第20話 白石生徒会長

□校長室(水無月四季)


「それで? なにかわかったのかしら?」

「……いえ」

私の部屋のソファーに座って中年……いや、壮年に差し掛かった白衣の男性に詰め寄る美少女……。


「まったく。国の研究機関の名が廃るわよ? 研究者たちが雁首揃えて調査した結果、『何もわかりません?』」

おかしいな。ここは説教部屋か何かだったか?

ドS美少女vsドMおっさんなんて、AVの中だけにして欲しい……すまん、冗談だ。


今は国の研究者から先日アークデーモンが出たことに対する調査の結果についての疑問を投げかけていたところだ。


なにせ問題ないと聞いた次に出てきたのが悪夢の王ナイトメアロードだ。問い詰めざるを得ない。


 

「まぁ待て、白石。世界初の事象ということであれば、仕方がない側面もあるだろう」

しかし、私たちがやりたいのは対策検討であって、おっさんをいじめることではない。そんなことをしても何も嬉しくない。

だから私は可愛らしい顔でしかめっ面を作って怒っている白石生徒会長を宥めようとした。

 

「水無月先生。しかし、仮説くらい立ててもらわないと対策も検討できません。見落としていた可能性を探ることも」

うん、無理だった。


おかしいな。この子は生徒会長だけど、私は校長なんだが?

なぜ私まで怒られるんだ?

 

まぁ、気持ちはわかる。

なにせ学院ダンジョンで連続で高ランクのモンスターが出たんだ。


対処していかなければ学院内が落ち着かないだろうし、それでは生徒会長としての素質を疑われかねない。


校長?

校長はそもそも素質なんてない。私がこの学院の教師の中で一番強いというだけだ。

だが、大人として対処の道筋をつけるくらいはしないといけないだろう。

 

「そうだなぁ。そう言えば研究中のダンジョンコントローラーとか言う魔道具があっただろう?」

「はい……」

「それを設置するというのはどうだ?」

ふと思い当たったんだ。思い付きだけど、悪くないんじゃないか?


 

「たしか魔力量が変動するようなダンジョンに置くと安定させられるという魔道具でしたでか?」

「あれも理論的に説明されてはいますが、本当に正しいのかはわからず……開発者にはあまり良くない噂もあり、信頼しきれないところも……」

よし、白石が悪くない反応……いや、興味を持ってる。

おっさんは黙ってろ。


「それは仕方ないだろう。魔力についても、ダンジョンについてもまだまだ研究が足りないし、そもそも時間が足りていない。今は対処療法を進めるしかあるまい」

「わかりました……」

決まりだ。

すぐにダンジョンコントローラーを作っている研究者に私からも、おっさんからも連絡して調達する。

予算的にも問題ない金額のようだった。あとでちゃんと見積もりを貰おう。



『それでは魔道具である"ダンジョンコントローラー"の説明を……』

こっからはただの説明だから省略する。

要するにダンジョンの最下層ボス部屋の奥にこの魔道具を設置してくればいいらしい。

今ならボス部屋は空だろうから、行って置いて帰ってくる簡単なお仕事だ。


「では、私が設置しに行きます。あとは、興味があるのでその天城さんと夢乃間さんを同行させてください」

「彼らは今日は普通の授業なんだが……」

白石が唐突に要求を出すのはいつものことだ。

だが、さすがに勉強時間を奪うわけにはいかない。


昨日の今日で疲れてるだろうしな。


「いいから、連絡を。私、彼らに興味があるのです」

「……"魔力放出"持ちだから、同行は厳しいぞ?」

なぜこいつはこんなにも偉そうなんだろうか。そして生徒会長とは言え、一生徒に校長の私が指図されなければならないんだ?

 

ガツンと言ってやろうかとも思ったが、一応正論で攻めてみる。


「では連絡を。彼氏だけ連れて行っていいか? それとも一緒に来るかと」

「わかった。2人を同行させる」

「ありがとうございます」

うん……仕方ないよな。

一切笑顔を見せることなく、淡々とお辞儀をして去っていく白石。


信じられるかな?

