痕蛇姫(アダヒメ)~嫌われ王女は強かった~
茜色
プロローグ
はじまりと茶番劇
「酷いわお姉様!どうして何時も酷い事ばかりするの!愛を独り占めしてるワタシが許せないの!?酷い!!」
「おい!ミアに謝れ!」
「ホント図々しい奴、何で今日に限ってパーティーにいるの?今日はミアお姉様の誕生日なのに?」
「ハッ、どうせ自分も誕生日を祝って貰いたいが為に出てきたんだろ、いやしい奴だ」
「……(くだらない)」
あぁ…また始まった。
お城のホールで行われてるパーティーでの中、一際目立つドレスを着た娘がワインでドレスを汚されたと泣き出したら…この茶番劇…
何がミアの誕生日だ、パーティーに出てほしいと言ったのはミア本人だろ。
またか、また私を悪女に仕立て上げて悲劇のヒロインになるつもりか。
面倒くさい、早く解放してほしい…
寄って集って黒いドレスを着た娘を罵倒する青年2人と少年1人、豪華な衣服を身に付けた2人の男女は見て見ぬフリ…
見世物の如く始まった茶番劇にホール内の人々はクスクスと笑ったりヒソヒソと話し出したりと…誰一人罵倒されてる娘を気にかけていなかった。
長い黒髪に金色の瞳をした若い娘は何を考えてるのかわからない表情をして罵倒を受けていた。
前髪で右半分を隠しているが、何も感じてない代わりに余裕を感じてるように見えた…
「おい!聞いてるのか!ミアに謝れと言ったんだ!」
「そうだ!ミアお姉様に謝れ!床に頭を着けて土下座をするんだ!」
「やめて!お兄様!ルカも!お姉様にはそんな気が無かったと思うけど、久々にパーティーに出られて浮かれていたのよ。でも本当はワタシを恨んでて恥をかかせようとしたのかもしれないけど…お姉様にはワタシから言っておくから…」
「ミア…君はなんて優しいんだ、どっかの誰かとは大違いだ。容姿も美しいのに心まで美しいとは…」
「(気持ち悪っ)」
黒髪の娘は目の前の茶番劇を他人事のように見ていた。早く終われと遠い目をしていた…
一向に謝る気配が無い黒髪の娘に怒りが爆発したのか、泣いていた娘と似たデザインの服を着た青年が彼女の頭を掴んで無理やり床に着けさせた。
「さっさと謝らないか!」
「ぐっ…(誰が言うか)」
「っ!なんて強情な奴だ!兄様、こんな奴に構ってたらミアお姉様との時間を潰してしまいます!追い出した方が速いです!」
「っ!そ、そうだな…チッ コイツを摘まみ出せ!二度と入れるな!」
「「ハッ!」」
「……」
鎧を着た者達が黒髪の娘を拘束し、外に出ると乱暴に突き飛ばした。
「チッ…気持ち悪い、触っちまったじゃねぇか」
「面倒事を起こしやがって、こっちの身になれよ」
「……」
乱暴に扱われる事になれてるのか、黒髪の娘は何事も無かったかのように身体を起して歩き出した。
城から離れた場所にある小屋にたどり着くと、扉に鍵をかけてドレスのままベットに横になった。
「はぁ~疲れた」
ずっと息を止めていたのか、解放されて喜んでるように見えた。
少し横になってた後、ドレスを脱ぎ、魔法を使って身体を清めてラフな格好になって再びベットに寝転んだ。
「何時になったら解放されるのかな…早く
枕元にあった小説を読みながらそう呟いたのと同時に…眠りについたのだった。
☆★☆★☆
『フィリスタル王国』の国王『レグユアス』には5人の子供がいる(王子3人 王女2人)
その中でも国王が溺愛し、国民に愛されてるのが第二王女『ユリミア』ことミア王女。
美しい金髪に宝石のような青い瞳、美しい容姿に優しい心の持ち主、まさに女神のような者だった。
国王と王妃は勿論、ミアの兄である王太子『リアム』、弟(第二王子)の『ルカ』、生まれたばかりの第三王子『ベルジュ』…そして『ルアン=ヒュバート』ヒュバート公爵家の次期公爵と言われてる。
…しかしその逆の存在がいた…ミアが愛されてる存在に対して、彼女の双子の姉『ユリアス』は国王をはじめとした王族、使用人、そして国民から嫌われてる…悪しき存在だった。
王女でありながらも王子のような名前を付けられたのは国王のせいだ。
王妃が産んだ双子を見た彼はミアに美の女神ユリーミアの名を授けたが…おぞましい姿で生まれたもう一人の娘を見た途端顔色を変えた…
全身に蛇の鱗のようなモノがあり、王家の象徴である金髪と青い瞳はどこにも無かった…黒い髪に金色の瞳をしていたのだった…
王妃『レナータ』もおぞましい存在を目にした途端…存在を消そうとした。
そこから始まったのだった…王家は片割れの存在を隠す事にした。
無かった事のように…使用人までもがユリアスを無視した。
レグユアスは嫌でもあの存在に名前を付けろと大臣達から言われ、美の女神ユリーミアの敵と呼ばれていた蛇の魔女『アスリル』の名を付け『ユリアス』と名付けたのだった…あまりにも酷い。どこまで行ってもユリミアが一番だったのだ…
片割れにユリーミアの敵の名を与えるとは…こればかりは大臣達はユリアスに同情せざるおえなかった…
この世界には魔法術が存在し、魔物の存在
魔王や勇者、そしてドラゴン等の神秘の存在も存在していた。
魔物よりも最も恐ろしいのは人間だ…そう感じた大臣達だった。
誰からも愛されず冷遇され、放置されて育ったユリアスは…同情した大臣が手配した侍女に城の隅にある小屋に移され、こっそり育てられた。
しかしその侍女はユリアスに触りたくなったようで、ユリアスが物心ついた時には姿を消したのだった。
しかし最低限の知識と栄養は与えていたのか、ユリアスは読み書きも、歩くのも難なくこなせていた、そこだけは感謝している。
また、ユリアスは今の状態にすら感謝した。
放置されているのなら、こちらが自由に動ける時間が沢山有るという事だ。
ユリアスが5歳にも満たない頃、既に自身が周りから嫌われ、冷遇されてる事に気づいていた。
同時に、自分の身体にある蛇の鱗のせいか違和感を感じていた。
ある書物を読んでいた時、そこには気になる事が書かれていた。
「神秘の存在の部位を持つ者は善にも悪にもなると…」
神秘の存在…神々はいないが精霊やドラゴンは存在してる世界だ。
これを読んだユリアスはすぐさま動いた。
魔法術の基礎の本も置いていってくれたあの侍女には感謝しきれない。
真夜中、ユリアスは自作の的に向かって炎魔法を放った。
すると想像以上の威力の炎が手から放たれ、的どころか小屋の後ろにある木々にまで火が移ってしまった。すぐさま水魔法を使って火を消し、風魔法で煙と臭いを消し、草魔法で植物を元の状態に戻したので火事がバレることはなかった。
恐ろしい…そして素晴らしい…
蛇の鱗を持って生まれたからこそ得られた人間離れした力に虜になってしまったユリアス。
魔法術だけだはダメだ、今の環境を利用して自分を鍛えなくては…
それからだった、ユリアスは力がバレぬように嫌がらせに耐えながら剣術、勉学、魔法術、戦術等…あらゆるモノを鍛えて身に付けたのだった。そしたら…いつの間にか最強の名に相応しい力の持ち主になっていた。
この力を上手く使えば自由になれる…そんな気がしたから、嫌がらせなんて痛くも痒くもなかった。
だから冒頭のパーティーで起きた茶番劇も他人事のように見ていたのだ。
実際ユリアスはミアにワインなどかけてない。一人壁の花になっていた所にワインを持って不吉な笑みを浮かべて現れたミアは己のドレスにかけて泣き出した…完全にミアの自作自演だったのだ。
わかりきってる自作自演なのに兄や弟、更には婚約者までもがミアに良いようにされてる…気づかないとかその目は節穴か?
だからといってあんな茶番劇に付き合う気は無い、自由になる為に必要なの試練だと思えば全然苦じゃない。
そんなユリアスの運命を大きく変える出来事が起きるのだった…
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