第33話 学院選抜試験⑤ピンチ
□学院ダンジョン4層(生徒会長 白石玲奈)
4層に入った私たちはさらに濃くなる魔力の中でなんとか探索を続けていた。
溝口くんのチームは先行しているが、速度はかなり落ちた。
ここまで濃い魔力が漂っているということは、間違いなくボスは強力なモンスターだ。もしかするとドラゴンとかかもしれない。
そんな伝説上のモンスターがいるとは思わないが、報告を受けた悪夢の王の時よりも濃いのではないだろうか?
しかし、そんな私たちの横を矢吹くんたちが通過していく。
魔力の影響を受けていないのか?と思ったが、なにかしら魔道具を使っているようだった。
ダンジョン産の素材を活かして作られる魔道具には様々なものがある。この前このダンジョンの5層に設置してきたダンジョンコントローラーも魔道具だし、私たちが使っている武器や防具だって魔道具だ。
その中には魔力の影響を押さえるものもある。恐らくそれを使っているのだろう。
ガスマスクのようなものを身に着け、全身を作業着のようなもので覆っているから間違いない。
ここは先行させよう。
無理してついて行く必要はない……。
だが、あいつらだけでボスとぶつかって勝てるのか?他にも何か持ち込んでいるのだろうか?
「会長……」
不意に声をかけられて後ろを振り向くと、パーティーメンバーたちの苦しそうな顔があった。
これはいけない。私はパーティーリーダーだ。生徒会長だからと他のパーティーにばかり気を使ってる余裕はなくなってきた。
やはり少し速度を落として進むしかないだろう……。
ここは溝口くんたちと一緒に進む方が良いだろうと思い、近付いて声をかける。
近付くとよくわかるが、彼らの顔色も良くない。濃密な魔力の影響を受けているのだろう。
「共闘しないか?お互い支援魔法をかけて進めば、少しは楽になるだろう」
「会長か。わかった、そうしよう。これはなかなかきつい」
溝口くんはあっさり同意した。
彼は夢乃間くんたちに絡んでいたようにやんちゃな人間だが、状況判断はできるし、メンバー想いの良いリーダーだ。
だからこそあんなに夢乃間くんに絡んだのが理解できなかったのだが。
いや、魔力放出の影響で、今と同じようになる可能性があったからかもしれないな。
「玲奈!」
「……!?」
危ない。熱線のようなものが照射され、危うく直撃されるところだった。
「三崎くん、助かった」
「あぁ……マジックシールド」
三崎くんは頼りになるをしてくれる副会長だ。
後に続く攻撃を警戒して魔法障壁を貼ってくれる。
しかし、いったい何が攻撃してきた?
今私たちがいる場所は平原で、大きな岩が点在している場所だ。
今攻撃してきた敵のモンスターが見当たらない。
どういうことだ?
「あっ……あれ……」
黒永さんが遠くを指さす。しかしわからない。そこにあるのは大きな岩……もしかしてあれがモンスターか?
黒永さんは鑑定持ちだ。私は咄嗟にスマホを確認する。
この探索は配信している。学院選抜試験では必須だから配信しているだけで、普段の個人の配信のように会話したり説明したりはしていない。
それでも、こういう時、見ている人に聞くのは許可されている。
【あれ……ロックドラゴンじゃね~か?】
【まじかよ……】
「ロックドラゴン?」
【あぁ。固い岩のような外皮に覆われた巨大なドラゴンで、普段はのんびり寝てるけど、敵を見つけるとブレスや熱線、投石なんかの遠距離攻撃を繰り出してくる】
【珍しいモンスターだけど……Sランクだ】
「なっ……」
【厄介なのは攻撃してきたときにはテリトリーを犯してる。普段のんびりなのに侵入してきたやつを逃さない……】
その瞬間、私たちそれぞれに赤い魔力が纏わりついて来る。
【ダメだ!それから逃げて!それはロックドラゴンからのロックオンを示す印だ!】
逃げろと言われてもどうしていいのか分からない。
【回避だ!ロックオンした印めがけて攻撃が来るぞ!】
「「「マジックシールド!」」」
2つのパーティーのメンバーが魔法障壁を重ね掛けする。
私は前に出て盾を構えた。
が、それは飛んできた……。上から。
「全員退避だ!逃げろ!岩だ!!!」
気付くと同時に指示を出し、自分もその場を離れる。
ズゴ~~~ン!!!!!
なんとか回避したものの凄まじい音が響き、岩が地面に落ちた衝撃で吹き飛ばされてしまう。
くっ、相手が遠すぎて攻撃することもできない……。
さらに飛んで来る熱線。そして火球。
私たちは防戦一方になる。
【くっ、誰か学院に連絡しろよ!】
【さっき横を通って行ったパーティーはどうなった?すり抜けたのか?】
【もう1つのパーティーは?】
【誰か玲奈ちゃんたちを助けて!】
「うわっ」
くっ、これは厳しい。
もう溝口くんと三崎くんしか立っていない。
まだ誰も致命的なダメージは負ってないと思うが、このままだと嬲り殺しだ。
1人ずつやられて行くのを待つだけ……。
「アークシールド!」
私は持っている大盾を地面に突き刺し、大量の魔力をつぎ込んで巨大な魔法障壁を作った。
これでしばらく持たせている間に回復し、退避するしかない。
早く回復を……そう思いながら生徒たちの方に向かう。
まず一番近くにいた……彼は溝口くんのパーティメンバーの神崎くんだ。
しかし飛んで来る熱線……それが近くで倒れている誰かを直撃した。
なぜ?私の障壁は?
そう思いながら振り向くとそこには、巨大なドラゴンがいた……いつの間に移動したの?
私の盾は踏みつぶされ、魔法障壁は消し飛ばされてしまっていた……。
いや、呆けてはいられない。後ろに8人。彼らは全員生徒達。つまり生徒会長である私が守るべき人たちだ!
私はアイテムボックスから予備の大盾を呼び出し、ロックドラゴンの尻尾による攻撃を受け止めた。
しかし厳しい。
攻撃の手段はない一方で、狙われる可能性がある生徒は私含めて9人。全てを受けなければならない。
でも、弱気になっている余裕すらない。
ひたすら耐える。
魔法障壁が切れては発動する。
熱線や火球は魔法障壁で防ぎ、尻尾や岩は大盾で防ぐ。
助けが来るまでやり続けるしかない。
しかしいつ来る。
わからない。
学院に連絡してくれたと言っていたから、先にダンジョンに入っていた先生たちはすぐに来てくれるかもしれない。でも、それでロックドラゴンをなんとかできるのか?相手はSランクだ。
「しまった……」
考え事をしていてさらに追い込まれていく。
投石を防ぐのに精いっぱいになり、魔法障壁の再展開が遅れた。
そして放たれる熱線の先には倒れている生徒……なんとか駆けつけ、盾で受けた。
間に合った……。
しかし横からロックドラゴンの尻尾が飛んできた。
気付けば私は吹っ飛ばされていた……。
地面に落ちる衝撃を覚悟し、さらにこの瞬間にも誰かに攻撃が行ってしまうことを恐怖したが……
「間に合った……」
誰かに受け止められた。
かなりの速度で飛ばされたはずが、優しく受け止められた。
夢乃間くん……?
私はそのまま意識を失ってしまった。
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