第36話 矢吹の企み

□矢吹視点


学院で真面目に授業を受けていると警報が鳴り、緊急のアナウンスが流れた。

全く落ち着かないな。


ダンジョンコントローラーを置いてきたんだろ?大方なんかの理由で動いてないんだろうから再起動させればOKだ。

なにせ俺のパパが作った魔道具だからな。あれは魔力を流し込むことで強制的に効果を強化できるんだ。


ただそんなことは白石は知らないだろう。水無月も。

そう思っていたら俺は招集されていた。パーティーのメンバーを引き連れて生徒会室へ向かった。


俺のパーティーは全員俺の従者だ。なにせパパが俺の学院生活のために用意したんだからな。

そんな俺たちは当然強くなり、学院選抜試験に出られるまでになっていた。


生徒会室へ行くと、たくさんの人がいた。

生徒会役員がいるのはいいだろう。むしろいて当然だ。


しかし1年生だと?と思ったが、そうか、悪夢の王を倒した連中か。

それなら戦闘力は間違いなく高い。むしろお仲間なのかもしれないな。こんなところで口にはしないが。


とりあえずとっとと話を進めてほしいのに溝口がやかましいのには辟易とした。

無駄な正義感を持ってるこいつはどうせメンバーが"魔力放出"にやられてしまわないかを心配してるだけだろうが、話が進まないから後でやってほしい。


そうして入ったダンジョン。

俺たちは完全防御態勢を整えている。


イレギュラーが起こっているんだから当然魔力濃度が濃くなっていることが予想できるから当然だろ?

もしかしたら俺たちも"魔力放出"に晒される可能性もあるしな。


モンスターはそこそこいるから、生徒会長や溝口のパーティーを先行させて露払いさせよう。


俺たちはペースを守って順調に進んで行った。



しかし4層に入ると様子が変わった。

魔力はさらに濃くなり、どうやら白石たちも溝口たちも速度がだいぶ落ちたようだ。


ただ5層まではあと少し。

俺たちは装備を活かしてやつらを素通りし、先を急いだ。


途中で巨大なモンスターがいたが、メンバーの固有スキルでそいつのテリトリーを回避できたため、難なく5層に辿り着いた。

あのモンスターが白石や溝口を足止めしてくれるように、あえて隠ぺいの魔法をかけておいた。くっくっく。



階段が崩壊して周りの壁もなぎ倒されていたのはきっとあの巨大なモンスターがやったんだろう。

お前ら勝手に自由に歩きまわるんじゃねぇよ。


まぁこれでボス部屋が空の可能性がでてきたから別にいいけどな。

ダンジョンコントローラーに魔力を流して強化して終わりの簡単なお仕事になったかもしれない。

それで俺たちが学院選抜だ。


残念だったな白石。

今年は俺たちが頂くぜ。


そうして辿り着いた5層のボス部屋。予想通りもぬけの殻だった。物凄い巨体で通過したのだろう。入り口から周囲の壁、そして天井が完全に突き破られていた。

だが、ダンジョンコントローラーが見当たらない。どういうことだ?


「どうしますか?」

メンバーが聞いてくる。まさかモンスターが持ち去ったとかじゃないよな?

いや、さすがにその可能性はないと思う。そういうことにならないためにダンジョンコントローラーにはモンスターが嫌う匂いがつけられている。


「まずは探せ。どこかに落ちているかもしれない」

そう指示してメンバーの3人に探させる。


ポップしたあの巨大なモンスターがその勢いで踏みつぶし、異動するときに引きずられてどこかに行ってしまったのだろうか?

くそっ……。


俺も地面に魔法を放ちながら探した。



「これは違いますか?」

するとメンバーの1人が黒い金属製の箱を見つけた。これだ。


半分へしゃげているが、動くだろうか?


わからないので、そのまま俺が魔力を注いだ。

動け!


そう想っていると、ダンジョンコントローラーから赤い魔力が流れ始めた。


よし、動いた。これで解決だ。


やったぞ!


そして放たれた赤い魔力が円を、そして文字を作り出す。


それは周囲に展開され、俺たちを包み込む。

眩しい……。


「こっ、これは?」

「矢吹さん。大丈夫なのですか?」

「あぁ。聞いていたとおりだ。ダンジョンコントローラーに魔力を流すとその効果が増強される。ダンジョンを安定させるために放出される魔力が増えると」

「これがそうなのですか?しかし……」

俺は期待を込めて様子を眺めているが、メンバーたちは不安を感じているようだ。


確かに、赤い魔力が放たれるとは聞いたことがない。

それにこれは……



「逃げろ!これは違う!これは……モンスターの覚醒だ!」

そうだ。なぜ俺は見逃した。


この文字は人の使うものじゃない。

この円は魔法陣だ。


これは……



『グギャオォォオオォォオオオオオオ!!!!!!』


「ぎゃあ~~~」

「うわーーー」


現れたのはドラゴンだった。


大きさはそこまででもない。

ただ残忍な表情をしたドラゴンだ。

現れると同時にメンバーの1人を踏みつぶし、別の1人に噛みついた。

そいつの腕はあっさりと持っていかれたようだった。


「逃げろ!あれはやばい!」

「待ってください矢吹さん!」

「矢吹さん、黒井が!」

無理だ。この場に留まるなんて自殺行為だ。



しかしそのドラゴンは俺たちを追ってきた。

そもそもボス部屋の出口に辿り着くこともなく、手足を斬られ、腹に噛みつかれた。


今はボス部屋に転がされている。


現れたドラゴンはゆっくりと何かを咀嚼している。

俺たちの中の誰かの腕か……足か……?


瞬殺だった。

俺たちは一瞬で蹴散らされた。

そもそも戦闘にもならなかった。

なんなんだこのモンスターは。


どうしてだ。どうしてダンジョンコントローラーに魔力を注いでこんな化け物みたいなモンスターが現れる?

パパ?



そのまま俺たちの意識は消えて行った。

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