白龍の祝福と… 2
クレイはある事を口にした。
「実は近年、付近の魔物の凶暴化が増えてきてる。同胞達によって被害は出てないが、いつ厄災が起きても可笑しくない状況だ」
「厄災…魔物による侵略が…」
「魔王は各地の勇者が対応するから良い、だが厄災は自分達で対応しなくてはいけない。
しかし問題がある…
「何故ですか?…」
「吾は古の時代から生きる古龍、力はそのままだが肉体は老いてる。【竜脈】に入れば問題はないが…離れると力が弱くなるのだ」
「??」
体がダメージを受けるのはわかるが、なぜ力が弱くなるのだろう…
ユリアスがそう思ったのを読んだのか、彼は続けた。
「悪しき存在による力だ。我々神秘の存在と悪しき存在は弱点同士なのだ」
「なるほど…つまり、肉体にではなく力そのものに攻撃されてるような感じなのですね」
「そうだな、ドラゴンにとって鱗は鎧だ。悪しき存在の攻撃すら弾いてしまうから肉体は無事だ。しかし力までは防げない…鱗が鎧な理由はわかるな。お前自身も体験してるはずだ」
「はい…浄化の炎の火炙りを受けても全く熱くなかったのは鱗のおかげでなんですね」
「そうだ、そしてお前は全身に鱗を持ってる。我々の攻撃だけでなく、悪しき存在からも身を守れるだろう。
…此処まで言って悪いのだが…」
「なんでしょうか?私に出来ることがあれば協力いたします」
「…与えた吾が言うのもズルいと思う、だが…実は鱗と力を半分返して貰えないだろうか」
「!!…はい。お返しいたします」
先程の魔物の凶暴化の事もある、クレイは【竜脈】の中で魔物と戦ってるのだ。鱗は鎧、彼女に鱗を全身に与えたというのは、自身の鎧の半分以上を彼女に与えたと言うことだ。
人間にドラゴンの力は有り余り過ぎてる。今は大丈夫だが、暴走しても可笑しくない…返却して弱めるのも大事だ。
「感謝する、お前が身につけた力はお前のモノ。あくまでも吾の力を返してもらう。
そして鱗は…身体の一部と顔のをいただこう。顔だけでもかなりある、苦労しただろう」
「いいえ、ちっとも。確かに色々言われてはきましたが、この鱗には沢山助けられましたから」
「そうか、それは良かった。お前に祝福を与えて正解だったようだ」
「!!」
クレイの手がユリアスの顔に触れると、たちまち顔の鱗が彼の手に吸い取られ、綺麗な素肌になって、胸部、背中、左腕の鱗も失くなった。
『あっ!クレイさまの背中や首、腕に鱗が!』
「!!」
「本来有るべき場所に戻ったのだ、変な事ではないぞシルヴァ」
『わっ!ちゅめたい!(つめたい!)』
鱗が戻った左手で顔を触られ、思わず冷たいと言ってしまったシルヴァ、反応をみたクレイは満足そうに笑った。
一方、ユリアスは精霊が用意した鏡で…鱗が消えた顔を見た。
白い肌に金色の瞳が目立つ…鱗は何処にも無い。
どこかミアに似てる…双子だから当たり前か。
「(わぁ…これが私?!やっぱり双子だからミアと似てるわね…鱗の有り無しでこんなに変わるのね)」
クレイに約半分の力と鱗を返した事で、鱗が有るのは右腕、両足となった。力と鱗が失くなっても力が消えた感覚は一切ない。
「お前は吾の力を全く使っていなかった。使ったとしても最初だけだ。これまでの魔法も体力、戦力等の威力は全てお前の努力が生んだ結果だ。吾の力を使ってる気だったようだが使ってない」
「えっ!?」
まさかの発言に驚く彼女、本を読んで初めて鱗の正体を知って魔法を使った時の事だろう、それ以降は全てユリアス本人の力だったとは…
ずっと鱗の力だと思っていた…
つまり…鱗が無くてもユリアスは全てにおいて強かったと言う事だ。勉強も魔法術も戦術…剣術も……そして心も…何もかも強かったのだ
クレイの祝福によって威力は高まったが、本人は自分の力だとは思ってすらいなかった。
「これでまた戦えるな、礼を言うぞ」
「いえいえ、礼を言われる程では…本来の持ち主に返しただけです」
「祝福の一部の返却を受け入れる者だと滅多にいないぞ、皆が返したくないと怒鳴るぞ」
