第12話 ダンジョン探索実習②~RTAの行方

ということで説明しよう!


僕と天城さんは今、クラス単位でのダンジョン探索実習に参加している。


僕らのクラスには合計9つのパーティーがある。

全員でダンジョンに入った僕らは、誰が一番早くボス部屋の前に辿り着けるか?というRTA……つまりリアルタイムアタックをしているというわけだ。


この学院にあるダンジョンは5層しかないDランクダンジョンだけど時折強いボスが出る可変式のダンジョンだ。

さらに入る時期によって雑魚モンスターの構成が変わる……なんてことは普通ないよね?

なのに今それが起こってる。


先週天城さんと僕が倒したアークデーモンの影響もあるんだってさ。

やつは大量のレッサーデーモンを召喚したらしく、5層に大量に残ってるらしい。

それで雑魚モンスターが追いやられてる。


めちゃくちゃ他人事で言ってるのは、教師陣や生徒会とかの調査で分かったって聞いたからだ。


でも、国の調査ではやっぱりDランク判定。

ダンジョン内に立ち込めている魔力量は変わっていないし、ボスも一応過去の文献にある範囲を超えていないからだ。

調査員の責任者に対して校長先生が異議を申し立てたらしいけど『学院の生徒の質が落ちただけ』『上手く攻略できない言い訳をするな』などと言い返されて終わったらしい。


それでもモンスターが増えすぎているのは事実なので、一旦5層のボス以外のモンスターを間引くことになった。

学院生たちで。


こんな機会でも生徒の育成につなげようとするのは教師陣の良いところだと思う。

1年生から順番に探索実習の時間を利用してダンジョンに入り、行けるところまでパーティー単位でモンスターを倒しながら進むことになった。


でも僕らは探索者を目指す学院生だ。

行けるところまで行ったら引き返す、なんてことはしたくない。

当然5層のボス部屋の前を目指して進むことになるし、だったら誰が一番早くボス部屋に辿り着けるか?という話になった。


主張したのは木瀬とかだけどね。

強くなりたいというやる気はあるみたいで、委員長が意見を取りまとめる必要もなかった。


そして挑んだ結果が、まさかの僕ら……というより天城さん包囲網だったわけだ。

なにやってるんだよ。



そんなことをモンスターをひき殺しながら考えてる僕もたいがいだけどね。

なお、気付いたらやる気が爆上がりしている天城さんに抜かされ、引き離されないようについて行ってるところだよ。

それでもクラスメイト達を抜けられない。そりゃあ探索者育成学院にいるくらいだから、みんな結構優秀だよね。包囲されてることにはイラっとするけど。

そして天城さんも魔力放出は抑えてるみたいだけど、いざという時は気にせず爆走すればいいか。


それにしても後ろ姿が可愛い……。

今日はポニーテールに結んでいる髪の毛が揺れる様はとても素敵だった。


もうすぐ3層だ。





□鞘村絵里奈


「4層ね。やっぱりモンスターが多いわ」

「たしかに。RTAとか言ってる場合じゃないかも……」

「委員長たちと共闘したほうがいいかな?」

今この階層に入っているのは私たちと委員長のパーティーの2つだけだ。


他は遅れている。

咲良と燈真くんのパーティーは一斉スタートだと咲良が本領発揮できないから遅れたんだと思う。


まぁ、もし咲良が先頭を走っちゃったら、モンスター全部なぎ倒してしまって他の生徒のやることがなくなるだろう。

それに今の私だと咲良と一緒に戦えないから、そこは割り切って先行した。


行けるところまで行くつもりで5層のボス部屋の前に辿り着ければよし。無理な場合は咲良と燈真くんに道を譲ればいい。


ただ、簡単に諦めるつもりはない。

私たちだってこの学院の生徒だ。

成績に直結するダンジョン探索実習で手を抜くなんてありえない。


それでもさすがにモンスターが多い。

もともとは5層で出ていたハウンドウルフとかゴブリンソルジャー、オークなんかが大量にいる。


咲良だったらまるで紙か何かのように蹴散らす魔物だけどね。

実際に咲良が蹴散らしたレッサーデーモンに勝てずに逃げたモンスターたちらしいし、隔絶する実力に少し悲しくなる。


だけどそんなことを言って足を止めている場合じゃない。

前に前に進むしかないんだから。


「天城さんが来るまでに進んでおかないといけないしね」

「共闘やむなしかな。それでいいかな?」

パーティーメンバーの2人……中村徹と村上梨沙は咲良が苦手らしいからこの反応も仕方ない。

そう言えば入学早々、徹は咲良に告って振られたわね。そして梨沙は徹が好きらしいから……。


「ボクはOK!」

この太っちょくんは木村光一。少し暑苦しいし、ちょっと馴れ馴れしいけど、割と優秀な盾役だ。仇名は"肉壁"……。

私がつけたんじゃないよ?さすがにそんな酷いことはしないし、イジメとかじゃないんだけど、本人が嫌がってないから定着してしまった。

『肉壁参上!』とか嬉しそうに叫んでることがあるし。

そもそも魔導士だったわよね?



 

『共闘?そうね。なかなか厳しくなってきたし、まだ4層でこれだしね』

徹が委員長に電話をかけると、あっさり共闘が成立した。

そのまま通話をスピーカーモードにして構成とかを話し合う。上手くいかなそうならやめた方が良いしね。結果、前衛メンバーが多いこっちが前、防御や支援が得意な委員長たちが後ろになった。

強力なモンスターが現れた場合には委員長や私が前に出るけど、まだ連携も取れないし仕方ないよね。


『それにしても、本当にダンジョンの魔力に変化はないのかしら』

「それよね。こんなにモンスターが増えてるのにね」

首を傾げている委員長の呟きに同意する。


普通、モンスターが増えると周囲に立ち込める魔力も増える。モンスターは魔力をまき散らすからだ。


その魔力は時間が経ったら霧散していくとは言え、絶えずモンスターはポップし続けるため、基本的にはダンジョン内の魔力量はある一定の量で保たれる。


調査員はその魔力量を図ることでダンジョン内のモンスターの強さを予測し、ダンジョンのランク判定をしている。


「あれ……ゴブリンソードじゃない?普通Dランクダンジョンじゃ出てこないはずなんだけど」

「ごめん、委員長切るね。合流よろしく!こっちは出てきたモンスターを倒すよ!」

「「「おー!」」」

『わかった!今から追いかける!』


足を止めて通話していたせいか、モンスターがよってきた。それが全部、今までの学院ダンジョンではありえないモンスターだった。


ゴブリンソード、オークメイジ、サンダーコボルト、ダークウルフ。いずれもCランクダンジョンで現れるモンスターだ。


そして……

 

「クソッ!?でかい!!?」

「きっついって!」

「みんな頑張って!私が前に出る!」

「ボクも行くぞ!」

「絵里奈!光一君!ファイト!支援するわ!」


私たちはなんとか4人でこの場を切り抜けるべく、陣形を取った。

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