第22話 デート!

「パンダフルインパクト!」

『ぐあぁぁあぁぁあぁああああああ!!!!!!???』

可愛い音楽をバックにスクリーンを縦横無尽に飛び回る、パンダのぬいぐるみをくっつけた女の子。

そのパンダが敵である巨大な熊に虹色の光輝く拳を叩きつけた。


うん、映画の話だよ?


僕は……いや、僕らは今、映画を見に来ている。

今日は土曜日。ダンジョン探索者を育てる学院の生徒としてはひたすら訓練に励むべき時ではあるかもしれない。それでも、たまには息抜きも必要だろうと天城さんに誘われて見に来た。


大事なところだからもう一回言うけど、天城さんに誘われて見に来たんだ。


この映画は女の子に人気のアニメが映画化したものだ。

正直チョイスには首を傾げるところもあるが、案外作り込まれたストーリーで面白かった。


普段映画を見ない僕にとっては、映画館自体が初体験かもしれない。

それを正直に話すと、天城さんは任せてと言って予約してくれてこうなったんだ。


羨ましいだろう!?

日曜日に天使のような美少女とデート。うん、これは誰が何と言おうとデートだ!

やばい、そんなことを考えたら緊張してしまうな。


なにせ天城さんは可愛い。制服姿も可愛いけど、私服姿は予想以上だった。

待ち合わせ場所で待ち合わせ相手を見て、手に持っていたペットボトルを落とすという漫画みたいなエピソードを刻んでしまったのは内緒だ。


だって可愛すぎたんだもん。



淡いピンクのカーディガンを羽織り、下には清楚な白のブラウス。スカートは膝丈のふんわりとしたパステルカラーで、動くたびに軽やかに揺れる。

髪はいつもより少しだけ巻かれていて、柔らかなウェーブが彼女の可憐さを一層引き立てていた。


少し急いで来たのかほんのりと上気した頬に、少し緊張した笑顔を浮かべながら、彼女は近付いてきた。その姿は、まさに「可愛い」という言葉そのものだった。


「ごめんね、お待たせしちゃったかな?」

「……」

「ん?夢乃間くん?」

「あっ、ごめん。見とれてた」

「もう、夢乃間くんったら。行こう♡」


僕らはそのまま映画館に入って楽しい時間を過ごしたんだ。



そしてランチ♪


「ごめんね。ちょっと子供っぽかったよね?」

「あはは。見る前は正直そう思ったけど、見てみたら結構面白かったよ」

「良かった。評判がよかったから」


僕らはカフェに入って、パスタを食べた。

僕はナポリタン、天城さんは冷製サラダパスタだ。


僕は大盛り、天城さんはデザートとして小さなケーキがついたものを選んだ。


「このパスタも美味しいね」

「うん。実は前から来てみたかったの。夢乃間くんがつき合ってくれて良かった♡」

「僕なんかで良ければいつでも行くよ」

可愛らしく笑う彼女が可愛らしい。本当に可愛い。可愛い以外の語彙が死んだらしい。ご愁傷様。



なんて素敵な休日なんだ!

ダンジョンでアークデーモンの自爆攻撃から天城さんを守ったり、バロールから鞘村さんを助けたり、悪夢の王と戦うために天城さんにキスしたりしたけど……あれ?辛い日々を過ごしたけど幸せを掴んだんだぜって言いたかったのに、案外ダンジョンの中も悪くないな。


まあ、頑張った。頑張ったよね?



