共に部屋を出た。

 同時に、姿を消していたガタイの良い監視『ダン』が現れた。


「今日は庭園の近くに行くわ」

「承知した」


 今でも使用人が使う部屋にいるが、これがユリアスに合ってる。

 アルベリクはちゃんとした部屋を用意したと言って見せたが…残念ながら色々使いずらかったので断った。

 固いベットや広すぎない空間など、色々こだわりがあるのだ、あの小屋がまさに理想だ…


 ーーーー

 庭園の近くに来てお目当ての花を見つけた。


「あっ、これの事ね」

『良い香りでしゅ~ 綺麗でしゅね』

「これは今の時期にしか咲かない『レインリリー』梅雨を好む百合です。貴族の使う香水の中で一番人気なフレーバーです」

「でも咲いてる期間は短いでしょ?」

「はい。珍しく期間限定のモノが一番人気なのです」

「あら、妙に博識ね」

「母と祖母が調香師でして…花にうるさい方々なのです」

「なるほど」



 見た目からは想像できない知識を持つダン、このようにちょっとした情報も教えてくれる。

 これまでダンのいた場所はアルベリクの従者ケイオスだった。

 ケイオスがアルベリクの従者に戻るのと同時に任されたのが彼だ。

 見た目は強面だが心はとても優しい大男、最初はシルヴァも怯えていたが、彼が優しい男だと知ると怯えなくなった。



 近くのベンチに座って休む事にした。


「シルヴァ殿、ジャーキーだ。うまいぞ」

「きゃんきゃん!(犬じゃないでしゅ!)」


 シルヴァ、犬じゃないと言っても尻尾を振ってるぞ…喜んでるじゃないか。可愛いな


「シルヴァは子ギツネ…精霊なんだけど…」

「狩人の祖父がペットのキツネによく与えていたので、多分喜ぶと思います」

「そうなのね(シルヴァは精霊だから食事は不要なんだけど…)」

「クンクン…パクッ きゃん!(美味しいでしゅ!)」

「おっ、気に入ったか?うまいだろ」

「きゃん♪(とっても美味しいでしゅ!)」


 お互い喜んでるようだった。


 なんて平和な時間だ…放置は本当に最高だ。


 その時だった。近くのガボゼから笑い声が聞こえた。皇族専用の温室ではないが…居るとしたら一人だけだ。

 そちらを向いてみると予想通りエリスが誰かと茶会をしていた。相手はエルネストのようだ。何を話してるのかは全く気にならなかった。

 ユリアスは向き直ってシルヴァとダンを見ていた。相変わらず戯れていた…仲良しか。



 ーーー


 庭園の近くを一周して帰ろうとした時だった。エリスが帰るようでエルネストが送っているのが見えた。

 エリスが去るとエルネストと目があってしまった。逃げようと思ったがエルネストの方が先だった。


「隠れて盗み聞きか?相変わらず性悪だな」

「まさか、こちらは散歩をしていただけ、たまたま目に入ってしまっただけです」

「フンッ、口では何とも言える。兄上が色々してくれてるみたいだが無駄だぞ。皇太子妃の部屋はエリスが使うべきだ。お前は早く消えるべきだ」

「(それが出来たら既に消えてるわよ。出来ないから居るのよ、でも同じことを考えてるそうだし…彼、使えるかも)では少しお話しませんか?皇子殿下にも悪い話じゃないですよ?むしろ、私もを考えております」

「は?同じ事?…なんだよ」


 片付けられたガボゼに戻ってエルネストと話した。

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