4.無礼者に罰を
「気持ち悪い…」
「……」
呟いたのは隣にいたアルベリクだった…。
蛇の鱗への罵倒なのかユリアスの強すぎる
ましてや妻になる王女へ向ける発言ではない…これは夫婦にすらなれないだろう…。
聞きなれた発言に戸惑う事はなかったが…違和感ではなかったとわかった。
誰も鱗に関して何も言って来なかったのは罵倒してはいけないからじゃない、ユリアスの事などどうでも良かったからだ。
そして本当は鱗を見て気味悪がっていたと知った…。
勝手に一人舞い上がってて恥ずかしい…でも鱗に罪はない。ユリアスはこの鱗に沢山助けられて最強の力を手に入れられたのだから。
負けてたまるか、開始のゴングは鳴ったばかり、タイミングを見計らって動こう。
「では部屋に戻ると良い、我らはそなたを歓迎する」
「ありがとうございます(嘘付け、殺そうとした癖によく言うわ)」
礼を言って速やかにホールを出ていったユリアス、自室に戻るとナソスがやって来て浴室に案内された。しかし湯槽に入れられていたのは温かいお湯ではなく冷たい水、ナソスも案内するだけして去って行った。
馬鹿正直に冷水で浴びる訳がない、魔法を使って水をお湯に変えて湯槽に浸かった。
「はぁ~温かい~ 疲れが取れるわ~」
用意したナソスが聞いたら頭が可笑しい奴だと思われるだろうが嘘ではない、水をお湯にしたのだから。
対立関係だった国の王女が来たからではなく、悪評だらけな悪女の王女が来たのが許せないのだろう。しかもよりによって交渉条件を勝手に変えた本人として…冗談じゃない!
勝手に変えたのはミアだ、どこまでユリアスの居場所を奪おうとするのだ…
帝国でのユリアスの評価は自国と同じくらい低い…これでは結婚しても今までと同じだ。
でも焦る必要はない、自由になるための時間は沢山ある。
まずは【竜脈】とやらに行って誰かと話さなくては。
そう言えば近い内にその者の使いが来ると言っていたが…何時だろう。
待ってるのは冷遇妃一直線だが、此処は戦闘狂だらけの血と戦さの帝国、痛い拷問があっても可笑しくない…
その後、入浴を済ませて自室に戻って荷物を開けた。部屋を出たあとから収納魔法で隠してたので何も盗まれてない。
金銭、ドレス、アクセサリーは盗られても構わないが色々と面倒なので収納魔法でしまっておこう。
次に…裁縫道具や剣等の物騒なモノ…暗器を持ってるとか騒がれたら面倒なのでこれもしまっておこう。裁縫道具はクローゼットに入れておこう。そうなると、入れるだけに使った鞄だけが残った。
部屋を漁られて金目のモノは持って行かれる可能性が高いが大事なモノは全て収納魔法で隠したので大丈夫だ。この鞄には囮になってもらおう…漁っても何も入ってないし高価な物でもないから燃やされても、壊されても大丈夫だ。
ひとまず片付けが終わったので寝る事にした。扉と窓の鍵をかけ、外からじゃ開かないようにした。鍵を使っても無駄だ、ユリアスの魔法でかけたのだから。
竜脈からくる声の主の仲間が来るのは何時なのだろう…。考えながら目を閉じていたらいつの間にか眠った。
…真夜中…
ガチャガチャとドアノブを動かし鍵で開けようとする音がした。
「(来たか…でも甘かったね、伊達に嫌われ者をやってないわ。扉を壊そうとしても無駄、普通の人間が神秘の存在に勝てる訳がない。皇族じゃない限りね…大丈夫、絶対に開かないはず)」
「…クソッ!!」
ドカッと扉を蹴った後、侵入しようとした者は去って行った。
明日は窓から入ってくるかもしれない…無駄なのにね。
☆★☆★☆
翌日
朝早くに目が覚めたユリアスは鍵にかけた魔法を解いた、ナソスやフリップが来た時に面倒だからだ。
朝の6時頃なのか、バタバタする使用人達の足音がする。この時間に王族は普通起きない、使用人がお越しに来る時時間が決まってるからゆっくり寝られるが…まだそうはいかない。
恐らく誰も来ない、だったら早めに起きて身支度を済ませてしまおう。
どうせ嫌がらせの一種で時間を伝えなかったり呼ばなかったりするはずだ、何故自分が相手に合わせないといけないのかと思うが…色々と疲れるのでやれる事だけはやってしまおう。
