5.愛され王女の罠

 昼頃

 バンッと扉が乱暴に開けられた。

 そこには不機嫌そうなアルベリクと数人の騎士達が武器を構えていた。


 面倒だと思いながらも冷静なユリアスは本をテーブルに置いて立ち上がった。



「(面倒くさいなぁ)何か御用でしょうか?」

「何故来なかった」

「はい?」

「何故ダイニングホールに来なかった」

「何も知らされてませんが?」

「侍女が伝えたはずだ」

「(あぁー…あの送り返した無礼者か。でも最初から言う様子は無かったけど、どっちにしろ言うつもりはなかったようね)あの無礼者ですか、あまりにも無礼だったので帰しました。そうでしたか、でも伝言を預かってるようには見えませんでしたね」

「貴様っ…」


 今にも爆発しそうなアルベリクはズカズカと部屋に入ってユリアスを睨み付けた。


「はっ、交渉条件を勝手に変えるような人間らしい発言だ。お前の我が儘にユリミア王女や家族は苦労しただろう」

「(その言い方だとミアと結婚したかったと言ってるようなものよ…まさかホントに結婚したかったの!?)私の我が儘ですか…思い当たる節がありませんね」

「シラを切るな、交渉成立書と共に国王とユリミア王女からの書類も入っていた。

 国の税金を独り占め、国民から食料を取り上げ、賊と手を組んで王家の暗殺を企んでた等、お前のやってた事は全てお見通しだ」

「(ドヤるなドヤるな、全部ミアがよ)それはホントに私の事ですか?」

「そうだ」

「ご本人から聞いたのですか?」

「ユリミア王女が言うから真実だろ」

「(あっ、これガチでミアと結婚したかったんだわ…残念だけど貴方の想い人は戦争を起こす気満々なヤバい王女よ)

 …本当に私がそのような王女に見えるのなら監視でも付けたらどうです?逃げも隠れもしませんし、なんなら貴方と結婚する者ですからご自身の目で確認してはどうです?」

「誰が貴様と結婚するか!!」

「(えぇー…)」


 衝撃の発言に硬直してしまったユリアス、まさか皇太子がミアにぞっこんだったとは…残念ながらミアはユリアスの婚約者だったルアンと婚約してしまった…アルベリクが不憫だ。あまりにも可哀想すぎる失恋に何も言えないユリアス…

 言葉に迷ってると騎士達のヒソヒソ声が聞こえた


「まさに悪女だな…アルベリク様と言い争う女なんて滅多にいないぞ」

「ってかホントに鱗が有るんだ…気持ち悪いな」

「やめとけって、言ったら殺されるぞ」

「でもアルベリク様も気味悪がってたぞ」

「オレ自分の嫁があぁいうのとかヤダな…」


「……」

「良いか?お前の命は簡単に狩られるモノだと思え、これ以上問題を起こしたらわかるな」

「承知しました(色々疲れるわね…ようは大人しくしてろって事でしょ)」

「随分と素直だな、自分で言ったことにキレるなよ?監視を付けてたら全てを暴いてやる」

「わかりました」



 そう言ってアルベリク達は去って行ったのだったが、静かになった部屋にまた客人が…今日は何なんだ…

 許可すると入ってきたのはフリップだった。


 相変わらず若者顔負けな発言をするフリップだったが、どうやら昼食を用意したらか食べろとの事だった。

 運ばれてきたのは…見た目は美味しそうだが所々怪しいモノが見える料理だった。


 毒か腐った食材かわからないが…食べないとまた面倒だ。

 こっそり毒があるかを確かめてみると、毒はないが食材が危ないと出た。これまた古典的な嫌がらせ、腐った食材を調理する料理人も凄いな。


 皇族と使用人全員で悪評だらけの嫌われ王女を追い出そうと必死とは…ちょっと笑ってしまう。仕方がない、せめて味だけは通常のにして頂こう。

 疑いもせずカビのあるパンに手を付けたユリアスを見てフリップは驚いた顔をした。

 用意した本人が何を驚いているんだと思ったが、構わずパンをちぎってスープに浸けて口に入れた。魔法で味を変えてるので美味しいが、魔法で変えてなかったらとんでもないゲテモノだっただろう…


 毒が入ってないだけマシだと思いながらも料理を食べ続けるユリアス。ただしこの後の体調は保証出来ない。最悪食中毒になってしまうかもしれないがその時はその時だ。治療魔法で体調も治せるから良いが、使えなかったら命を落としてたかもしれない。

 そんな事を考えながらもペロリと完食した彼女はフリップに片付けを頼んだ。彼は動揺しながら食器を片付けたのだった。

 ※良い子は真似しないでください


「(明日は毒入りが出るかもしれない)」



 まだ昼間なのに色々と疲れたが収集もあった。


 まずミアの罠は至るところにバラまかれてる、そして皇太子アルベリクは真の悪女ミアと結婚したかったと…可哀想な失恋をしたものだ。


 だからと言ってアルベリクにミアが真の悪女だと言っても信じてもらえる訳がない。今のミアはルアンと婚約関係を持ってる、和平交渉の条件としてミアを指名したにも関わらず来たのは悪女と評判の嫌われ王女…アルベリクの心が傷だらけだ。


 恐ろしいのはミアの存在だ。姿が無くても執筆だけでも恐ろし影響力を周囲に与えてしまう…しかし自白してるのだ。ユリアスがやった事にしてるが、あまりにも具体的に書きすぎてる。

 つまり…間近で見ただけではあそこまでは書けない。自分がやってたから具体的に書けたのだ。

 アルベリクを利用して戦争を起こそうと企むミアこそ正真正銘の悪女だ…


 次は何が来る…アルベリクの手にはミアの書いた手紙がある。燃やしても無駄だ、ミアの虜になってる人間の洗脳は簡単には解けない。今日の午後からアルベリクが手配した監視がつく、怪しいモノは何一つ無いが何をしてもあーだこーだ言われる気がする。


「(1つ1つに気を使ってたら疲れる…ってかもう疲れた)


 監視に見られても困ることはないが、暇すぎる。今のユリアスは皇太子と婚約も結んでない客人だが…客人としては扱われてない。彼と結婚する前から冷遇されるとは…

 だが今さら気にする事ではない。扱いはフィリスタルと同じなのだから。フィリスタルでの扱いのせいで気にしてはいないが疲れてる。


 本当なら剣や魔法を鍛えたいのだが…余計怪しまれるだけなので我慢だ。


 本当にやることがなくて暇だ。いざ城内を歩きたいと言えば何か企んでるんだろと言われ、図書室に行きたいと言えば何が目的だと疑われるだけ…やることが無さすぎる、暇だ。

 持ってきた小説3冊も読み終わってる、やるとすればレース編みや刺繍くらいか。


 クローゼットから裁縫道具を取り出してレースを編みだしたユリアスだった。

 編み出したのと同時にアルベリクが手配した監視があちこちに着いた事も気づいた。

 彼らがアルベリクに偽造した情報を伝えない限りユリアスの無罪は一応証明されるが…どうなるだろうか。


 その後、フリップが夕食を持って来たと言うまでレースを編み続けていたユリアスだった。気付いた時には夜になっていた。

 夕食にも腐った食材が使われていた、毒が入ってないだけマシ、夕食も昼と同じように味を変えて完食したのだった。

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