第23話 鞘村さん
朝……窓から差し込む太陽がまぶしい。
9月の終わりだがまだまだ暑いけど、僕の心は爽やかだった。
なにせ昨日の出来事。
なんというか明るい未来への希望しかない。
突然、祠堂にここにいることがバレたとしても、勢いと根性で追い返せそうなくらいには幸福感に満ち溢れている。
えっと、いい気分なんだから、付き合ってるとかじゃないだろ?とか言わないでね。
そんな勇気無いから。
あんな可愛い子が僕と一緒に探索できるのを喜んでくれていて、僕のことを心配してくれたりして、さらに勇気づけるためにキスしてくれただけで大満足だよ!
頼むからヘタレとか言わないで。
それに、今は天城さんの寮の部屋に来てるんだ。
もちろん僕ら自身の育成訓練の相談のためさ。
この学院はダンジョン探索を真面目に行っている限りかなり生徒に自由が許されている。
不純異性交遊なんて何も問題にされない。
さすがに異性の寮室に泊まったりしたらまずい……ことすらないらしい。
むしろ痴情のもつれでパーティー解散したら風聞が悪いからそれにだけは気を付けろ、とかそんなレベルだ。自由すぎじゃない?
そんな感じで自由だから問題ない。
僕らも毎回カフェとか行ってたらお金なくなるから、今後はどっちかの部屋で打ち合わせしようってなって、今日は『来てね♡』って可愛くお願いされたから尻尾振りまくりのワンコみたいな勢いでやって来たのさ。
そしたらお茶を出してくれて、ちょっと待っててって言って天城さんが出て行った。
えっ?いいの?女の子の部屋に1人でいるとか……信用されてるってことだよね?下着漁ったりしなければいいよね???
くっ……クローゼットから漂う危険な香り……いや、良い匂いするよね。女の子の部屋ってこんな感じなのかな?
僕は私物がほとんどないし、他の人の部屋に入ったこともないからよくわかんないけども。
あ~、どうすればいいんだ!?
なぜルンルン気分で訪れた場所でこんな葛藤に襲われないといけないんだ!!!?
欲望が漏れる……だめだ!抑えろ夢乃間燈真!!!!!
「ごめんね、夢乃間くん」
「あっあぁ。大丈夫だよ?うん、大丈夫」
アホな妄想を膨らませていたら天城さんが戻って来た。危なかった……。
「どっ、どうしたの?」
「なんでもないなんでもないなんでもない……」
「もしかして女の子の部屋で悪さを?見損なったわ!燈真君!!!」
ひぇ~お助けを……って、あれ?
「鞘村さん?」
「おはよ、燈真君♡」
「あっ、うん。おはよ」
「昨日はお楽しみだったようですな……このこの」
「えっ、ちょっと、やめ……」
「えりりん!」
「あっ、ごめんごめん。ついね」
朝からハイテンションですね……。ぐりぐりされた脇腹が地味に痛い。こういうところで探索者の力っていうものを思い知るよね。しかしなぜ鞘村さんが?
「実は相談なんだけどね。えりりんにもチームに入ってもらおうと思って」
「えっ?」
どういうことだろう?
部屋に入って来た2人は僕の前に座っている。相変わらずやっぱり天城さんが可愛い。
そして鞘村さんも綺麗だ……。
でも、これって。
2人が組めるなら僕要らなくない?鞘村さんは支援も可能な魔法使いだったはず。
まっ……まさか……昨日の今日でもう不要宣言とかか……。それはちょっとショックだ……。
「む~なんで暗い顔になってるの?私が入ったらまずい?」
「えっと、ダメだった?その、2人で頑張ろうって言ってくれてるところだったから、急でごめんだけど」
僕の反応を見て2人が訝しんでくるが……あれ?僕が追放とかじゃないのかな?
「えっと、2人で組むから僕とは解散とかかなと?」
「なんでそんなに自己評価低いのよ!燈真君はいる前提で、私も入れてもらおうって話だよ!」
「なんだ。びっくりした~」
「こっちのセリフよ!」
「夢乃間くん、いないと嫌だよ?」
僕の取り越し苦労だったらしい。2人は慌てたように僕の腕を取って抑え込んでくる。ちょっと距離感が……良い匂いがする。
でも、僕が特別役に立ってるとかはないんだよね……。
「魔力放出については大丈夫になったの。この前バロールに捉えられてたせいか、"魔力耐性"をゲットしたんだよ!」
「なるほど。そうだったのか」
何それ羨ましい。ピースしてる鞘村さんが羨ましい。それを微笑みながら見ている天城さんが可愛い。
あとお願いだから僕にも"魔力耐性"をくださいお願いします。
「それでね。えりりんはずっと"魔力耐性"がゲットできたら組もうって言ってくれたの。だから夢乃間くんにも確認したくて」
少しだけ申し訳なさそうに天城さんがチラチラと視線を動かしながら話してくる。
なにこれ空想上の生き物かな?可愛すぎるんですけども。うん……いいからこっちを見なさい。たぶんそれだけで何されても許せるから。
「全く問題ないよ。前衛に天城さんで、中衛に僕、後衛に鞘村さんにしたらかなり安定しそうだよね」
「うんうん。だよね!」
「じゃあ、私の加入OKね?」
「異議なし」
「良かった~♡」
「ありがと。よろしくね♡」
うんうん。この笑顔だよね。この笑顔がご褒美だ。僕も頑張って捨てられないようにしよう。
頼むよド根性。そして真実の愛……はちょっと置いておいて、早く条件満たして使えるようになっておくれ、第三の固有スキルくん!
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