あんな暴虐の権化が学院外だと天使とか言われてるんだよ?

世の中間違ってる。



私は仕方なく、1-Aの担任の後藤先生に連絡し、2人……天城君と夢乃間君に依頼を出し、呼び出した。そしたら夢乃間君が少し体調が悪そうで、鞘村君まで同行を申し出て来た。


君は"魔力放出"に耐えられないはずだし、そもそもバロールに囚われていた君の方が心配なんだがな?

そう伝えたが、全く相手にされず、3人は行ってしまった。


私って一体……?



 


□学院ダンジョン入口(夢乃間燈真)


まいったな……。

今日は今日で結構辛いままなんだけど、またダンジョンに入れなんて酷いわ!?


……ごめん、気持ち悪かったよね。つい。



僕は天城さんと一緒に校長先生に呼び出された。

なんと昨日助けに来てくれて、一緒にボス部屋まで確認に行った先生が校長先生だった。


みんなは入学式とか1学期の終業式とかで見たことがあるんだろうけど、転入してきた僕は初見だった。

知らなかったこととはいえ、気付いていなかったことを謝ったら『君はいい子だなぁ。君だけだよ……』となにやら呟きながら自分の世界に入ってしまったのはなんでだったんだろう。


そしてダンジョン入口にやってきた。

なぜか鞘村さんも一緒に。

君……天城さんの"魔力放出"耐えられないはずだよね?



「よく来てくれたな……3人?」

「白石生徒会長。夢乃間燈真です。彼女は僕の体調を心配してくれて……」

「はじめまして、鞘村絵里奈といいます」

「私は天城咲良です」

目の前にいるまるで彫像か何かのような芸術的で神々しい女性。

天城さんとは系統が違うこの天使様が、僕らに指示を出した生徒会長らしい。

 

「そうか……まぁいいか。なにをするかは聞いているか?」

「はい。ダンジョンコントローラーをボス部屋の奥に設置しに行くと聞きました」

一応、天城さんとのパーティーのリーダーは僕で、今回の件はパーティーを指名してきているから僕が受け答えをする。


「うむ。アークデーモン、ナイトメアロードと続いてしまったからな。さすがにこれ以上は危険だし、そもそも君たちがいなかったらもっと被害は大きかっただろう。生徒会を代表して礼を言う」

「そんな……」

「役に立てて良かったです。と言っても、戦ったのはほぼ天城さんで、僕は賑やかしですが」

天城さんは生徒会長の圧に押されてあまり正常に動作していないように見えるから、やはり僕が対応すべきだろうな。


戦闘は任せっきりなんだから、こういうところは任せてほしい。


「そんなことはないだろう。記録動画は見させてもらったが、回復も支援も的確だ。相手の行動を邪魔するような魔法も撃っていたし、何より戦闘に安定感があった。一緒に戦って、天城も安心感があったのではないか?」

「はい。仰る通りです」

おぉ? 思いのほか、高評価だった。


「悪いが祠堂とのことは調べさせてもらったから経緯は知っている。君の探索者としての実績も確認済みだ。その上で言うが、卑下する必要は全くない。ここにいれば守ってやれるだろうから、気兼ねなく活動するといい。何かあったら私や校長に言え。私自身はAランク探索者でしかないがな。言うのも恥ずかしいが国にもダンジョン協会にも伝手はあるから」

「そんな。もったいないです。ありがとうございます」

そして、ビックリするくらい知られていて、親切だった。

そもそもお父さんがダンジョン協会長だよね。



「正直、私のパーティーに誘いたいくらいだぞ? ……そんな顔をするな、天城。取ったりしないから」

感嘆している僕の隣で、天城さんがちょっとムスッとしていた……可愛かった。

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