8.恋敵?いえ部外者です。
「!!アルベリク様!お会い出来て光栄です!」
「エリス嬢、何故来たんだ」
「仕事で
「……」
「なんて良い光景なのかしら…」
完全に蚊帳の外なユリアスは今すぐ此処を離れたかった。しかしエリスに話しかけられたのは自分だ、軽く話してさっさと去ろう。
しかしアルベリクも大変だなぁ、エリスに慕われてるのに彼はミアに想いを寄せてる…叶わない恋と失恋の連鎖…全員が救われなさすぎる。
意とも簡単に異性を落とすミアがアルベリクに本気なのかはわかないが、戦争を企んでる以上本気とは言えない。
もしミアが来てエリスとアルベリクのやり取りを見たら…想像したくない。間違いなく最悪な事が起きていただろう…
ユリアスがそんな事を考えてる時、アルベリクに夢中だったエリスがやっと彼女に気付いた。
「まぁ、貴方も来てくれたのね。先程の翡翠のお方」
「エリス様、この者と話す必要はありません」
「ですが彼女に声をかけたのはワタシです。挨拶はさせてください」
「はぁ…チッ」
「(気持ちはわかるけど睨まないでちょうだい…)」
納得してないナソスは舌打ちをしてユリアスをギロリと睨んだ。そんな風に見なくても敵になる気は無いから安心してほしい。
「ワタシはカリブルス帝国の聖女をしている『エリス=キスリング』、キスリング公爵家の者です。アルベリク様には良くしてもらっています」
「…ユリアス=フィリスタル…」
ユリアスが名乗った瞬間エリスの顔が変わった…瞳から光が消え、信じられないモノを見たかのような目をした。
「ユリアス?…ユリアスってあのフィリスタル王国の悪評だらけの悪女なお姫様?…」
「ち「そうです。そのユリアス王女です」
「ど、どうしてそんな方が帝国にいらっしゃるの?どうしてアルベリク様の近くにいらっしゃるの?…」
「そ「和平交渉の条件としてアルベリク皇太子様と婚約する為に来たそうです」
「えっ……」
話そうとする度にナソスに遮られて言えなかった。アルベリクがユリアスを気にかけてる様子は無かった。
婚約の事を聞いた途端…エリスはユリアスを睨んだ。あまり怖くない…
「呼んだのはワタシですが、お引き取りをしてもらっても?」
「…そうするわ」
「でも送らせていただきます」
「行けません!エリス様がやることではありません!」
「言いたいことがあるので」
「……(乙女の威嚇なんて怖くないわよ)」
エリスに扉を開けられ、
「ワタシは絶対に諦めませんから…悪評だらけの王女様にアルベリク様は渡しません!」
「そう…」
「っ…」
恋する乙女として宣戦布告をしたようだが、ユリアスの冷めた返事に怒ったエリスは扉を乱暴に閉めて
一人自室に戻ってる時だった。アルベリクの弟エルネストと会ってしまった。
エルネストは一人のユリアスを見て嘲笑った。
「ハッ、見ろよ、兄上に相手にされてないよ。メイド長にも見捨てられて無様だな」
「……(なんだこのお子様は…)」
「おい、聞いてるのか?僕はアルベリク皇太子の弟だぞ。無視して良いと思ってるのか」
「私なんかにお時間を使わせる訳にもいきませんので、私は失礼させていただきます」
「おい!勝手に行くな!」
何がしたいのかわからないが、相手にしたら疲れるだけ、速やかに離れるのが一番だ。
逃げるように離れるユリアスが面白くなかったのか、エルネストは大声で叫んだ。
「お前なんかが兄上と結婚出来る訳ないだろ!兄上には聖女エリスみたいな
「(誰がするか~!)そうですか」
「なっ!!」
ユリアスが噂通りの悪女だったらブチギレてただろう、しかし本当のユリアスはそんなんじゃキレない。
ユリアスが望んでるのはアルベリクとの結婚ではなく自由だ。色々勘違いされてるがアルベリクと婚約も結婚もする気は一切無い。
そもそも恋愛に興味がないのだ、優しくされた事が無いから愛がわからないし与え方がわからない。
恋愛よりも自由になりたいが為に努力してきた身、アルベリクへの気持ちはずっと【無関心】のまま。好きの反対は嫌いではなく無関心、まさにその通りだ…
その後、部屋に戻って帝国の文字の読み書きに励んだ。
先程のエリスの反応から、彼女もミアの広めた悪意しかない偽造だらけの情報を信じてるようだった。
本当に面倒事を寄越してきたものだ、ユリアスの居場所を全て奪う気なのだろう…
しかしミアでも神秘の存在は虜に出来ない、【竜脈】には罠を仕掛けられないだろう。
★☆★☆★
ユリアスが来て3週間以上経った…あと2日で今月が終わる。
「はぁ…外の空気が吸いたい~散歩したい~」
「許可が降りてないから無理だ、諦めろ」
「え~…」
家具があるので運動が出来ないのが辛い、剣の素振りも筋トレも出来なくて本当に鈍ってしまう。
監視だらけな部屋で気配を消す訳にもいかない…。約1ヶ月も監視・監禁されて外に出させてもらえてない…身体に悪すぎる。
「(あの聖女、今日も来てるんだけっけ?城で仕事があるとは言え、何だが皇太子に会いたいが為に来てる気がするけど。まぁ…私にとっては好都合だけど、そのまま仲を深めてもらえば私は晴れて自由の身だし)」
ナソスをはじめとした城の使用人や騎士達のほとんどがエリスを絶賛してる。ミアではない人物にユリアスの居場所を取られる事もよくあったが、実はミアによる刺客だ…嫌がらせの一種だ。
今回のはたまたまなのだろう、彼女がミアの虜になってるかはわからないが…そうでなくても面倒くさいのは事実。
ユリアスのアルベリクへの好意は0に等しい…寧ろ哀れに思ってるくらいだ。ミアへの恋心を宿したままエリスと結婚するのはちょっとアレだが…
とにかくアルベリクがさっさとエリスと結婚すれば、ユリアスは自由の身、ついでにフィリスタル王国は滅ぶだろう。平和ボケした、意とも簡単に悪女に騙されるような国がこの大陸一の戦力を持つ国に勝てる訳がないから。
后妃クルシュに言われたが、このまま進展が無かったらフィリスタル王国との戦争が始まる、始まっても構わないが、起こったら起こったでミアがまた好き勝手しだすだろう。
本当に余計な事しかしないミアに呆れてきた。
絡んだら悲劇のヒロインの寸劇が始まるだけ、ホント疲れる…。
とにかく…目的は決まったがユリアスに出来る事は何も無いのでエリスに頑張ってもらうしかない。頑張ってアルベリクを落として結婚してもらおう、ついでにフィリスタル王国も滅ぼしてもらおう。
☆★☆★☆
翌日、今日も自室に閉じ込められていた時だった。ナソスがやって来て口を開いた。
「后妃様からお茶会の誘いが来てます。さっさと準備して行きますよ」
「わかったわ」
水色のドレスに着替えてナソスに着いていった。
場所はまさかの外、皇族だけの使用が認められてる温室庭園だった。1ヵ月も外に出れなかった為か太陽の光が異様に眩しく感じる、引きこもりは良いが少しは外に出たないとダメだなと思った彼女だった。
そんな事を考えてたらクルシュが一人紅茶を飲む姿が目に入った。どうやら此処が目的地のようだ。目があったので速やかにカーテシーをした。
「いらっしゃい、待ってたわ」
「お招きいただきありがとうございます」
「フフッ そう畏まらないで、さぁ座って」
「失礼いたします」
クルシュの正面の席に座ると、ナソスが紫色の紅茶を注いだ。
一瞬驚いてしまったがクルシュも同じのを飲んでいたので毒ではないとわかった。
「皆初めて見るときは驚くけど、身体に良い茶葉と薬草で作られた紅茶なのよ。砂糖もミルクも入れなくても紅茶自体がとても甘くて何杯も飲めちゃうの。ほら香りだけでも良いでしょ?」
「薬草と茶葉で…(確かに甘い香りがする。これは何杯でもいけそう)いただきます」
クルシュが飲んでるからと言ってもユリアスのカップに毒が盛られてないとは限らない。このような手口は紅茶に毒を仕込むのではなく、その人が使うカップに毒が塗られる。
今温室にはクルシュとユリアス、ナソスと離れた所に居るクルシュの護衛をする女騎士と外で待つユリアスの監視をする騎士達だけ。
侍女兼騎士だから女騎士しかいないのだ、怪しい動きはしてない。
疑ってもキリがない、飲んで毒を受けたらその時に考えよう。
クルシュに見られながら紫色の紅茶を口にして飲み込んだ。確かに彼女の言う通り紅茶自体が甘く何杯でもいけそうだ。カップにも毒が塗られた様子も無かった。
…ん?甘い紅茶?
疑うのは良くないが、世の中全ての毒が苦いとは限らない、甘い毒薬も存在する。
毒と薬は紙一重と聞くから…毒を使った紅茶があっても可笑しくない。
幸い口、手足に痺れは無く、胃が焼かれるような痛みもない。本当に毒はないのだろう…が、油断は出来ない。
その後クルシュに有名パティシエが作ったケーキや菓子を勧められた。どれもとても美味しかった。思わず警戒が解けそうになったが、何とか耐えた。甘い誘惑とは本当に恐ろしい…
ケーキを食べてる時、温室に誰かがやって来た。
足音の主を見ると…まさかのアルベリク、クルシュは満面の笑みを浮かべてる…
嵌められた…
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