第一章 1部

1.愛され王女の我が儘で…

 ユリアスとミアは現在16歳、王族にとってこの年の嫁入りは普通だ。

 相手が自分の父と同じとか年下とか…関係ない。

 5歳上の兄リアムは婚約者との婚約式を間近に控えてる。妹にデレデレなのに婚約者がいるとは…その婚約者が気の毒でしかない。


 ☆★☆★☆

 ある日 バレないように気配を消して剣術の特訓をしていた時だった。


 小屋の扉に矢で止められた一通の手紙があった。

 弓文の方がまだ見た目が良い気がするが、気にしてたらダメだ。


 顔の鱗は前髪で隠し、腕や足の鱗は夏場でも長袖や長いスカートやブーツ(冷感がある素材等で作ってる)で隠してる。

 髪を1本に束ねていてパンツスタイルの凛々しい格好をしたユリアスは手紙を読んだ。



「……面倒くさ」



 父で国王の『レグユアス』からの呼び出しとの事だった。

 短い文章で王座の間に来るようにとの事だった…


 嫌がらせで今の格好で行ってやりたいが、国王の呼び出しなど滅多にない。来る時は…厄介事を押し付けてくる時だ。前回はリアムの代わりに戦場に出て魔物の骨を取ってこいとか…あまりにも王女に与える仕事ではなかったが、帰ってきたユリアスを見たリアム達の悔しそうな顔は傑作だった。

 ユリアスにとってあのくらい楽勝だ、放置されてる間、魔物の討伐くらい冒険者や傭兵に混じって一緒にやっていたのだから…こちらも王女らしくない…勇ましすぎる…。



 あちらがユリアスを娘と思ってなければユリアスもレグユアスを父と思ってない。そして王妃レナータも母とは思ってない…


 渋々衣服を脱いで手元にある青いドレスにちょっと細工をして着替えた。小屋から王城までそれなりに距離があるが…ユリアスが歩く訳ない。

 魔法で王城の近くに瞬間移動して時短、嫌がらせで時間を伝えなかったりするが、そんなんじゃ彼女は止められない。

 勇ましく強すぎるユリアスの邪魔をしたければ魔法封じの道具を使う他無い。


 そんな事もわからない使用人や王族達は古典的なやり方でユリアスに嫌がらせをする…愚かだ。



 力を見せつけたら良いように使われるだけ、だったら最後まで隠して国を出た方が全然良い。

 この力は自分の為にだけに使うと決めたのだから…ここまで鱗の力に虜になってしまうとは…ユリアスも思ってなかったようだが。



 そんな事を考えながらも堂々と王城を歩いて王座の間に来て扉を開けて入った。


 遅れてくるだろうと思ってたリアム達は予定よりも早く現れたユリアスに驚きながらも険悪な表情に戻って睨み付けた。

 ミアとルアンも驚いてるようだったが、ユリアスが見てもないのにミアは怯える仕草をしてルアンに抱きついた。


 予定なら1時間はかかるだろうと思っていたレグユアスは驚きながらも咳払いをして口を開いた。

 小屋から王城まで1時間弱かかる、しかし時短で来たユリアスは経ったの10分で現れた…



「…我が国と敵対関係である『カリブルス帝国』から和平交渉が来た」

「カリブルスって…あの戦闘大好きな血生臭い国ですよね?…こっちもそれなりにダメージを受けてますが、あっちから和平交渉なんて絶対何かありますよ…」

「ルカの言う通りです父上、絶対何かあります。まさかこっちで売りの鉱石を全て寄越せとかじゃないですよね?」

「鉱山鉱石ではないが…条件付きなのは当たっている」

「「!?!?」」


 さっさと言えば良いものを…と思ってるユリアスだったが、言おうとしないレグユアスを見て察した。



「(あっ、これ絶対ミアが絡んでるな)」



 溺愛するミアが絡んでるのは間違いない、対するミアは何も知らないのか、不思議に思ってるようだった。


 覚悟を決めたレグユアスはゆっくり口を開いた。


「和平交渉の条件として…フィリスタルのユリミア王女をカリブルスの皇太子に嫁がせるようにとの事だ」


「「はぁ!?!」」

「なっ!ミアお姉様を!?」


「……(ほ~らやっぱり)」



 予想的中、よりによって敵国の要求がミアとか…次に起きる事も予想できる。


 そしてこの事を聞かされたミアは顔を青くしてルアンに抱きついた。



「そんなの嫌ですわ!ワタシはルアン様をお慕いしてます!敵国になんて行きたくありませんわ!」

「そうですよ陛下!ワタシもミアを愛してます!」

「ルアン様…貴方はユリアスとです…」

「でしたらユリアスと婚約破棄します!良いな!お前に拒否権はない!!反論しても無駄だから「承知しました、破棄します」


「「!?!?!」」



 誰が婚約者放置して婚約者の妹と深い関係になるような令息と結婚するか、こっちこそ婚約破棄大歓迎だ。

 何を驚いてる?