そのまま僕らは真面目な話に移行する。


「私は魔力開放以外には魔導王と武闘王を持っているの」

「なるほど。突っ込んで行って肉弾戦でぶちのめした後に魔法で消し飛ばすのか。かわい……強そうだね」

ヤバいな、可愛い以外の語彙が死んでるから、彼女の魔導王とか武闘王の固有スキルですら可愛いって言いそうになった。やばいやばい。頭を切り替えないと。

 

「ん?うん、それでAランクのモンスターは倒せるし、この前は悪夢の王とも戦えた。夢乃間くんと一緒なら、本気でSランクを目指せると思うの」

天城さんは予想以上に強かった。それこそ今の時点でもSランク探索者と戦えるんじゃないかと思うほどに。

悪夢の王とはスキルや戦闘スタイルの相性もあって、余裕だったしね。

この感じで実績が詰めたら文句もなくなるだろう。

 

「僕もそう思う。今の時点では僕があんまり役に立ってないと思うけど、これから頑張るよ」

「そんなことないよ?知識も凄いし、鑑定とか回復や支援魔法もある。それでいて普通に戦っても強いよね?」

わおっ。思いのほか高評価。

ちょっと……いや、かなり嬉しくなる。"魔力放出"に耐えて頑張った甲斐がある。


「さらに3つ目の固有スキルも期待できそうだし、まだまだ私たちは強くなれる気がするの。ほんと、組んでくれて良かった」

嬉しそうに話してくれる天城さんが可愛すぎて死にそうです。

可愛さに対してド根性が発動しそうなんだけども……。


「3つ目の固有スキルはド根性発動1万時間だからね。あと少しだと思うんだけど」

「そうなのね。学院に来る前によっぽど厳しい環境だったの?普通にダンジョンにインしてる時間だけでも1万時間って相当だよね?」

まさか今も使ってますとか言えないよね……。

何に?って話になるし……。


目の前には真摯な顔で、恐らく僕を心配してくれている天城さん。


「実は僕には幼い頃の記憶があんまりないんだ」

「えっ?」

ここはきちんと話しておくべきだよね。

僕の過去のことを。


僕らは店を出て、ゆったりとした個室のカフェに移った。

ちゃんと話をしようと思ってたからここだけは予約していたんだ。


「突然でごめんね。でも、ちゃんと話しておくべきだと思ったんだ」

「うん……わかったわ」

「僕が祠堂のチームに入ったのは13歳の頃だから、今から3年前だね。でも、さらに前の10歳の頃に祠堂とは面識があったんだ。それは行方不明だった僕を発見したというもので、僕にはそれ以前の記憶がほぼないんだ」

そう。それまで何していたのかも、どこで見つかったのかも、どうして連れてこられたのかも、なにも覚えていない。


祠堂が僕を見つけたのはダンジョン内でだと言っていた。

そして僕にはきちんと戸籍があったが、行方不明者にはなっていなかった。

それだけ聞くと保護者が置き去りにでもしたのかとも思うが、僕にはその時点で保護者がなかった。亡くなっていた。


それ以外のことはよくわからないという扱いになっていた。

本来なら小学校に通っているはずが、幼い頃に親と共に海外へ行ったことになっており、さらに親は海外で死亡。僕は失踪しているものの、国内で行方不明者として捜索されるようなことはなかった。

曖昧で不思議な状態だったらしい。


それでもその時点で固有スキルは2つ開いていた。

だから協会に保護された。

そして祠堂に囲われたんだ。


多少成長した段階で祠堂が迫ってきて、ハグ、キス、そしてその先に進もうとされたのには驚いたが、逃走を考える直前まで、彼女に対して恩義を感じていたのは事実だ。


だから僕は強くなる。


強くなって再び彼女に相対する。

その時、彼女のことをどう思うかはわからないけど、一方的に迫られることはないだろう。


そしたら感謝を伝えた上で、あとは自分の考えに従おうと思う。


そんなことを天城さんに伝えた。



「いきなり重い話をしてごめん」

「ううん。話してくれて嬉しいよ。一緒に頑張ろ♡」

「うん」

「私、夢乃間くんと一緒にいろんなダンジョンに行ってみたいの。よろしくね」





そこから先は覚えていない。

天城さんが何か言いたいことがあるみたいだったけど、ごめん、明日でもいいかな?







緊張しながら僕の過去を打ち明けたんだけど、その返しがキスとか反則だと思うんだ。


なんか全部受け止めてもらったような気がする。

可愛すぎる。



そして一日中、幸福感とにやにやが止まらず、隠すのに一生懸命だった。

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