13.変化
その後、馬車に乗って【竜脈】を離れた。
ユリアスの膝には疲れて眠ってるシルヴァ、彼女は優しく撫でていた。
アルベリクは彼女の頭にある髪飾りが気になっていた。
『古龍様の力、鱗、そして【恩恵】を持つあのお姫様こそが真の祝福を持つ
血と力しか与えてないオレや、その程度しか貰ってない人間が粗末に扱っちゃいけない存在…祝福を持つ人間達の頂点に立つ存在だ』
「(恩恵か…)」
確かにクレイはユリアスを我が子のように大切にしていた。
ずっと彼女の訪れを待っていたかのようにも見えた…。
「今日はありがとうございました」
「っ!あ…いや、父の命令だからな…」
「(??どこか弱々しいな)」
同じ祝福を得る存在だが…真の祝福を与えられたユリアスに比べ、自分達は弱すぎる…
粗末に扱っちゃ駄目だと言われても遅い…彼らも既にミスを犯してしまったから…
「…その、これまで俺は…ずっとユリミア王女からの情報ばかり信じ込んでいた…。だが…その…」
「……」
上手く話せない彼を不思議に思いながらも静かに聞いていた。
「……すまなかった」
「!?(えっ!?なんか謝ってきたよ!?)」
「俺は現実を見れてなかった。ずっと真偽のハッキリしないモノを鵜呑みして貴方に無礼な事ばかりしていた」
謝罪で化けの皮を剥がそうとしてるようには見えなかった。本当に謝罪してるようだった…。
ユリアスは困っていた。
確かにミアの情報を鵜呑みしていたのは許せないが…それは仕方がない事だ。彼はミアが好き、ミアとの結婚を望んでいたのだから…想い人の発言を信じ込んでしまっても仕方がない。
「頭を上げてください。謝る必要はありませんよ」
「だが!」
「殿下がミアの発言を信じ込んでも仕方がありません。
そもそも私は何も気にしてません。ただ時間を潰す楽しみが無いのは辛かったですが…
そうですね、部屋の外への許可を貰えれば全部許します」
「なっ…それだじゃ済まされない事をしたんだぞ?!」
「気にしてませんから、殿下も深く考えなくて大丈夫です」
「いやいや!気にするべきだ!いくら冷遇されるのに慣れてるとはいえ、何故平気なんだ!!」
「平気?勘違いしないでください。私は気にしてないと言ったのです。怒ってないとは言ってませんよ」
「ヒッ!…」
そうだ、ユリアスは優しくない。舐めてかかれば返り討ちに遭う。
「怒ってますが、顔に出してまで気にする事ではありません。むしろ私に放置は嬉しい事です」
「いやいや…気にするべきだ…」
「気にしてたら疲れるだけです。私はもう疲れたんです」
「………」
愛された事がないユリアスは愛がわかない、しかしクレイやシルヴァに大切にされてる事、大切にしなくてはいけない事はわかってるようだ。
だが人間は別だ。いきなり謝罪されても気にしてない事への謝罪なんて必要ない。
「…時間を潰す楽しみが欲しいって言ってたな…」
「あっ、はい。刺繍も読書も飽きてきたので、外に出て身体を動かしたり図書室に行ったりしたいんです。流石に同じ本は飽きますから」
「そう…だな…」
散々監視達から娯楽を与えるべきだ、暇すぎて退屈そうだと言われてきたが…頑として与えなかった…
彼女から悪事を企む様子など無かった…いや、そもそもそれすら無かった。
全部…彼女を苦しませる事しかしていなかった…
「…監視を付けての利用なら許そう」
「!!本当ですか!ありがとうございます!」
「(ちくしょう…外出許可に負けるとか…自業自得だよな…)」
ユリアスの信頼を得るのは簡単ではない。
彼女は自分に興味がない…欲しいのが部屋の外に出れる許可…
…今更だが色々話さなくてはいけない……
まだ苦手意識を持たれる方がマシだ。でも興味無い人間からのアプローチはウザイだけだ…まさに後者の状態。
ユリアスの信頼を得られれば少しは変わるかもしれない…
★☆★☆
皇城に着いたのでイルベタスに報告しなくては、ユリアスはアルベリクが立つ前に馬車を降りてしまった。残されたアルベリクは…項垂れていた。
彼を見たケイオスがビックリしたが…どうすれば良いのかわからなったようだ。
先に城に入ったユリアスは騎士にイルベタスと話したいと言っていた。
しかし騎士は居ないと言って通さなかった。嘘をついても無駄だ、イルベタスは部屋にいる。出ていく時、彼女達が帰ってくる時間に部屋で待ってると言っていたのだから。
嘘をつくなと言っても騎士は退かない。シルヴァが吠えても睨むだけ。
その時、遅れてやって来たアルベリクとケイオスが目の前のやり取りを目にすると怒りを露た。
「今すぐ退け!彼女を部屋に入れるんだ」
「なっ!?こ、皇太子殿下!?しかし!コイツは!」
「黙れ!」
「「ヒッ!!」」
無礼な騎士達は圧に負けて逃げて行った。
「ありがとうございます、助かりました」
「…無礼な
「謝るのは後だ、入るぞ」
「はい」
イルベタスの書斎に入ると、彼は深刻な表情をして待っていたか。
「待っていたぞユリアス王女…アルベリクもご苦労であった。…はぁ…すまなかった」
どうやら部屋前のやり取りが聞こえたそうだ、彼が動こうとした時にアルベリクとケイオスが来たそうだ。
「それで【竜脈】での事なのですが」
気にも止めずユリアスが報告をしようとした時だった。
「ユリアス王女…報告はしなくては良い」
「なっ、何故ですか!?私の報告は信用出来ませんか!?」
「そうではない、今回の事で改めてわかった…
「へ?」
先程の騎士の事か?それとも態度が悪すぎたか…
しかし報告するようにと言われたのだ…どうすれば良い?
