第38話 戦いの後
□東都テレビジョン
「それではここで緊急ニュースです。本日15時ごろ。東都探索者育成学院の敷地内にあるダンジョンにて、SSランクのモンスター・メギドフレアドラゴンが出現したとのことです。今日は学院選抜試験の最中だったとのことで、学院配信で記録された映像をご覧ください」
映し出される凶悪なドラゴン。
闇と炎の魔力を周囲にまき散らしている。口には嚙み千切った恐らく矢吹さんの腕……。
これ放送して大丈夫なのだろうか……。
「生徒さんの腕ですか?大丈夫だったのか?」
アナウンサーさんの突然の発表で、出演していた人……芸人さんだよね……が絶句している。
「学院広報に問い合わせましたが、生徒は全員無事とのことです。メギドフレアドラゴンに留めの一撃を放った水無月校長が反動で動けない状態になっていること、それから先ほどの映像で周囲に倒れていた生徒たちの救出に当たった学院生がメギドフレアドラゴンの攻撃を受けて全身に大火傷と全身打撲を負い治療中とのことです」
お笑い番組が中断しての緊急ニュースで千切れた腕だの大火傷の人間だのが映って、お茶の間も騒然としているだろう。生放送の番組でコントやってたら司会がのアナウンサーがいきなり話し始めたから見ていた僕もびっくりした。
そもそも倒したのになんで緊急ニュースなんだろう?
僕は学院の医務室で首を傾げる。
全身大火傷と打撲はもう治ったから大丈夫だよ。
あの後気を失ったのは痛みに耐える方向に"ド根性"がシフトしてしまったせいで、"魔力放出"に耐えられなくなったから……うん、このことは墓場まで持っていくつもりだから絶対に喋らないぞ?
それでも一応検査すると言われて一人残ったんだけど、時間つぶしにテレビ見てたってわけ。
「無事に倒されたということですか。なぜ緊急ニュースを?」
おっ、僕と同じ疑問だね。コントを強制終了させられた芸人さんが恐る恐る聞いてくれた。
「この件に関して、探索者育成学院を管轄するダンジョン庁において不適切な処理があったと、ダンジョン協会が告発を行いました。こちらがその音声です」
***
『学院ダンジョンはDランクだ!何度言えばわかるんだ』
『しかし実際にAランクのアークデーモンやバロール、それにSランクの悪夢の王が出ています。今回はさらに巨大な破壊音が鳴り響き、明らかに濃密な魔力が漂っています』
『貴様らは探索者だろうが!そんなものは自分たちで対処しろ!私は言い訳が聞きたいわけではないのだ』
『言い訳ではありません。このまま放置すれば本当に死人が出ます』
『それがどうした?ダンジョンだぞ?死ぬことの覚悟くらいできているだろう?自分たちの怠惰を国のせいにするな!』
『なっ……怠惰ではありません。ここは学院です。教育の中であろうと、ダンジョンには最大限の注意を払って探索を行います。しかし、そもそもダンジョンランクの認定がおかしく、予算も削られてはそれができなくなります!』
『まったく、金金金。そればっかりだな。貴様らの怠惰に振り分ける予算などない!それにもう学院選抜試験として探索させるよう決定済みだ!』
『なっ……なんてことを!探索者でもないあなたにはダンジョンの危険性がわからないのか?』
『これは決定だ。嫌なら校長などやめてしまえ、このクズが!』
***
「えっ、なんですかこれ?」
「ダンジョン協会から提出されたもので、東都探索者学院の水無月校長がダンジョン庁の芥田管理官に直談判した際の音声とのことです」
「えっ、酷すぎないですか?校長ということはあのメギドフレアドラゴンでしたっけ?あれを倒した方ということですよね?国はあれを生徒だけで倒せと言っていたということですか?SSランクって言いませんでした?」
芸人さんが戸惑っている。僕もドン引きだ。そんなこと言われてたの?
さすがに酷すぎるというか……。
「夢乃間、検査の結果だが特に問題はないようだ。ホッとしたよ。お疲れ様だったな」
「あっ、先生。ありがとうございます」
そのタイミングで後藤先生が入ってきて僕の検査の結果を教えてくれる。
後ろには医務室の先生がいる。
「テレビ……そうか発表されたのか」
「ご存じだったんですか?」
「校長から教師には説明があった。何かあった時のために許可された範囲で先生のパーティーを出すだけじゃなく、入り口でずっと待機していること。それからダンジョン庁からの指示を録音していたからそれをダンジョン協会の良識ある方に送っていることをだな。どうやら適切に処理してくれたみたいだな」
その後、スタジオに移ってニュース番組に移行した。
芸人さん、面白かったからまたコント見たいな。
「もう立てるか?問題ないなら帰っていいけど、ちゃんと休んでから行けな」
「ありがとうございます」
そう言って後藤先生たちは医務室を出て行った。
そして入れ替わるように……
「「燈真くん!!」」
咲良さんと絵里奈さんが入って来た。少し表情が暗い。
「良かった~大丈夫そうだね」
「うっ、うん。申し訳ない。ミスってしまった。咲良さんに声をかけて貰えて助かったよ」
「ううん。私の方こそあのドラゴンの注意を集められていなくてごめん」
なるほど。それで暗かったのか。
でも問題ない。
そもそもきっちり耐えてたし、回復したしね。
「大丈夫。ほら、全く問題ないし」
そう言って握りこぶしを掲げる僕だったが、咲良さんは両手でその握りこぶしを抱え込んで僕の顔を見つめてくる。
「本当に……。大丈夫そうだから良かったけど、倒すために無理したでしょ?燈真くんの魔法のおかげで動きが止まって、校長先生の魔法が当たったから勝てたけど、回復止めたでしょ?」
「うっ、うん。倒すことが先決だと思ったから……」
「もう。心配したんだから……」
「ごめんね」
僕はもう片方の手で咲良さんを撫でる。
あの時使った魔法は僕の状態を敵に転写する魔法だから、回復完了してたら意味ないんだよね。校長の魔法が当たるように足止めになると思ったから使ったんだけど、こんなこと言ったら怒られそうだから黙っていることにしよう。
するとそっちの手を今度は取られた。絵里奈さんに。
「私だって、後ろで見てて心臓止まりそうだったわ」
「ごっ、ごめん……」
「ほら。もう大丈夫だからさ」
「わかってる。安心した。ホッとしたよ。でも、心配だったってことは伝えたかったの」
えっと、これは完全に好意とかそういうやつなんじゃないかな?マジ?
咲良さんだけじゃなくて、絵里奈さんも???
えっと……いや、勘違いするな燈真。あくまでもパーティーメンバーとして心配してくれてるんだぞ?2人はめっちゃいい子だからね!勘違いすんなよ!?
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