「えっ!?そうなのですか!?」
「まぁいい、これでお前も吾もちょうど良くなったはずだ」
確かにそうだ、有り余ってた力が少し減ってちょうど良く感じる。でも力が溢れるのを感じる…調節しなくては…
クレイは何かを作り出してユリアスの髪につけた。
「お前に更なる祝福が訪れる事を祈る、お前は自分の望む道を進み続けろ」
「!!」
ユリアスの全てを見ていたクレイは彼女の望みはわかっていた。
自由になるための奮闘を見守ってくれるそうだ…
髪には白い花の装飾がついた白銀の髪飾りが…所々緑色の宝石が散りばめられていた。
翡翠の涙ではないがクレイがユリアスの為だけに作った物なのは確かだ、大事にしよう。
その後、クレイはシルヴァを正式にユリアスの従魔として授けた。これでずっと一緒だ
時々姿を見せに来いと精霊達に言われながら神殿を出た2人だった。
★☆★☆
数分前…
アルベリクとエンブレアスが何かを話していた。
「はぁ…何であの時…周りの声を無視して恥ずかしい事ばかりしてたんだろ…」
「……」
「オレな、炎なら誰にも負けないって思ってたんだ。だから調子乗って色んな事してたんだ。
昔、人間に何かを与えるのがドラゴンとかの間で流行ってたんだ。でも本当は強い存在だけがやって良い事だったんだ…そうとも知らずに調子乗ってたオレはお前のご先祖様に血と力を与えたんだ。
オレ…強いくないのに…今思うとマジで恥ずかしいわ…」
「…でも感謝してる、そなたの浄化の炎は素晴らしいぞ」
「ありがとな…」
恥ずかしい過去も語ってくれる彼、アルベリクは慰めながら色々聞いていた。
「それでな、調子乗って翡翠の古龍様にも勝負を挑んだ事があってな…ジジィだから余裕だと思って挑んだら…ボッコボッコにされて説教も受けたんだ。
血と力を与えるだけじゃ祝福とは言わないってな」
「……そなたにとっては祝福のつもりだったんだろ?」
「あぁそうだよ…強い祝福は後継されても薄くなることはない。
でもオレの祝福はどうだ?アイツの赤髪も金色の瞳は今は何処にもない…
受け継がれてるのは薄まった力と血だけ…不老不死ですらないだろ?」
「…確かにそうだな」
確かにそうだ、ドラゴンの血や肉を口にすると不老不死になると言われてる。しかし皇族は不老不死ではなく、戦闘力に優れたの人間の国となってる。
老いが遅くなってる事もなく…
戦闘力が上がったくらいだろう…
「はぁ…アイツの末裔に会えて嬉しいけど…やっぱり申し訳ないよ…
覚えとけ、真の祝福ってのはな血と力を与えられることじゃない。
…古龍様の力、鱗、そして【恩恵】を持つあのお姫様こそが真の祝福を持つ
「真の祝福…」
「そう、血と力しか与えてないオレや、その程度しか貰ってない人間が粗末に扱っちゃいけない存在…祝福を持つ人間達の頂点に立つ存在だ」
「……」
あまりにも遅すぎる…1ヵ月も放置兼監禁していたのだ…挙げ句の果てには結婚しないと罵倒する始末…
「とにかく…やっちまった事を悔やんでも遅い。これからどう対応するのかを考えろよ。
既にやらかしてるオレが言える事じゃないけどよ、お前はまだやり直せる。時間はかかるかもしれないが道だけは踏み外すな…絶対に」
「あぁ…肝に銘じる」
皇族が尊敬する存在からの忠告…彼は己の失態で大きなミスを犯してしまった…
小さな祝福は後継されても
悲しいが静かに消えてしまったのだ…
帝国に残ったのはエンブレアスの浄化の炎と凄まじい炎だけ、人間の手で強化された戦闘力…
本当に現実を見なければならない…何が本当なのか、何が嘘なのか…
何が善で悪なのか…見極めないといけない…
なぜ…ミアの情報を信じ込んでしまうのか…
その後、神殿を出てきたユリアスを見た2人は顔の鱗が無いことに驚いた。
アルベリクは…改めて思ったのだった…
彼女は本当に悪事を働いていたのかと…
当たり前だが…鱗が消えた彼女の顔はミアにとても似ていた…
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