第39話 失敗
翌週、僕たちは校長室に呼ばれた。
なんでも今回の事件と、ダンジョン庁の失態の件で、国から正式な調査が入るとのことだ。
ダンジョンと探索者、それに教育も絡むこととして、この問題は一気に拡散された。
ニュース番組やワイドショーはこれ一色だし、ネットでも大賑わいだった。主にダンジョン庁が叩かれまくる方向で。
ダンジョンは武力、経済、治安、教育と様々な方面に影響を及ぼすもので、発見以降、様々な問題や課題が次々に産出した。
これにはそれまでの仕組みでうまく対応することができず、国はダンジョン庁という機関を作り対処に勤めた。
結果としてダンジョン庁主体で法制度、および関連する公共サービスが策定され、日常的にダンジョン関連の問題に対応するダンジョン協会が設立された。
それ以降、ダンジョン庁は国としてのダンジョン政策の大きなところを推進し、問題対処する機関となった。
しかし今回その機関に大きな問題が発覚した。
日ごろからダンジョン庁は高圧的に下部組織に対して接していた。予算を取り仕切ることで下部組織は言うことを聞くしかない状態だった。
調査で分かったことは大小さまざまあったが、最も大きな問題は実はダンジョン庁はダンジョンの難易度、つまりランクを意図的に偽っていたということだった。
学院ダンジョンは変異性のDランクダンジョンなどではなく、れっきとしたAランクダンジョンであるということ。ただ、世界的にも珍しい5層しかないAランクダンジョンで魔力が貯まりきっていない時には強いボスが出現しない仕様だった。それをダンジョン庁は掴んでいたのにも関わらず、公開せず、あえてDランクとすることで予算を削っていた。
じゃあ、なぜ今までは逆にあまり強いモンスターが出てこなかったのか。
実はこれが問題で、ダンジョンコントローラーを設置していたらしい。
それによって基本的にBランク以下のモンスターしか出ないようにしていた。そのために魔力を吸っていた。吸った魔力は定期的に回収し、なんと裏ルートで換金してダンジョン庁の裏金の一部になっていたらしい。
そしてさらに驚いたのが、ダンジョンコントローラーの正体だった。
これがメギドフレアドラゴンの卵だったのだ。
卵は孵化するために魔力を吸収する。その性質を利用していた。
これを開発したのはなんと矢吹さんのお父さんで、卵が孵化しないように魔力を回収する方法を確立したらしい。
そのことの詳細は知らない矢吹さんが、あえて魔力を投入してしまったのが不味かったらしい。
もともとかなりの魔力を吸っていたところに、矢吹さんの魔力が引き金になって、卵が孵化し、メギドフレアドラゴンが出現したというわけだ。
そんな危険なものを、あえて学院ダンジョンに置いていたということで、もうびっくりするくらいの炎上っぷりだった。
「そんなことになってたんですね……」
あまりニュースを見ない僕は改めて説明を受けて何と言っていいのかよくわからなかった。
咲良さんも隣で絶句しているが、絵里奈さんは色々調べて把握してたっぽい。どうでもいいけど、自分がわかってるからって、真面目に話を聞いてる僕につんつんしてくるのはやめてほしい。
睨むとめっちゃ可愛い笑顔で見返されるし……。
「1点君に謝らないといけないんだが……」
「お話は終わりましたでしょうか?ではすみませんがインタビューをお願いします」
「はっ?」
そう言って入って来たのは見覚えのあるお姉さんと、カメラクルー。
えっ、インタビュー?
「はじめまして、東都テレビの岩瀬です」
「はぁ……」
やばいよね?配信ならまだしも、テレビなんて絶対鬼女にバレる……。自信過剰なあの人は他人の配信は絶対見ないけど、テレビはまずい……。
「配信の記録動画を見せて頂きましたが、素晴らしい活躍でした。あなたがSランク探索者である祠堂誠さんの元パーティメンバーだという噂があるのですが、本当でしょうか?」
やっぱりそれか……終わった……。
「あの……」
「これはさすがに酷いです。行きましょう」
「うん……」
僕は咲良さんとに手を引かれて歩き出す。
「ちょ……どうした?」
「最低です……」
「えっ?」
校長先生がどうしたのかと焦ったように近寄ってくるが、あの天使な咲良さんが睨みつけながら呟くと歩みを止めたようだ。
僕と咲良さんはそのまま出て行った。
平穏に生きるはずが失敗したなぁ……。
「咲良さん、ありがとう」
「ううん。寮に戻ろ……ちょっと休んだ方が良いよ」
「うん……」
とぼとぼと僕の部屋に帰った。
□校長室(鞘村絵里奈)
「どうしたんだ?テレビに出たくなかったとか?」
「校長先生は事情をご存じないのですか?」
「事情?」
どうやら知らないらしい。
燈真くんはダンジョン協会の方に手伝ってもらって逃げて来たと言ってたけど、先生たちに言っていなかったのかな?
「失礼します。どうしたの?何かあったの?なぜテレビカメラが?」
そこへ白石生徒会長が入って来た。
「白石生徒会長。お久しぶりです。東都テレビの岩瀬です。夢乃間くんにインタビューしようとしたのですが、気分を害してしまったようでして」
「岩瀬さん……夢乃間くんにインタビューですって?今カメラは回っているの?」
「いえ、今は止めています」
「今はということは夢乃間くんは映ったの?……映ったのね。それで2人がここにいなくて、鞘村さんが怒っているのね」
その通りです。
「校長……」
「あぁ」
「軽蔑します」
「えぇ?……なぜだ?」
「校長は事情を知っていたのでは?夢乃間くんは祠堂のパーティーから逃げ出してここに来たのですよ?」
「それは知っているが……でも、あの強さだぞ?実績もある。もう怖がる必要はないだろう?戻ったとしても充分やっていけるだろう」
なるほど。あくまでもそういう認識なのか。
燈真くんを見ていれば精神的な根幹のところで怖がっているのがわかる。
咲良から少しだけ教えてもらった過去が関係してるってことなんだろうけど、それを知らなかったのか。
「燈真くんはその……祠堂さんのセクハラ……未成年の彼に肉体関係を迫るような酷い状況から逃げ出してここに来たと聞いています。どこに行くのかは隠して。そんな彼がインタビューなんかに載って全国放送されればきっと祠堂さんは気付くでしょう。そうしてまた関係を迫ってきたとき、学院は守ってくれるのですか?東都テレビは?」
「えっ?」
とりあえず事態を納める必要があるから、知っていることは伝えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます