10.子ギツネがやって来た

 それから数日後、五の月が終わったて六の月になった。

 相変わらず許可がもらえず部屋にいるユリアスは刺繍をして時間を潰していた。


 現在の時刻は11時過ぎ、新しいデザインに挑戦していた時だった。

 コンコンと誰かが窓を叩く音がした。

 あり得ない、此処はそれなりに高い所にある部屋、鳥ですら滅多に通らないような存在が薄い部屋、でも太陽や月の光は入るので結構明るい。


 監視達は気付いてないようだった。一人気づいたユリアスが窓を開けると…真っ白な毛玉が…


「わ~ん おたすけを~」

「!?」


 此処まで壁を登ってきたようだ…小さな生き物が窓枠を掴んで顔を上げた。彼女は直ぐ様生き物を抱き上げて部屋に入れた。怪我は無さそうだが所々汚れてる、頑張って登ったようだ。


 部屋から出れないので浴室が使えないので水魔法で生き物を綺麗にして風魔法で乾かした。

 櫛で毛を梳かすと、ふわふわになった生き物。

 つぶらな瞳にふわふわな耳や尻尾、触り心地が良い毛並み…可愛い子ギツネだった。


 しかし…これを見た監視達がざわつきだした。


「おい、王女どうした?」

「とうとう頭がイカれたか」

何かをみちゃったんじゃない?」

「ってかなにしてんの?」

なにかって?何もじゃん」


 部屋のあちこちからヒソヒソ話は聞こえる。



 どうやら、この子ギツネは監視達には見えておらず、ユリアスにのみ見えてるようだ。

 監視達からしたら、突然窓を開けて何かを抱える動作をして、何かに魔法を使い櫛で梳かすなど…異常な行動にしか見えなかったのだ。


 これ以上はそんな風に見られたくはない、しかし子ギツネはユリアスにしか見えないし会話も出来ない…流石に無視は出来ない。

 そう思った時だった。


『あっ、あの時みたいに頭の中でお話してもらえれば解決しましゅ!』

「!?」


 突如頭に可愛らしい声が聞こえてきた。部屋を見渡しても、声の主と思われるのは一人だけだ。

 子ギツネの方を向くと、子ギツネはニコニコしていた。あの時の声の主の一人のようだ。



『こんにちは!はじめまして!ボクは『シルヴァ』と申しましゅ!…ぁぅ』

「(可愛い…)シルバー?」

『あっ銀色シルバーではなくでしゅ』

「シルヴァね、よろしく。私はユリアス=フィリスタル」

『“ゆりあしゅ”しゃま!じゃなくて…ユリアスさま!お会いできて光栄でしゅ!』

「(可愛い過ぎっ)こちらこそ会えて嬉しいわ」


 可愛い過ぎる…上手く喋れずモジモジする姿や声、見た目が可愛いすぎてキュン死してしまいそうだ。

 ユリアスは刺繍をしながらシルヴァと頭で会話をしているので今度は監視達から変な目で見られなかった。


『すぐに行けなくてごめんなしゃい。【竜脈】からお城まで結構離れてるんでしゅ…ボクはまだ小さいから余計かかってしまったんでしゅ…』

「謝らないで、来てくれただけでも嬉しいわ。約束を果たしに来てくれたのね」

『はい!あの方が行ってこいって言ったのでしゅ あの方は訳あって【竜脈】から出られないので、ボク一人で来たんでしゅ』

「あの方って来る時に話しかけてきたもう一人の事ね?」

『はい。そして…ユリアスさまに鱗と凄まじい力をお方でもありましゅ!』

「与えた!?」


 やっぱり神秘の存在の一部だった、しかしまさか与えられたとは…最初は呪いだと思っていたが書物を読んで神秘の存在のモノだと知った時は喜んでしまった。でもあの時は読んだだけで全部は信じてなかったが、シルヴァの発言で確定した。



