14.崩壊の始まり
一方…ユリアスが帝国に嫁いで1ヵ月が経った頃のフィリスタル王国
王国はどこか荒れていた。
「おい締め切りは今日だぞ!終わったのか!」
「も、申し訳ございません!まだです!」
「ちょっと此処掃除したの?!」
「誰も手が空いてないのよ!アンタがやりなさいよ!」
城の至るところからギャーギャー言い争う声が聞こえる。
「大変です陛下!リアム様!他国に輸出する鉱石が採れないそうです!」
「なんだと!何がなんでも採れ!」
「何処の鉱山も無理だと行ってます!石の質が悪すぎて採掘するだけで砕けるそうです!」
「クソ!何が起きてるんだ!」
レグユアスとリアムの机には積み重なった書類の山…ただでさえ公務で忙しいのに…リアム達は毎日仕事に終われていた。
お互いの婚約者とも時間が取れてないそうだ…
そして…ミアは…
「はぁ…お父様もお兄様も…そしてルアン様もお仕事ばっかり、ルカはお母様とベルの所にいるみたいだから邪魔出来ない。
今日はドレスを作る予定だったのに、デザイナーが来れなくなったそうだし…はぁ、何なのよ」
これまでユリアスにやらせていたのが仇となり、リアムや使用人、大臣達が一部の仕事に手こずっていた。
危険を感知したルカはいち早くベルジュの元に避難した。赤ん坊は純粋な心の持ち主、まだ汚れを知らないからミアの洗脳も受けてない。
洗脳から抜け出せてるレナータは小さな息子達と共にいた。
「お母様…ベル、本当に嫌な予感がするよ…アイツは嫌いだけど…アイツが居なくなったからこうなったの?」
「わからないわ…でも、あの子は色んな人の手伝いをしていたみたいだから…」
「あぅ~?」
すぐそばまでにやって来てる最悪な事態に身構えるルカとレナータ、何も知らないベルジュだった。
そして戻ってミアは…刺繍を始めていた。
しかしどれも…綺麗なモノとは言えなかった。
何度も針を指に刺し、治療して再開させて…を繰り返してる為作品は一向に出来上がらない。
「痛っ…あーもうっ!こんな事ならお姉様のボロ小屋から全部取ってくれば良かった!
あんな汚い小屋あったら嫌だって言ったらお兄様が燃やしてくれたけど、その時に一緒に燃えちゃったのよね…はぁ、何してるのよ…」
もうわかる通り、ミアは何も出来ないのだ。
ユリアスが言っていたように、ミアが周囲の愛を独り占めしたように、ユリアスは沢山の時間を得た。おかげで知識、才能を開花させてしまい…国最強な存在でもあった。
そんな存在をミアは追い出した。
居場所を与えず、永遠に苦しみを与えて続けるつもりだったのか…彼女がいた小屋を燃やした程…
生まれた時から人々に愛され、愛されて育った王女ミア。対するユリアスは冷遇されて育ったが何でも出来る人間であり、神秘の存在の真の祝福を与えられた王女だった。
ミアが欲しいものは何でも手に入る。
しかし弱点があった…それが何も出来ない事、残念ながらミア本人はこの事に気付いていない。
10年前、様々な国の王族、皇族がフィリスタル王国に来た時の事。
ユリアスの小屋に忍び込んだミアは、プロ並みの刺繍が縫われた数枚のハンカチを見つけ、それを勝手に持ちだして自分が縫ったと言って王族達に渡した。
その中には…10歳だったアルベリクがいた…。
今もアルベリクの手元にある刺繍のハンカチは…ユリアスが作ったモノだ。
縫った本人だから全く同じ刺繍が出来るのだ…
それだけじゃない…
ドレスを作る時はユリアスを呼び出して、地味なドレスを着せて自分は華やかなモノを着る。ユリアスは引き立て役で当て馬、絶対に華やかなモノなんか着させない。
誤算だったのは…ユリアスがパンツスタイルを着こなせる事だった。
パンツ系を絶対に着ないミア、それらをユリアスに着せたら…凛々しい王女となった。
それが気に食わなかったが人前では【優しいが被害者な妹】を演じなくてはいけなかったミア…悔しくて仕方がなかっただろう。
そして兄や父、使用人、大臣の仕事をやらせた…自分に宛てられた手紙の返事の代筆もやらせたりしていた。
そのせいか…ミアの文字は特別美しい文字ではなく…ちょっと癖のある形だ。
それに対してユリアスは幼い子供でありながらも大人顔負けな美しすぎる文字をしていた…
ユリアスがどんなに優れていても愛され、愛を受けとるのはミアだけ。
愛だけはミアのモノ…
そう思っていたのに……
「何なのよもう!!お姉様なんて居ても居なくても変わらないのに!何で何もかも上手く行かないのよ!!
愛されてるワタシが憎いはず!羨ましいはず!!心が嫉妬と怒りで染まってる筈なのに!なんであんなに余裕なのよ!!」
徹底的に居場所を奪おうとアルベリクに偽りの情報を送ってるが…もう意味はないだろう。
「気に入らない!気に入らない!あんな気持ち悪いモノ持って生まれてきたクセに!なんで幸せそうなのよ!放置されて喜んでんじゃないわよ!
アンタの居場所なんて無い!アンタは永遠にワタシの下で這いつくばって生きていく運命なのよ!運命なのに!!それがお似合いよ!ああぁぁ!!もう!」
乱暴にぬいぐるみを投げると、壁に当たった直後綿が舞った。
それだけではミアの怒りは収まらず、部屋にあった花瓶や雑貨を投げて部屋を荒らした…。
侍女が来た時には…変わり果てた部屋にミアがいたそうだ…。
「アハッ…良いこと思いついちゃった…」
…暗い部屋で不気味な笑みを浮かべるミアだった。
フィリスタル王国の崩壊が始まった…嫌われ王女によってではなく…自分達の手で起こしてしまったのだ…
魔物の凶暴化が増えてきてる今…厄災が起こるのも時間の問題だ…
こんな国の為に戦ってくれる勇者が現れない限り…この国は救われないだろう。
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