竜脈 2

 朝早くから出発して数時間…現在は昼の12時過ぎ、予定どおり竜脈付近に到着した。


 ここから先は歩いていくしかないそうだが余裕だ。今日のユリアスは何時ものワンピースではなく凛々しいパンツスタイル、動きやすさ重視で選んで正解だった。


 馬車を降りようとした時、アルベリクが先に降りて手を差し出してきた。



「??(何その手?)」



 しかし恋愛や社交のマナーがわからない彼女には何の手なのかさっぱりわからなかった。

 ユリアスは…抱えていたシルヴァを渡して自分で降りた。これを見た騎士達は混乱していた。


「………」

『何でしゅかね?今の』

「何だったんだろうね(えっ?何?何で皆混乱してるの?)」


 シルヴァはぴょんとアルベリクの手から抜け出て案内を始めた。



『こっちでしゅ!』

「あっ!待ってシルヴァ!危ないわ!」

「なっ!おい!勝手に走りだすな!」


「色々やばいな…」

「アルベリク様のエスコートがわからなかったのか?」

「多分そうじゃない?」

 

「おい…はぁ、待って…はぁ…」

「シルヴァ!止まって!」

『こっちでしゅ!!』

「止まってあげて、バテてる人が沢山いるから」

『はっ!ごめんなしゃい…』

「良いのよ、眷属としての本能で動いてしまったのでしょ?大丈夫よ」

『うぅ…ありがとうございましゅ』


 シュンとしたシルヴァを抱き上げた彼女は後ろを見た。

 皆が険しい山道にバテてる…ユリアスだけはピンピンしていた。このくらい余裕、魔法を使うまでもない。


 王国にいた時にも近くの山に籠って走り込みや剣の鍛練をしていた時もあった。冷遇による放置の時間が多すぎた、誰もユリアスが居ない事に気付かなかったくらい…鍛練に集中出来た。

 3日5日、1週間、1ヵ月居なくても誰も気付かなかった。


 だから険しい道など全然余裕、何なら山での滞在にも慣れてる。


 疲れ果ててるアルベリク達を待つ中、至る所から沢山のドラゴンが集まってきた。

 皆アルベリク達が無害かどうか確認してるように見える。

 その中、一際大きなドラゴンがユリアスとシルヴァの前に現れた。

 黒い体に金色の瞳…とても強そうだ…

 恐怖は感じなかったが凄まじい威圧に押されてしまった…が、ユリアスの顔にある鱗を見た瞬間、ドラゴンが頭を下げたのだ。


 黒いドラゴンだけじゃない、周りのドラゴン達が頭を下げた。

 これがクレイの力と影響力か…流石最強の古龍…


 彼女には声は聞こえなかったが、シルヴァには彼らの声が聞こえたようで代弁してくれた。


『クレイさまはこの先にいるとの事でしゅ』

「わざわざ待っててくれてるの?」

『そうみたいでしゅ。ボク達が来る前から気配を感じたのか…同じ場所を見て動かないそうでしゅ』

「…早く行かなきゃ…これ以上は待たせられないわね」

『でも…疲れてる人が多いでしゅ』

「そうね…」


「はぁ…はぁ…こんなに険しいのかよ…」

「……」


 シルヴァを抱き上げたユリアスを見たアルベリク、ピンピンしてる彼女が信じられないみたいだが、冷遇されてた事を思いだし少し納得したような彼だった。


 その後もう動けないと地面に寝込んでしまう騎士達、ドラゴン達は悪ではないと判断をしたそうだが、自分達の縄張りを勝手に使われるのが許せなかったのか、弱い力でベシッと叩いて起こした。

 起こされた騎士達は驚いて後退りした途端…坂道を転がり落ちてしまった。

 ドラゴン達の作戦だったのか、騎士達は馬車の所に着いて気絶していた。


 残ったのはアルベリクとユリアス、そして眷属シルヴァのみ。

 これ以上クレイを待たせる訳にもいかないのでアルベリクに回復魔法をかけて歩きだした。


 回復魔法が使える彼女に驚いていたようで、何故使えるのか聞こうとした時には離れた所にいたのだった。


 ★☆★☆★

「はぁ…はぁ…まだ着かないのか?」

『あとちょっとでしゅ』

「そ、そうか…(なんでコイツユリアスは余裕そうなんだよ!?慣れてんのか!?)」正解

「(また汗だく、運動不足には見えないけど…まぁ山登りってそうそうしないからね)」


 定期的に彼に回復魔法や水魔法をかけて歩みを進めるユリアス、シルヴァはユリアスの頭に乗ってた。

 まだ余裕だ、疲れはあるが体は通常に動くので遅くはなってない。


 それから数分後…険しい道を登り終えて広い空間に着いた。

 高さもそれなりにあって周りの景色が見える。ドラゴンの生息地なので岩山ばかりだが、一部の者は好むだろう。


 周りを見渡していると…奥の方に白い何かが居た。

 ユリアスが気付くのと同時にシルヴァも気付き、目を輝かせて走り出した。


「あっ」

「こ、今度は何だ?」

『クレイさま!』



 どうやら奥にいる者がお目当ての人物のようだ。

 ユリアスも走りだし、走る気力がないアルベリクは歩いて追いかけたのだった。



 ーーーー


『クレイさまぁー!』

「ん?…あぁ、やっと来たか」

「!!(声が!?頭にじゃない!耳に聞こえる!?)」

「??…」


 クレイと呼ばれた白い存在がゆっくりとユリアスを見た。


「!!」


『ユリアスさまにその鱗は見えましゅか?』


「!…(ドラゴンと聞いてたからさっきのと同じのを想像してた…でも…ドラゴンにも様々な姿がある…)」

「!!…」



 ユリアスとアルベリクが見たのは…白い鱗を全身に纏ったドラゴンだった。


 蛇には手足がないが、蛇のような長い胴体を持つクレイニルパルニゼーレ…東洋ではこのような姿のドラゴンを「龍」と呼ぶそうだ。

 まさにクレイはその龍の姿をしている…どこか蛇にも見えるし、鱗が瓜二つだ。


 色々気になる事はある、しかしクレイの足元で嬉しそうに頭を擦り付けるシルヴァがあまりにも可愛すぎて何も考えられない。


 クレイは彼女達が混乱してると思ったのか、眩しい光を放った。光は直ぐに消えると…白い龍の姿はどこにもなく、代わりに…少々老いた男が立っていた。


 その男はユリアスと同じ…翡翠の髪と金色の瞳をしていた。

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