6.面倒事の始まり

 ユリアスがカリブルス帝国に来て1週間が経った。


「(暇~!レースも刺繍も飽きたわ!ってかあれから何の連絡もないわ!)」


 ユリアスに舐めて掛かったあの無礼なメイドはあの日を境に来なかった。

 1週間経ったが未だに何もない。ユリアスの存在が無いものにされている…けど監視は未だに続いてる。声の主の使いはまだ来てない。何時になったら来るのだろう。

 このままでは剣の腕が鈍ってしまう、せめて何かしらさせてほしい。1週間も部屋に閉じ込められてれば当然やることが無くなってしまう。


 しかし良いこともあった、監視はアルベリクに事実を伝えてるのかアルベリクが部屋に来ることは無かった。しかし嘘だと、猫を被ってるのだと思われてるので未だに信用はされてない。


 掃除も刺繍も読書も…全部やった。ホントにやることが無い。放置されて出来た時間は嬉しいが、やることが無さすぎる。


「(ん?ちょっと待って、私を見てる監視は皇太子の部下なのよね?だったら…)ねぇ、誰か出てこれないかしら?」

「「……」」

「こればかりは無視させないわ、わかってるでしょ?部屋に籠って1週間、やることが無くなってるて困ってるのよ」

「「……」」


 それでも現れようとしない監視達…

 ユリアスは溜め息をついて椅子に座り直した。


「はぁ…もう良いわ…」


 疲れたユリアスは渋々刺繍を始めたのだった。


 ★☆★☆★

 ユリアスの監視をする部下からの報告を聞くアルベリク、近くには弟の『エルネスト』がいた。


「…ユリアス王女は暇すぎて困ってるそうです。何かしら与えても良いのでは?」

「演技だったらどうする、アイツを城内に放つのは危険だ」

「……」

「ってか同情する前にアイツの化けの皮を剥がす事でもしたらどう?これ以上は待てないよ、さっさとやったら?」

「しかし…このままでは人質にすらなりません」

「アイツは人質なんかじゃない、フィリスタルは邪魔者を押し付けて来たんだ、死のうが勝手だろ?」

「エルネスト、言葉に気を付けろ」

「チッ、なんだよ、兄上の為に言ってるのに」

「とにかく今の状態のまま監視を続けろ」

「…ハッ」



 この1週間、アルベリクは同じ内容の報告ばかり聞かされていた。

 王女は暇すぎて困ってる、何かしら与えたらどうか、怪しい動きはないとか…事実なのだが頑として認めなかった。

 また昨日、1週間も放置していたのが后妃にバレて色々言われたのだ。



「悪女と呼ばれる王女だから接したくないかもしれないけど、平和交渉に巻き込まれた王女でもあるの。ちょっとだけでも良いから接してみなさい。仮にも貴方の婚約者なのよ」

「俺はあんな女とは結婚しない」

「馬鹿を言うな、ユリミア王女には既に婚約者がいると報告されてる。くだらない感情を捨てるのだ。想い人の発言だからこそ真偽がわからなくなると聞く、ユリミア王女の情報を当てにせず自分の目で全てを見るんだ。

 洗礼と言って火炙りを受けさせたわたしが言えることではないが…」

「……」



 皇帝『イルベタス』と后妃『クルシュ』もミアの書いたユリアスの悪事の報告書を読んだと思うが、洗脳から抜け出せたのか真実を見ろと言った。ミアの虜になってる人間からは絶対に出ない発言だ。


 ミアは存在するだけで全てを虜にする、姿を見せなくても手紙や書類にある文字だけでも相手を虜にしてしまう…。

 まるで洗脳、魅了の力があるのかと思ってしまうほど強く…彼女を本当の女神だと思ってる者もいる。

 しかし彼女の魅了から抜け出せる方法がある…被害者であるユリアスが洗脳されてないのはが有るからだ。


 つまり神秘の存在の力があれば洗脳から解放される…と思う。



「そもそも浄化の炎による火炙りでは、炙られた者だけでなく、炎をの悪しきモノも浄化される。この意味がわかるな?」

「……」

「ユリアス王女の黒髪がけがれだったのは驚きましたが…」

「クルシュ…あれはただの汚れではない。あれは神秘の存在と関係があるモノだ」

「!?」

「ゴホンッ とにかく、ユリアス王女と少し話をするのだ。くだらないプライドを捨て現実を見ろ。良いな」

「……」


 頑として承知しなかったアルベリクだった…


 そして今に至る。

 両親から軽く説教をされたが考えは変わらなかったようだ。


 既にユリアスが無害に等しいと判断されたのにも関わらず彼女を部屋から出す事、娯楽を与えることを禁じた。

 まだ猫を被ってる可能性があると判断するアルベリクとエルネスト、2人は自室を出ててユリアスの部屋を訪れた。


 エルネストと騎士には部屋の前に待たせ、アルベリクはノックをせずに入った。この光景を見たエルネストはドン引き…流石に女性の部屋をノックもせず、更には許可をもらう前から入るのはダメだろと思ったのであった。



 ☆★☆★

「……」


 アルベリクの目の前にはテーブルにうっぷしていたユリアスだった。

 刺繍の途中に寝てしまったようだが、道具は片付けられていて針とかはなかった。

 テーブルの上に花の刺繍やレース、紋章のようなモノが入れられた数枚のハンカチが広がっていた。

 その中で一枚のハンカチに目を奪われた。それは紋章のような刺繍が入ったハンカチだった。それを見たアルベリクはたちまち顔色を変え、ハンカチを戻しユリアスを睨み付けて部屋を出ていった。


 先程とは違い怒ってる様子で出てきたアルベリクに驚くエルネスト、理由を聞いても答えてくれず、2人を置いて自室に戻って行った。


 何があったのかわかない2人は困っていた。

 口論は一切聞こえなかった、ユリアスがアルベリクの機嫌を損ねる何かしらをしたのかもしれない…。

 理由を聞きたいが今は話しかけない方が良い、どうしようと悩んでいた時、後ろからエルネストに声をかける者がいた。


「エルネスト様?どうなさったの?」

「「!!」」


 振り向くとブロンドの髪に紫色の瞳、白い衣服を纏った若い女性が立っていたのだった。



 ☆★☆★☆

 自室に戻ったアルベリクは引き出しから何かを取り出した。

 取り出したのは…紋章のようなモノが入れられたハンカチだった。

 それも先程ユリアスの部屋にあったのと…デザインのモノだ。


「(これは昔ユリミア王女が頑張って縫ったと言って渡してくれた物だ。何故アイツが…)」



 アルベリクは現在18歳、いまから8年前の事、10歳の時フィリスタル王国を訪れた際に、8歳だったミアにこのハンカチを渡されたのだ。


「ワタシ、アルベリク様と会えて幸せでした!また会ってくれますか?」

「あぁ、もちろん」

「フフッ 嬉しい」


 その後、アルベリクは騎士からフィリスタル王国で異性から刺繍の入ったハンカチを渡されるのは『あなたが好きです』という意味が有ることを聞いて顔を赤くした。


 まさにラブレターの代わりだった…のだが、全く同じ刺繍を入れるユリアスに何故か怒りを抱いた。

 理由はわからないが何故か気に食わない…何故ユリアスがこの紋章を縫えるのか…これはミアが縫ったモノのはずだ…


 ーーーー


 昔からミアの我が儘には困っていた。

 8歳の頃、この時から小屋で生活していたが…頻繁にやって来たミアによって王城に連れてこられていた。

 リアムの仕事を代わりにやれ、ミアに与えられた教師からの宿題をやっておけ、部屋の片付けをしとけ等…幼い時からミアとリアムに良いように使われていた…。


 僅か8歳にして美しい文字を書き、リアムとミアの文字と全く同じ文字を書かされたりと…時には大人のやる仕事を与えられた時もあった。

 そのおかげで経済や環境、その他公務等も8歳でこなせるようになった。

 だから何時どこかの国の王に嫁いでも公務を手伝えるだろう。


 そう言えば…沢山の国の王族、皇族がフィリスタル王国に集まった時があった。

 その時は既に用済みだと言われて小屋に戻されていたので詳しい事はわからないが…ミアが良い思いをしたそうだ、それしかわからない。


 その時にカリブルス帝国が来ていたかは不明…ユリアスには全く関係の無い事だったから…

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