『詳しい事はあの方が話してくれましゅ。ボクは上手く話せないので言わなくて良いと言われたんでしゅ』

「そうだったの、でもありがとう。

 それで私に鱗と力を与えたヒトはどんな方なの?」 

『ユリアスさまにその鱗は見えましゅか?』

「えっ?何って…蛇の鱗だけど…」

『むむ~ 確かに蛇に見えますが…あの方を見たら正解がわかりましゅ』

「??」


 なにやら意味深な発言をするシルヴァだった。

 ユリアスは刺繍をやめ、本を手にして会話を再開させた。



「えっと、じゃあその方は何者なの?」

『えっと…すごいお方でしゅ!!それはもう!最強の存在とも言っても良いでしゅ!』

「わかったわかった。危ないわ、落ち着いて」


 興奮のあまりテーブルの上でぴょんぴょん跳ねるシルヴァをベットに移した。それでも興奮が収まってないのかベットの上で跳ねていた。

 周りに見えないのが勿体無い、触り心地は最高、めちゃくちゃ可愛い生き物が部屋にいるのに…


「落ち着いた?」

「はぁ…はぁ…はい」

「それで…なんて名前なの?」

『えっと、【神々の聖遺物】の一つ【翡翠の涙】のご神体『クレイニルパルニーゼレ』さまでしゅ!』

「!?!?」



 重要な発言ワードが多すぎて頭が追い付かない、1つずつ理解しなくては…

 混乱するユリアスをみたシルヴァはしまったと思いすぐに説明を始めた。



『ごめんなしゃい!1つずつお話しましゅ!

 まず、ユリアスさまに鱗と力を与えたお方の名が『クレイニルパルニーゼレ』さま、ボクたち眷属は『クレイさま』と呼んでましゅ、クレイさまがそう呼べって言ったんでしゅ』


「言いにくそうだからね…優しいわね」


『はい!優しくてお強い方なのでしゅ!って失礼しました。

 えっと、【神々の聖遺物】は神々の時代に作られた武器や宝石、お宝の事でしゅ。

 今の時代、神様はいませんがエルフやドラゴン、精霊や妖精、亜人等は今でも存在してましゅ。人々は彼らを【神秘の存在】と呼んでましゅね。本当に神秘的な方々ですから間違ってません。 


 そして【神秘の存在】達の中で一番強く、神々の次に強い力を持っていたのが【ドラゴン】でしゅ。中には神々を超すモノもいたと言われてましゅ。

 それを上手く活用出来ないかと思った神々は狂暴な魔物に対抗する手段を思い付きました』


「それが【神々の聖遺物】、聖なる存在(神々の事)の遺物、遺物って事ね」


『その通りでしゅ!神々は強力なドラゴン達に後に【神々の聖遺物】と呼ばれるモノを与え、それらの神体になるよう命じたのでしゅ。

 剣や杖、槍、戦斧…戦闘には向かないけど身につけるだけで力が得られる宝石等がありました。

 クレイさまは【翡翠の涙】と呼ばれる宝石のご神体に選ばれた方であり、古の時代から生きるでもありましゅ』


「へぇー…えっ!?クレイニルパルニーゼレ様ドラゴンなの!?」

『あっ!それはお会いしてからユリアスさまの目で確認してくだしゃい!

 ちなみに、ドラゴンにとって古龍は最強の位置にありましゅ!ドラゴン達の頂点に立つ存在なのでしゅ!』


 ご主人の話になるとシルヴァは興奮し再びベットの上でぴょんぴょん跳ねだした。子ギツネなのか子ウサギなのかわからなくなってきた…でも可愛い。


 ずっと蛇の鱗だと思っていたが…まさかのドラゴンの鱗だったとは…

 ユリアスは正真正銘の人間、人間と人間の間に生まれたので亜人ではない。

 しかし亜人(竜人)が持つ鱗とはどこか違う、やはりどこか蛇っぽい…


 蛇とドラゴンでは鱗の形は異なる…


 古代より、蛇は龍=竜が化けた姿と言われ蛇も神秘の存在と扱われていたそうだ。しかし徐々に蛇を模した魔物や悪しき存在が現れ…今では神秘の存在ではなく悪しき存在と見なされ…呼ばれてしまってる…

 何て罰当たりな…ドラゴン達から怒られるべきだ



 今回の事をミア達が知ったら大騒ぎを起こすだろう、もちろん教える気は無い。

 最後まで隠すつもりだ、しかし絶好なタイミングで明かせばそれはそれで良いダメージを与えられるだろう。


 悪しき蛇の鱗ではなく神秘の存在であり最強の古龍の鱗を侮辱したのだから…罰は重いだろう。

 


『…と、ここまでがボクの役目でしゅ。もっと詳しい事はクレイさまご本人さまが話してくれると思いましゅ。近いうち【竜脈】に行きましょう』

「わかったわ、ありがとう」

『エヘヘ どういたしまして』



 周りには異常な行動に見えるかも知れないが構わなかった。ユリアスはシルヴァを沢山撫でた。撫で回されるシルヴァはきゅ~と嬉しそうに鳴いたのだった。



【翡翠の涙】のご神体であり最強の古龍【クレイニルパルニーゼレ】の眷属シルヴァの訪れによって事は大きく動き出す…

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