2.自由への門出の

 呼び出されて流れるようにユリアスが帝国に嫁ぐ事が決まった。

 ユリアスを毛嫌ってたリアムは小屋に来てまで色々言ってきたが、気配を消す魔法を使ってるユリアスには無意味だった。

 何せ、この日も小屋の裏で剣の鍛練をしていた時、誰も居ない小屋に向かってあーだこーだ罵倒していたのだから。

 馬鹿としか言えない…ここで笑ったらバレてしまうので笑うのを我慢してお馬鹿さんなリアムをプルプルと震えながら見る事にしたのだった。


 いくら罵倒しても反応がないので勝手に扉を開けて中を確認すると…小屋に居なかったと知って顔を真っ赤にして去って行ったのだった。



「(アッハハハ!馬鹿だわ!馬鹿すぎる!耳まで真っ赤にしてたや!)」



 腹を抱えながら小屋に戻ってその時に備えての準備をした。

 ユリアスの私物はほとんどない、ドレスも宝石もほとんど無い、ちなみに…針子も出来るので布さえあればドレスも衣服も作れる。刺繍もレース縫いも出来る。


 最悪名前を隠して商売をすればそれなりに稼げるだろう。


 そんな事を考えながらも…まとめた荷物の少なさに自分で驚くユリアスだった。鞄一つで済んでしまうとは…まぁ、荷物を収納魔法にしまうので手ぶらで行ける。(嫁入りする王女としてどうかと思うが…)




 そして1週間後、カリブルスからの馬車が来た。馬車と共に使者が交渉の承諾書をレグユアスに渡していた…。戦争が起きなくて本当に良かった。


 この日のユリアスは水色のドレスを着ていた。


 ユリアスが嫁ぎに行くと言うのに見送りには誰も来なかった。ユリアスは荷物を馬車に乗せ、自分も乗ろうとした時だった。



「待ってお姉様!」

「(最後の最後まで来ると思ったよ…そんなに悲劇のヒロインになりたいか)」



 ホントにそうだ、最後の最後までユリアスに絡んできたミア。

 渋々ミアの相手をする事にしたユリアスだったが、突如ミアはユリアスの耳元に顔を近づけさせて…こう言った。



「お姉様の居場所なんて何処にも無いんですからね。自分が愛される存在だと思わない事です。自分の立場わかってますよね?下手な事したら命落とすかもしれませんから、気を付けた方が良いですよ」

「…そう(ご忠告どうも)」

「は?それだけ?」

「それだけって?」

「っ!!」



 怒りと嫉妬で暴れると思ったのだろう、残念ながらユリアスはそんな悪女じゃない。

 思いどおりの反応を見せなかったのが面白くなかったのか、ミアは顔を真っ赤にして去って行った。

 何がしたかったのかはわからないが、リアムとミアがホントに馬鹿なのはわかった。


 もう二度と戻る事はないフィリスタル王国…寂しさすら無い、そもそもこの国に自分の居場所なんて無かったのだから、思い出も感謝もない。

 まぁ…強いて言うなら、鱗を持った自分を産んでくれたレナータと最低限の知識を与えてくれた名の知らない侍女には感謝するくらいだ。


 ユリアスが馬車に乗ると馬車は動き出して帝国に向かったのだった。



 同時刻…幼い王子ベルジュの部屋にはルカとルアンがいた。


「ねぇベル…ボク嫌な予感がするんだ。アイツの事は嫌いだけど…勝手に交渉条件を変えてアイツを渡すとか…お父様と兄様…ミアお姉様達が怖いよ…」

「よりによって相手は戦闘狂しかいないカリブルスですからね…戦争が起きなければ良いですが…」

「あぅ~?」


 彼らの予想が的中しなければ良いが…


 …後に…フィリスタル王国が崩壊の危機に陥ることを彼らはまだ知らない…


 ☆★☆★☆


「……」


 帝国までは1日もかからないが、状況次第では2日かかる事もある。


 一人馬車に乗っていたユリアスはウトウトしていた。


 その時…何処からか声が聞こえた。


『待っていたぞ…我が……』

『本当に現れるとは…』


「ん?…」


 空耳ではない、声はユリアスの脳に直接話しかけてきてる…。こちらが声をかけても返事が返ってくるとは限らない、なら同じ条件でやるだけだ、ユリアスは頭の中で会話をしてみた。