 これまでルアンが見てきたのは文句を言わないユリアスだった。

 彼はどこかユリアスは自分が好きだから何をしても許してくれると思っていたのだろう。

 残念ながら、そんなこと一切なかった。ユリアスはルアンに興味が無かったし、彼が会いに来るとかは一切無かった。


 嫌われ王女に何をしても許されると思ったら大間違い。

 ユリアスはただの嫌われ王女じゃない、神秘の存在に等しい蛇の鱗と力を持って生まれた王女、そして性格は良くない…


 瞬く間にユリアスとルアンの婚約関係が破綻し、新たにミアとルアンの婚約が作られた。


 こうなるとミアはフィリスタルから離れる事は出来ない…が、残念ながらこの国の王位継承権は男児のみに与えられるのでミアが残っても女王にはなれない。既に王位継承権は長子リアムに与えられてる。



 出来レースすぎる…呆れて溜め息が出そうだが変な事をすればリアムとルカの罵倒が始まる。ここは我慢しよう。溜め息を我慢したら欠伸が出そうになった…もっと我慢しないといけないのに…緊張感が全くないからだろう。


 早く終われ、さっさと用件を言えと目で訴えるとこちらを見たレナータが察したのかユグレアスに話を続けるよう言った。



「…しかしミアを嫁がせなければ交渉は破綻してしまう…影武者を渡すにしろ、ミアに似た娘など早々居ない」

「何を言ってるんだ父上、こんな時こそ邪魔者を引き渡せば良いではないですか」

「兄様、話を聞いてましたか?敵国はミアお姉様を要求してるんです。コイツはミアお姉様に似てない、影武者にもならない…を渡したら国が終わるんですよ」

「チッ どこまでも邪魔でしかねぇ」

「お姉様…影武者……アハハ…」

「ミア?」


「(おっと…また始まるぞ…)」



 パーティーのような不吉な笑みを浮かべた途端、ミアは口を開いた。



「まぁお父様、深く考える必要はありませんわ!彼方は王女を要求してるのですよね?」

「う、うむ」

「ミア…何を?」


「でしたらお姉様をお渡ししたら全て解決いたしますわ!ユリミアは渡せなくなったからユリアスを渡しますって言えば良いのです!」


「なっ!」

「馬鹿な…」

「「……」」


「(はぁ…これだから脳内お花畑が、まぁ一番手っ取り早い方法だな。まぁ行かな「そうだ、そうだな!何で深く考えていたんだ!」…は?」



 リアムとミアが目を輝かせてとんでもない発言をしたのだった。

 まだあそこまでの腹黒さを宿してないルカは呆然した。交渉を勝手に変えるのは和平交渉をしないと言ってるようなものだ、この中で一番幼い子がわかってるのに…


 恐ろしい発言のあまりルアンは何も言えなかった。流石にその発言はヤバイと思ったのか、止めようとした時には遅く…リアムと盛り上がってしまっていた。



「父上!何もミアを絶対に渡せとは書かれてないのですよね!でしたらコイツを渡せば解決です!」

「馬鹿な発言はおやめなさい!彼方の要求を勝手に変えるのは交渉が決別したのと同じです!」

「でもワタシは行きたくありません!ルアン様とこの国で幸せになりたいのです!

 それに!ワタシが行ったら…お姉様が何をするかわかりませんよ?だからお姉様を渡しましょう、居ても居なくても変わらない人ですから」

「ミア!馬鹿げた事を言うな!君はこの国を滅ぼす気か!?戦争なんか起こったらこの国に勝ち目は無いぞ!」


「(ちょっと!?勝手に話を進めないで流石に私の意見を聞いてもいいんじゃない?!)」


「でしたらお詫びとして色々渡しましょうよ、ですが悪女なお姉様が彼方で歓迎されるかはわかりませんが」

「一理あるな…」


「(いや!何納得させられてるのよ!一理あるなじゃない!)」


 やっぱりミアに甘い国王だ…この発言を聞いたレナータは信じられないモノを見る目で二人を見たのだった…。


「確かに居ても居なくても変わらない、この国において邪魔でしかない不気味な者など敵国にくれてやろう。すぐさま書類を用意し、質の良い鉱石を用意しろ」

「「ハッ!!」」

「お父様!?何を!?」

「陛下!正気にお戻りください!」



 突如考えが変わったのか戦争の準備をするかのように動き出したレグユアス…ルカとルアンは混乱していた。


「(ちょっと!!一言くらい言わせてよ!何流れるように捨てる形で嫁がせるのを決めてるのよ!!)」



 そんなツッコミをしてる時だった、ユリアスの近くでクスクスと嗤う声が聞こえた。

 声の主はミア…ユリアスを馬鹿にしたように見て嘲笑っていたのだった。



「何処に行ってもお姉様の居場所なんてないんですよ、あっちで死んでも誰も悲しませんから」クスクス


「(うっわ…帝国に渡さなくて良かった…どっちにしろミアのせいで戦争が始まる所だった…危な…)」



 フィリスタル王国が滅ぶのも時間の問題だと思ったユリアスだった。


 リアムとミアはレグユアスと共に動き、混乱しているルカ、レナータ、そしてルアンは置いてけぼりな状態だった…誰もユリアスを見てない隙に王座の間から出ることにした。



 王妃レナータはユリアスを何度か見ていたが、父で国王のレグユアスは話し合いの中一度もユリアスを見なかった。

 何時だって彼の目にユリアスは映らない、映るのは愛するミアだけだった。

 羨ましいとは思わないが、ただ国王として失敗はしてほしくないと思うユリアスだった。

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