「本当にすまなかった。我はクルシュの言う通り…先走り過ぎていた。
監視と言ってアルベリクを同行させてしまった…」
「(あぁ…なるほど、皇帝陛下は私と皇太子の仲を深めたかったのね。陛下なりの気遣いだったのね)」
「我はアルベリクと話して欲しかったんだ…。そしてアルベリクにも現実を見てほしかったのだ…
そなたが【竜脈】に行きたいと言った時、口ではあぁ言ったものの…本当はそなたとアルベリクの仲を築けるかもと思っていた…。だからアルベリクに監視を命じ同行させたのだ」
「そうでしたか…」
皇帝と言っても子を大切に思う父なのだ、息子に現実を見て欲しかった…誰よりも早くミアの洗脳から抜け出せたイルベタスだ…。
そして…誰よりも早くユリアスが悪女じゃないと気付いた人物だ…。
「……」
「何か大きな情報を得られたのだろう。それはそなただけが知っておくべきだ。部外者が聞いて良い情報ではないから…。
そしてアルベリク、お前も何か得られたのだな…」
「あぁ…エンブレアスに会えた」
「おぉ…彼にか、何と言っていた」
「……」
アルベリクはエンブレアスとの会話をイルベタスに話した。
話を聞いた彼は…涙を流した。
「そうか、祝福により彼の心には大きな傷が出来てしまったのか。しかし彼のおかげで国が存在している、感謝しなくては…道を踏み外すな…か」
「……己の愚かさが身に染みました…」
「それが分かれば良い…」
『あのタイミングでエンブレアスしゃまが来るとは思ってませんでした』
「偶然?」
『だぶん偶然でしゅ。クレイさまとエンブレアスしゃまは師弟のような関係もありましゅから…ホントにたまたま来たんだと思いましゅ』
確かに親と子というより…師弟関係に見えた。【竜脈】の中で最も強く一番年上なのは間違いなくクレイニルパルニゼーレだ。
エンブレアス以外にも弟子がいても可笑しくないな。
その後、簡単な報告をして部屋を出た。
また、イルベタス本人からの許可も貰えたので部屋に閉じ込められる事はないだろう。
★☆★☆★
翌日、今日から部屋から出れる。ケイオスは本来の持ち場に戻ったので別の監視が着いた。強面のガタイの良い男だ、ユリアスに一番近い所にいるので良からぬ男は寄ってこれないだろう
これでは護衛なのか監視なのかわからない…
部屋を出て図書室に向かう時だった。
アルベリクの弟エルネストと出会ってしまった。
「なんだよお前、兄上と出掛けたからってイイ気になるなよ!父上も騙されてる!お前みたいなのよりもエリスがお似合いだ!」
「そうですね(同感よ、何故自分なんかに構うのかな)」
「はっ強がるなよ。お前、エリスに居場所を取られて悔しくて堪らないんだろ?」
「(ん?エリスに?ミアじゃなくて?)」
「なんだ?悔しいなら言い返してみろ!」
「…(聞いてみよう)何故ミアではなく、エリス様が相応しいと?」
この発言にエルネストは胸を張って堂々と答えた。
「はっ、馬鹿め。他国の愛された王女なんかよりも自国の人間の方が信用出来るからに決まってるだろ!僕は嫌われ者のお前が来ようが愛され王女が来ようが同じ事を言うね!」
「!!」
まさかの満点回答、エルネストとは気が合いそうだ。
感動のあまりエルネストの手を掴んでしまった。
「ですよね!やっぱり殿下も同じ気持ちでしたか!!」
「は?え?何?」
「お、王女殿?」
「いや~殿下とは気が合いそうです!今度話しませんか!?」
「は、はぁ!?なに言っての!?お前兄上と婚約するんだろ!」
「いえしませんが」
「はぁ!?」
コロコロと表情を変える彼が面白い、婚約しないと言うと何故かショックを受けてるように見えた。どっちなんだ?
エルネストは顔を赤くして逃げるようにも去って行った。
もっと話していたかったが…しょうがない。
その後、図書室に着くと興味ある本を集めて部屋に戻って行ったのだった。
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