 すると頭の中で答えが返ってきた。


「貴方達は誰?」

『今は名乗れないが、近いうちにコイツを送る』

『そしたらボクが全てをお話しますので、今しばらくはお待ちくださいね』

『カリブルスの【竜脈りゅうみゃく】で待ってるぞ』

『ではまた~』

「ちょっと!」


「はっ!」

「ユリアス王女?大丈夫ですか?」

「えっ?あ、はい。大丈夫です」


 どうやら会話をしてる間に(帝国側の)国境の砦に着いていたようだ。朝方に出て現在昼前、順調だがまだかかるだろう。

 既に帝国の中に入ったようだが、皇族のいる城まで距離がある。


 騎士が軽食を渡してくれた、受け取って毒があるか確かめて見たが入ってなかった。

 毒入りの食事を無理やり食べさせられた事もあったが、毒への耐性も身に付けてるので毒入りも美味しく食べる事も出来る(それはダメでしょ)


 連れの召使いもメイドもいない王女など前代未聞、文句も言わずに軽食を受け取った王女に騎士達は戸惑った。


「おい、話と違くね?」

「いや、今は猫を被ってるだけかもしれん」

「じゃあ何でメイドも騎士も連れてないんだ?」

「それはアレだ、あまりにも性悪だったから逃げて来たんだろ」

「あ~なるほど」


「……ミアのせいか」



 ミアが広めたユリアスが悪女だと言う悪評はカリブルノスにも伝わってるようだ…嫌な予感がする、悪評しかない性悪王女を歓迎する訳ない。

 しかしこれも自由になるための試練、出来すぎた悪評を鵜呑みするような人間になんて絶対に負けちゃダメ、自由になるためには己の行動で真実を見せるだけ。

 むしろ悪女なのはミアの方だ、嫁いだが戦争を起こさせ、更には全てをユリアスに擦り付ける気だったのだろう。


 しかし誤算だったのはルアンとミアが両想いだったこと、ルアンに色仕掛けしたのもユリアスを噂通りの悪女に仕立て上げようとする為の行動だったのだろう。しかし後にミアはルアンに惚れた…ある意味、ルアンのおかげで戦争の勃発が防がれたのだ。



 騎士達の呟きを聞きながら軽食のサンドイッチを食べ終えたユリアスは再び頭での会話をやってみた。しかし先程の者達からの返事は無かった。

 仕方がない、取り敢えずやることがないので寝ることにしたユリアスだった。


 ★☆★☆★


 時刻は昼過ぎ 夕暮れまでまだ時間はある。


 ようやく帝都に入って皇族がいる皇城おうじょうに到着した。

 騎士にエスコートされて馬車を降り、そのまま城内に案内された。

 待っていたのは黒い燕尾服を着た老いた男性とメイド服を着た老いた女性が出迎えた。



「ようこそおいでくださいました。『ユリアス=フィリスタル』王女殿下、ワタシはこの城の執事頭をしている『フリップ』と申します」

「同じく当城にて侍女メイド頭を勤めている『ナソス』と申します」

「えっと…よろしくお願いするわ」


「あれが悪評だらけの悪女王女か…」

「確かフィリスタルではめっちゃ嫌われてるんだったよな」

「えっ!?じゃあ皇太子殿下は厄介者と結婚するの!?」

「だったらアタシが結婚するのに~」


「(好き勝手言ってるな~ これは長い道のりになるわね…)」



 ミアの人脈はホントに恐ろしい…なんで偽造した悪評と噂を広めるんだか…まぁ嫌がらせの一種なのだろう


「(だからお姉様の居場所なんて何処にも無い…か、ハッ、笑えるわ。やってやるわ、あんたの思い通りには行かないから)」



 覚悟が決まったユリアスはフリップとナソスを見た、2人に荷物を渡して一室に案内してもらった。



 これは自由への門出…戦いは始まったばかりだ…。絶対に負けない、ユリアスが戦う相手は帝国の者達じゃない、好き勝手してくれたミアだ。


「(私は絶対に自由を得てやる!私が自由になれば私の勝ちなんだから!)」



 ユリアスが自由を得るための戦いが幕を開けたのだった…

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