3.浄化の炎で火炙り!?

 ユリアスは一室に案内された。


「(なんか既視感がある部屋ね、まぁこっちの方が有難いわ。あの小屋過ごしやすかったからね)」



 ナソスは忙しいので失礼すると言って去っていき、残ったフリップは部屋の扉を開けてユリアスを入れると乱暴に鞄を放り投げた。



「悪評だらけの嫌われ王女を寄越してくるとは…お前の国は終わっているな」

「我ながらそう思うわ、勝手に交渉条件を変えるとかイカれてるわ」

「フンッ、どうせスパイだろ、愛される妃になれると思ったか?残念だが誰もお前のような姫を妃とは思わないだろう」

「愛されたいとは思ってない」

「口では何とでも言える、勝手な事はするな」



 そう言って人が変わったフリップは乱暴にドアを閉めて去って行った。


 流石愛され王女のミアの発言力…此処まで人を動かしてしまうとは。



 しかし違和感があった。


「この国の騎士もさっきの2人も…この鱗については何も言って無かったわね。どちらかと言ったらミアの広めた悪評や噂で私を見ていたわね…それに、来る時話し掛けてきたヒトも【竜脈】でどうとか言ってたから…この国にはドラゴンがいるの?

 それか…私と同じく鱗を持ってる人がいるとか?」



 そうなのだ、カリブルスの人間は誰一人ユリアスの鱗に関して何も言って来なかった。

 髪で隠してたが、ちょっとした振動でずれて見えてしまうのだが…ちょっとだけ見えた鱗に関して驚いてはいたが、何も言ってなかった。

 気持ち悪いや不気味だと罵倒されると思っていたが…何故だろう…

 とにかく今は大人しくしてよう。

 相変わらず真っ暗な黒髪に怪しさしかない金色の瞳…我ながら不気味だ…あまり人前に出て良い姿ではない。

 これではミアの思うツボでも可笑しくない。


 しかしユリアスが髪染めを何度も試みても…黒が勝って色が付かない。もちろん色抜きをしてからやってるのだが…黒に勝てなかった…。


 まるで頑固な汚れのようだった…髪もこっちで切る予定だったから良いが…この黒髪は怖すぎる。


 取り敢えず髪を切ろう、幸いドレッサーがあったので切ることにした。

 肩の辺りまでバッサリ切って…


「まだ…もうちょい…あっヤバッ…左右非対称アシンメトリーになっちゃった。まぁこれはこれで良いかな

 で前髪は…鱗を気にしてる人はいなかったから隠す必要は無いわね」


 そしてバッサリと切ってロングヘアーからショートヘアーにした。予定よりもバッサリ切ってしまったので結構短くなってしまった。

 前髪も切ったので右半分にある白い蛇の鱗がハッキリとしている。改めて見てみると…悪い気はしない。

 びっくりするが、この鱗のおかげで最強の力を得られたのだから恨めない。

 後はこの真っ暗な黒髪をどうにかしたい。


 取り敢えずドレッサーの周りと床を綺麗にして誰か来るのを待った。


 …しかし日が沈み夜になったのだが…誰も来なかった。

 仮にも王女に対してこの扱いは…既視感しかない。


 またしてもこちらでも冷遇されるとは…自由時間を作ってくれてたのは嬉しいが…



「まだ客人なんだけど」

「誰が客人だ、お前は人質、いやそれ以下か」

「じゃあ何?仮にも嫌われ王女に奴隷だと言わないわよね?」

「はっ、誰がお前のような悪評しかない奴隷を欲する。来い、陛下達がお待ちだ」

「今行くわよ」


 やっぱり鱗に関して何も言って来なかった。

 先程よりもハッキリと見えてるのに…興味が無いのもあると思うが…


 フリップは老いた男性とは言え、若者のようにユリアスと言い合いが出来る…なるほど、老人でも若者顔負けな発言が必要なのか…だから生き生きとしてるのか。


 そんな事を考えてるとホールに通された。


 目の前には王座に座る皇帝と后妃と思われる2人、周りには招待された大勢の貴族達がいた…見世物じゃないぞ。


 そして中央には若い青年が立っていた。

 彼の後ろに位置する席には似た顔の青年もいた。



「(は?なにこれ…まさか結婚式とか言わないわよね?)」


 結婚式にしては神父が居ない、2人の青年も高貴な服装をしているだけ…結婚式ではないのは確かだ。


 皆が険悪な目で彼女を見ていると…殺気を感じたのかユリアスが歩きだした。

 殺気を出しているのは間違いなく中央にいる青年だ。

 彼だけじゃない、後ろにいる青年も出してるのだろう。


 早く来いと言ってるように感じたが、そんなものじゃ怯まないのがユリアス。


 何もわからない状態だが青年の隣に立つ前に皇帝に対して頭を下げた。

