11.竜脈 1

 この日、ユリアスとシルヴァは馬車に乗って【竜脈】に向かっていた。

 しかし…悪女と疑われてる状態のままでの外出なので、当然見張りがついて来る。

 それも…一番関わりたくないアルベリクだ。


 炎の龍神の血と力を宿す皇族なのでシルヴァが見えてるようだが、シルヴァの話してる事までは伝わっておらず、ユリアスに向かってキャンキャン鳴いてるようにしか見えない。


『ひぃー!なんでしゅかあの方は!?ボクの事すごく見てきましゅ!怖いでしゅ!』

「大丈夫よ、落ち着いて」

「…(なんだあの毛玉は)」


 バタバタと暴れて怯えるシルヴァを抱え直して落ち着かせるユリアス、アルベリクは見たことのない生き物が不思議でしょうがない様子だった。


 なぜこうなかったかと言うと…

 時は遡って数日前にまで至る


 ☆★☆★☆

 数日前

 ユリアスの元にシルヴァがやって来た日の翌日、青いリボンに魔法をかけてシルヴァの首に着けた。


『わぁ~ ありがとうございましゅ!なんでしゅか?これ?』

「これがあれば周りにあなたが見えるようになるの、喋ってるのはわからないと思うから大丈夫よ」

『でも、急にペットが現れたら周りがびっくりするのではないでしゅか?』

「そこは安心して、誰も私の事なんて見てないから。

 取り敢えず【竜脈】に行くには外出許可を貰わないと、ただでさえ部屋の外に出させて貰えないから…そこもね」

『うぅ~ どうしてユリアスさまに酷い事するんでしゅか?他の国から来たお姫様にする態度じゃないでしゅ』

「そう言ってくれるだけ有り難いわ。でも良いのよ。そう言えば、シルヴァとクレイ様は私の過去を知ってるのよね?」

『はい。ユリアスさまが長い間苦労してる所はクレイさまと共に見てきました。

 ユリアスさまに悪いことを全部擦り付けてる妹君が許せないでしゅ!ボク以外の眷属達も怒ってました!クレイさまはお怒りのあまり住みかの一部を壊してました』

「あはは……」


 最強ではあるが【竜脈】から出られないクレイ、生まれてまもない精霊が助けに行くのはとても難しいが、全てを知ってる者がいて良かった。やはり彼らの目にもミアが異常、性悪な悪女に見えたそうだ。


 とにかく【竜脈】に行かない限り何も始まらない。

 もしかしたらこの髪と瞳の理由もわかるかもしれない。


 彼女は直ぐ様監視に声をかけたが…1ヵ月経っても態度は変わらなかった。



「ちょっと良い?皇帝陛下と話したいことがあるの、許可を貰えないかしら?」

「無理だ、お前みたいな悪人を皇帝陛下に合わせる訳にいかない。諦めろ」

「今回は折れないわよ、私は【竜脈】に行きたいの。その為の許可が欲しいのよ」

「あそこは神聖な場所、そして神秘の存在ドラゴン達の生息地だ。なおさら無理だ」

「(頑として譲らないわね~)」


 ユリアスがどうにかして皇帝と面会出来ないか考えてる時だった。



「きゃんきゃん!」

「えっ!?何あれ!?可愛い…」

「超可愛いー!!ぬいぐるみが動いてる!」

「子ギツネ!?何時から居たんだ!?」


 シルヴァがきゃんきゃん吠えると監視達が狼狽えた。可愛すぎる生き物を見て震えだした。



『ボクに任せてくだしゃい!』

「お願い」

『はい!「きゃんきゃん!! きゅ~ん(どうしてユリアスさまに酷い事言うのでしゅか?)」


「なっ!くっ…」

「あの『ケイオス』様が子ギツネ相手に苦戦してるわ!!」

「やっぱり殿下の従者でも可愛い生き物に勝てないんだわ…」

「こ、これが可愛いは正義ってやつか…悪女だけど主人が虐められてると思ったから怒ってるんだ」

「子ギツネが一丁前に吠えるとか…可愛すぎるだろっ」


「きゅ~ん きゅ~ん(お外に出たいでしゅ~ 【竜脈】に行きたいでしゅ~)」


 コロコロ転がったりケイオスの足に頭を擦りつけたり、上目遣いで見上げたりして説得を試みるシルヴァ…可愛すぎる…。


 …あまりの可愛さに部屋にいる全員が胸を押さえつけて震えた。

 まさにキュン死…落ちない人間なんていないだろう。



 とうとう耐えきれなくなったケイオスは咳払いをして口を開いた。


「っ…コホンッ 今回だけだぞ。殿下と陛下に話しておく」

「ありがとう」

「きゃんきゃん!(わ~い!やったでしゅ!)」

「シルヴァもありがとう」

『エヘヘ♪上手く行ったでしゅ!』



 ぴょんぴょん跳ねるシルヴァを抱き上げて監視に向き直るユリアス、その表情は真剣だった。



「貴方達が私の事をどう思うが勝手よ、好きに捉えて構わないわ。でも今回は本気よ。絶対に【竜脈】に行くわ。

 それと、嫌がらせは私だけにしなさい。この子に手を出したら絶対に許さないから」 

「きゃんきゃん!!(ユリアスさまにも酷い事しちゃ駄目でしゅ!)」


「「っ!!」」

「やばっ…あの目本気よ」

「気を付けよ…」



 その後、ケイオスを経由してアルベリクとイルベタスに面会の件が伝わり時間を作ってくれる事になった。

 シルヴァのおかげで【竜脈】への道が開いた。

 しかし本番はここから、ここから外出の許可を貰わなくては。もらってから初めて道が開いたと言えるかもしれない…。



 話せる日は明日の昼前の数分のみ…短時間で説得しなくてはいけない。明日はユリアスがやらなくては、クレイの眷属であるシルヴァに全て頼むのは良くない。


 ★☆★☆

 翌日、イルベタスの書斎にアルベリクとユリアス、シルヴァがいた。見えないが部屋のあちこちに監視が…相変わらず怖すぎる。


「本日はお時間を作っていただきありがとうございます。早速ですが、外出の許可が欲しいのですが…いただけませんか?」


 時間が限られてるので直ぐに本題に入った。2人は無表情、与えないつもりだ。

 しかし部屋にはユリアス一人ではない、神秘の存在の眷属がいる。

 ユリアスがシルヴァの青いリボンを外すと…突然2人が驚いた顔をした。

 それだけじゃない、ユリアスがシルヴァにちょっと喋るよう言うと可愛らしい声で挨拶をした。


『あ、あー えっと…お会い出来て光栄でございましゅ。皇帝へいか、皇太子でんか。

 ボクは【翡翠の涙】のご神体【クレイニルパルニーゼレ】さまの眷属シルヴァと申しましゅ あぅ…』


 イルベタスとアルベリクの頭にシルヴァの声が入ってきたようで、声と見た目の可愛さにやられて表情が緩んだ。


 シルヴァは大事な場面で上手く喋れなかったのかモジモジとした。やっぱり可愛いすぎる…見てみろ、強面男2人が尊いものを見たような目をして見ている。傑作だ、絵にしてやりたい。


 イルベタスは我に返ると咳払いをして口を開いた。



「ゴホンッ 失礼、ただの子ギツネだと思っていたがまさか眷属だったとは…失礼した。…ソナタの鱗が関わってるのか」

「この子が言うには【竜脈】に鱗の主がいるとの事です」

「なるほど…その者が【クレイニルパルニーゼレ】と。眷属が来てると言うことは只事ではないようだな…」 


「ホントにそう思ってるのか?ただの子ギツネに細工をしたんじゃないのか?」

「愚か者!本来神秘の存在、彼らと繋がる者と話す事は無理だとされているのだ!たとえエンブレアスの血と力を宿して我々でも無理なのだ」

「っ!?」


 だから頭の中での会話しか出来ないのか…

 彼らには人間の口から出た言葉は聞こえてるが、人間には神秘の存在の声と言葉は聞こえない。だから会話がなりたたない…


 会話は出来ないが、神秘の存在と繋がる力や血を得ていれば見ることは出来る。鱗を持つユリアス、炎の龍神エンブレアスの血と力を宿す皇族にはシルヴァが見えるのだ。


 ユリアスがリボンに細工をしたようにすれば姿を見せる事は出来る。しかし言葉は伝わらず鳴いてるようにしか見えないから普通の子ギツネと思われてしまうのだ。


 リボンを外したシルヴァが見えたイルベタスとアルベリクは繋がりを持つ者、これで持ってなかったらシルヴァの姿は見えてなかっただろう。



 話を戻して、イルベタスは言葉を続けた。


「では【竜脈】の立ち入りを許可する。外出の許可も与えて良いが…条件がある」

「なんでしょうか?」

『??』


「悪いがまだソナタを悪しき者だと思っておる、監視をつけての外出なら許そう」

「(外でも監視かぁ~しょうがないよね)構いません。ありがとうございます」

「うむ、それで…何時行くつもりだ」

「明後日に行く予定でした」

「……」


 イルベタスはアルベリクを見た。何かを察した彼は嫌だ嫌だと首を横に振った。


「お前は時間があったな。アルベリク、お前に彼女の監視と護衛を命じる」

「断る!何故俺が!」

「お前の婚約者になる王女だ」

「関係ない、俺はやらない。絶対に」


「……」

『これは…親子ゲンカでしゅか?』

「そう、親子喧嘩よ。本人を前にして断ったりやれと言ったりしてるけど…色々似てるわね」

『似すぎでしゅ…』



 ユリアス本人の前で失礼な喧嘩をする2人、結局アルベリクの同行が決まった。本当に嫌そうだが…これまでの殺気は感じなかった。

 あの時の茶会の件もあってか対応が少し変わったようだ。しかし彼女と婚約、結婚する気はないようで…これ以上は関わりたくないようだと言ってるようだった。


 色々あったが、無事に外出と竜脈の立ち入りの許可が貰えたので竜脈に行くことが出来る状態になった。



 そして…冒頭に至る…



 この時のシルヴァは青いリボンをしていなかった、だからアルベリクに見えていたのだ。

 彼女の膝に乗るシルヴァはあまりにも小さすぎる…でも立派なドラゴンの眷属なのだ。

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