9.自白剤?無駄無駄

「アルベリク!来てくれたのね、待ってたわ」

「…聞いてないぞ」

「当たり前よ、教えてしまったら貴方は絶対に来ないでしょ?」

「……」


 ユリアスを見る事すら嫌なのか、顔を合わせようとしない…別に良いけど。

 アルベリクの登場に硬直していたユリアスだったが、クルシュに呼ばれて我に返った。


「ハッ! な、なんでしたっけ?!」

「ワタシは席を外すわ、アルベリクと2人で話してみて」

「はい!?」

「楽しんでね~」

「えっ…えぇ…(楽しめる訳ないでしょ…)」


 クルシュは笑顔で去ってしまった。女騎士達も彼女と共に行ってしまい、周りはアルベリクの部下達…ユリアスが完全に不利な状況になってしまった。


 彼は嫌々席に座って紫色の紅茶を注がれたのを見て口を開いた。

 何処かユリアスを見下してるような目をしている…


「馬鹿正直に飲んだのか?まぁ、その方がこちらが有利だがな」

「后妃様は身体に良いから飲んでると言ってましたが?」

「材料を聞いても疑いもしなかったのか?王国を困らせる程の性悪悪女の頭脳とはその程度なのか」

「??」


 彼が何を言ってるのかさっぱりだったが…ミアが広めた良からぬ情報を鵜呑みしてる事だけはわかった。ホントに面倒な所に罠を仕掛けてくれたな…


「…何か言ったらどうだ」


 馬鹿にされても何も言い返して来ないユリアスを見て不機嫌になるアルベリク、当たり前だ、本人は何を言われてるのかわかってないのだ。

 確かに見た目が恐ろしいから(一応)国を困らせてはいた。

 表舞台や社交界への参加、出席は一切許されなかった。出てもミアの引き立て役兼当て馬、彼女が何もせず、ただ立ってるだけでミアは泣き出したり悲鳴を上げる、そして悲劇のヒロインになって周囲を味方につける…そしたらお馴染みの茶番劇が始まる…

 国を困らせている真の性悪悪女はミアだ、ユリアスが訴えても誰も信じてくれなかった…聞いてすらくれなかった…


 しかし相手はミアを想ってるアルベリク、ミアが悪女だと言っても無駄に終わるだけ。

 そして今は何を言っても無駄になる状況、こういう時は…

 


 適当にやり過ごすのが一番だ



「…そうですか」

「自分は無関係だから逃げると?」

「それは違いますよ(恐るべしミアの影響力)」


 ユリアスの頭にキャハハと嘲笑うミアの笑い声が聞こえてくる…やめろやめろ、集中できないだろ!



「それで、紅茶に何か仕組まれてると?」

「もう何杯も飲んだみたいだな、吐き出しても無駄だ。

 この紅茶はに使われる薬草が使われてる。だから実質紅茶に扮した自白剤だ。それも強度のな」

「っ!!」


 とんでもない発言に思わず口に含んだ紅茶を吹き出してしまったユリアスを見てアルベリク達はドン引き、ナソスが嫌々ながらも背中を擦りハンカチを差し出してくれた。


「ゲホッ…ゲホ(そっちかぁ~!【紅茶自体が毒】だったのね!!どうしてその可能性を考えなかったの!)」 



 薬草が使われてる時点で察せば良かった…それについて警戒のし過ぎで見落としていたようだった。

 なるほど…そっちで来たか、痛みや苦しみを与える毒ではなく何でも話してしまう強度の自白剤を仕掛けてくるとは…。クルシュは何年も飲んでたから耐性が付いてたから効かなかったのだろう…またしてもやられた…。


「自白剤ですか…目的は私の全てを暴く為ですか?」

「悪いことをしてる自覚は有るんだな」

「うぅん…(部分的にそうだからね…言葉にするのが難しいなぁ)」


 疑われてもしょうがない、でも実際ユリアスは悪事はしてない、ミアの広めた悪評や有りもしない罪を認めて謝罪する必要は無い。

 そう、何もやってないのだから謝る必要は無いのだ。堂々とすれば良い


 不思議と落ち着いてる…今回みたいな最悪な状況に慣れてしまったのだろう…


「答えはNoです。私は顔や身体の鱗が原因で王族や国民全員から嫌われていました。いないモノと扱われてましたね…。

 見た目が恐ろしい事から、部分的には国を困らせてました」

「確かにおぞましいな、だがそれを利用して悪事を働いていたのだろ」

「まさか、見た目が恐ろしい事から表舞台や社交界には一切出れませんでした。むしろ姿を見せる事が禁じられていました」

「!?」


 冷静に言葉を続けるユリアスに混乱するアルベリク、噂やミアの情報とは全然違う…でも演じてる可能性も有ると思ってるようだ。


「皇太子殿下 この際言ってしまいますと、貴方が私と婚約も結婚もしたくないと言ったように、私も殿下と全く同じ気持ちです」

「「!?!?」」

「……」


 彼女がハッキリと言った瞬間、アルベリクの部下達は顔を青くさせた。言われたらアルベリクは…まだ疑ってるようだ。


「信じるか信じないかは殿下におまかせしますが、これだけはお伝えしときます」

「自白剤が効いてないみたいだな?まだ隠してる事があるだろ?」

「隠し事ですか…(この鱗が神秘の存在の一部で人間離れした力を持ってるのを知ってるだろって事?)」

「何故ユリミア王女を虐げる、仮に存在を否定されて続けていたとは言え、全てからの愛を独り占めするユリミア王女を許せなかっただろ?」

「馬鹿馬鹿しい」

「何だと?」


 ユリアスの様子が変わった。ずっと冷静だったがタブーな質問だったのか、怒りを抱いたように見えた。


「愛を独り占めするくらい構いません。放置されてた私は多くの時間を得られたのでWin-Winです。ミアに嫉妬?するわけ無い。 


 ミアが沢山の愛を独り占めしたのなら、私はあらゆる力と時間をいただきました。

 知識・知学、戦術、魔法術等、どれもミアが何をしても絶対に得られないモノです。

 なにせミアは全てに愛される王女、守られる存在ですから。守られる存在が剣を手にして戦場の前線に立ちますか?

 周りは絶対に立たせません、だって失いたくないのですから」

「っ……」

「殿下がミアから何を聞いてるとかなんてどうでもいいです。

 ですが、これだけは言わせてください。

 私を見下してると痛い目にあいます、いや

「……チッ」

「(勝った、ただの嫌われ王女じゃないと教える事が出来れば少しは変わるはず)発言には気を付けてください」

「…頭に入れておく」



 質問に答えてるように見せかけ自分は優しくないから気を付けろと伝えられたが…実は適当にやりすぎて彼の質問に全く答えてない。

 それでも言いたい事も言えたし、ミアに興味ないから嫉妬の対象ですらないとも伝えられた。 



 そしてアルベリクだが、ミアの情報を鵜呑みし過ぎていたのが仇となり、ユリアスが王国で冷遇されていたと今知ったようだった。

 ミアから送られる情報のユリアスはどれも…態度や行動が酷すぎて国を困らせてるとか、人々から嫌われてる悪評まみれな姉とばかり書かれていた。


 とは一切書かれてなかった。

 とにかくとだけ…肝心な部分を隠して悪いところばかり広める…何処までやってるんだ、罠を仕掛け過ぎだろ


 噂と全く違うだけでなく、自分と結婚する気はないと言われた事に顔には出してないが少しだけ驚いていた。

 まるで…戦争が起きても自国なんてどうでも良い、負けてしまっても構わないと思ってるようにも聞こえた。まさにその通り


 その後もアルベリクに質問されたが、自白剤関係なく色々話したユリアス。


 彼女は気付いていた、自白剤なんてハッタリだと

 自白剤が使われてると思わせればペラペラと喋ると思ったのだろう、しかし出てくるのは悪事ではなくユリアスの生い立ちと思い出話のみ。


 挙げ句の果てにはユリアスに忠告される始末、完全に返り討ちに遭ったのだった。



 今回の茶会の勝者は間違いなくユリアス、色々気に食わなかったアルベリクは逃げるように去って行ったのだった。


 姿が無くても執筆だけで男を惑わしてしまうミアの恐ろしさ…ミアとの戦いはまだ続きそうだ…


 アルベリクはミアの洗脳から抜け出せるのだろうか…

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