 他国の王への無言の挨拶は基本だ。相手の許可が出るまで口を開くのも勝手に頭を上げるのも無礼だ。


「ほぅ…頭を上げよ」

「はい」

「!!」

「……」


 顔の右半分にある白い蛇の鱗をみて驚く后妃だったが…すぐに元の表情に戻った。



「遠い所からよく来てくれたフィリスタル王国第一王女 ユリアス=フィリスタル、和平交渉を勝手に変えられたのは驚いたが、和平の交渉を承諾してくれた事に感謝する」

「ありがとうございます」

「しかし、で変えるとはどうかと思うぞ」

「(やりやがったなミア!!ちくしょう!!)申し訳ございません。ご迷惑をおかけしました」


 …怒りを露にしたいが我慢だ。

 こればかりは悔しくて仕方がない…一体レグユアスに何を吹き込んだんだ…。


 しかも皇帝も感謝を言ってるが怒りを感じる声で言っていて…全く歓迎されてないのがわかる。



「そなたのような者を我が息子『アルベリク』に渡すのは危険だ。そこでだ、我が国に伝わる洗礼を受けてもらいたい」


「せ、洗礼ですか…」



 もう嫌な予感しかしない…どう考えても洗礼と言う名の公開処刑が行われる気しかしない…



「我が国の炎は他国の炎よりも強力だ。そして我が一族は炎の龍神『エンブレアス』の血と力を宿して産まれてくる。そして、エンブレアスの炎には浄化の効果もあるのだ。悪しき存在を祓う力だ、清めの儀式と思うが良い」


「え、えっと…(ちょっと待ってよ!?ようは火刑を受けろって事!?)」



 ようは火炙りの刑を受けて浄化されろって事…殺す気満々じゃないか!

 何が洗礼だ!

 そんな事を考えてる間に隣に立っていた『アルベリク』とやらがユリアスの頭に手を置いた…直後…


「っ!!」


 業火がユリアスを頭から包んだのだった。

 まさに火刑…公開処刑すぎる…


 周りは嗤っていた…悪女な王女などいらない、アルベリクが可哀想だ…この国の汚点だと…


 皇帝とアルベリク、彼の弟は嗤ってるように見えた…后妃はただ顔を背けて見ないようにしていた。


 …しかしユリアスの悲鳴は聞こえなかった。


「(熱く…ない!?どう言うこと!?むしろ身体が軽くなってきてる気がするんだけど!?

 なにこれ…めっちゃ気持ちいい!お風呂に入ってるみたい~ なんか身体の汚いモノが全部燃えて失くなってるみたい

 なんかずっとこの中にいても良いかもしれない~…


 …って火炙りにされて喜んでる場合じゃない!

 これも蛇の鱗のおかげなの?耐火付きとかホントに最強じゃん。

 確か炎の龍神って言ってたから、やっぱり神秘の存在同士の力とか関係してるのかな…


 浄化の炎かぁ 私にある汚いモノ全部燃やしてくれてるのかな…

 …これ、私が鱗持ってなかったら普通に死んでたよね…有難いわ…ホント)」


 その瞬間、眩しい光がホールに放たれた。光はすぐに消えたが…先程まで炎に包まれていたユリアスの姿を見て人々は驚きを隠せなかった。


「「!!!」」

「なっ…生きてるだと!?」

「さっきとなんか違くない!?」


 それもそのはず…先程までの真っ暗な黒髪は何処にも無かった…。


 アルベリクの隣にいたのは…淡い緑色 翡翠の髪をしたユリアスだったのだ。


 真っ黒な黒髪から淡い緑の髪になっていた…これには本人もびっくりしていた。



「えっ!?何コレ!?私の黒髪ってやっぱり汚いものが付いてたの!?」



 髪染めをしても黒が取れなかったのに浄化の炎の火炙りで黒が取れるとか…汚れていたとしか考えられない。



「まさか…彼女は…」

「あり得ない…アレで生きてるとか」

「……」



 やはり殺す気満々だったようだったが、存在が悪いはずなのに燃やされたのは黒い髪だけ…白い蛇の鱗は残っていた。


 そして…この鱗は悪しき存在でも汚れたモノでもない、正真正銘の神秘の存在の一部だとわかった。


 鱗への評価が爆上がりなユリアス、何度この鱗に救われて来たか…


 ふと我に返って皇帝に向き直って頭をさげた。



「有難い洗礼でした」


 決して煽り言葉ではない、本当に感謝してるのだ。


「そ、そうか…なら良いが…」


 気まずそうな様子で答えた皇帝だった…

 その時…誰かが小声でこう言ったのだった…


「気持ち悪い…」


「……」



 始まった…


 …開始のゴングが鳴った気がしたユリアスだった…。

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