…2時間が経った。
午前8時になったが誰も来ない。ミアが言うにはフィリスタル王国ではこの時間に起こされ家族で食事をしているそうだ。一度も呼ばれてないユリアスには関係のない事だったので気にも止めてなかった。
やることが無いので部屋を確認してみた。
まずは扉は1つ、中くらいの窓が1つ…古びたクローゼットとドレッサー、シングルベットが1つ、一人用のテーブルと椅子があるそこそこ広い部屋だ。ベランダは無いので窓から出るしかない、またテーブルとは別の机が1つあっま。
物置部屋と言うよりは使用人が使う部屋みたいだ。
あまりホコリがないので来た時からこの部屋を使わせる気満々だったのだろう、家具にも無かった。
ユリアスが椅子に座っていた本を読んでた時だった。
ガチャリと開き、ノックもしないで1人のメイドが入ってきた。
「あれ?もう起きてる?まっいいや、はいコレ、さっさとしてよね」
「(ノックもしないで入ってきた…こっちでも粗末に扱おうっていうのね、やってやるわよ)」
メイドがテーブルの上に水の入った容器を乱暴に置いた途端、読んでた本とユリアスの服に飛び散ったが嗤っていた。
本来メイドが持ってくる顔を洗うようの水はぬるま湯で目が覚めやすい温度になってるはずだが、どう見ても冷水…おまけに氷が入ってた。
「(何で何処に行っても古典的な嫌がらせしかしてこないのかなぁ~ その程度の王女だと思ってる?残念、私はそんなに柔じゃないわ)」
一応魔法で洗ってはあるが、面倒なので冷水で顔を洗った。
「っ!!…さっさと拭いて」
ユリアスが顔を洗い終えるとタオルを投げたが…タオルが容器に入った。
「キャハハ ほら、拭きなさいよ。新しいのは無いわよ?アタシに仕事作らせないでよね?何?怒る?自国みたいに大暴れする?キャハハやってみなさいよ」
「(…これはお灸が必要ね)そう、そこまでいうなら戻って良いわよ」
「へっ? キャアァァァ!」
ユリアスは風魔法で無礼なメイドを吹き飛ばした。扉を開けたままだったのが仇となり、魔法で吹き飛ばしたメイドは氷水を顔に浴びた。
「いやぁぁ!冷たい!何するのよ!!」
「見てわからないかしら?あなたが来た時には私の身支度は既に終わってたの、あなたの仕事を減らしてあげたのよ?それとも、何もしてこない私がただの王女だと思ったの?噂を知っててあんな事をしたのだったら、自業自得よ」
「なっ!!やっぱり悪女じゃない!!ホントに!こんなんだったら愛されしミア王女様が良かったわ!こんな鱗持ちの気持ち悪い女なんかに使えたくない!!」
「(なるほど、やっぱりそう見られてたのね。誰も気にして無かったんじゃなくて、気持ち悪いと思ってたけど言葉にしなかったって事か…でも鱗を侮辱されて良い気はしないわ!)
なら来なくて良いわよ。生憎、自分の事は自分で出来るから」
「はぁ!!ふざけないでよ!そんな事されたら給料もらえないじゃない!!」
「私に使えたくないんでしょ?しょうがないじゃない。それと煩いわ。朝から耳障りよ!」
「はっ!?キャァァァ!」
言うだけ言ってスッキリしたユリアスは無礼なメイドを風魔法でエントランスに運んだ。
もう色々疲れてた…もう無抵抗はやめよう。
今さら罵倒されようが粗末に扱われようがどうでも良い。自分のやりたいようにしてやる、でもミラの広めた悪評だらけの悪女になんて絶対にならない。
それに昨晩やられた浄化の火炙りのおかげか身体が軽い、身体を縛り付けてたモノが無くなった気がして思う存分動ける。
さっきの風魔法もこれまで以上の威力になっていた。
本当に悪いモノが祓われ浄化されたのだろう。
…思い当たる節もあるがもうどうでも良い、拘束は解かれた。何でも出来る…力を隠す必要はない。
もう此処はフィリスタル王国じゃない、自由になる為の道は
「告げ口上等よ、でも私は負けないから」
吹っ切れたユリアスは部屋に戻って部屋の掃除を始めたのだった。
そしてこの日の昼に…アルベリクが何人もの騎士を連れて許可無く部屋に押し入ってきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます