第10話 頼むよ!僕の"ド根性"

転入3日目の水曜日……今日は午前中に英語、社会、理科。そしてスキルに関する授業がある。

その後昼食をはさんでから、午後はパーティー単位での実技の時間だ。


今まで天城さんは……きっと1人で訓練してたんだろうな……。


だからだろうか。

朝教室に入った僕の目に映ったのは、とっても素敵な笑顔で僕の姿を捕らえた天城さんだった。


ちなみにクラスメイト達は僕らを無視することにしたらしい。

もちろん話しかけても答えてくれないとか、そういった陰湿ないじめではない。

会話もするし、授業中の議論もする。でもその態度は固く、表情も声音も緊張がちだ。つまりよそよそしい。


さらに僕と天城さんの会話には絶対に入ってこない。


まぁ、今はこれでいいだろう。

無理に慣れ合う必要はないんだ。

ここは探索者育成機関なんだから。

 

強くなること、そしてダンジョン探索が最優先だ。

 

それに、委員長のパーティーと、鞘村さんのパーティーのメンバーはそこまで刺々しくないし。


逆に刺々しいのは木瀬遊心と安藤優樹菜。あとはその取り巻きたちだ。

以前、天城さんがパーティーを組んだ周藤海人っていうやつが魔力放出に耐えきれずにリタイア。不登校になってしまい、周藤と仲の良かった2人が率直に言うと天城さんのアンチになってしまったらしい。

 

全て鞘村さん情報だ。

クラスの掲示板でもよく天城さんの悪口を言い出すらしく、やんわりと委員長が宥めたりするものの効果がないらしい。

ちなみに天城さんはその掲示板に入っていないし、転入してきたばっかりの僕は誘われるタイミングを失った。


まぁただ、はっきり言ってどうでもいい。

なにせ僕は目の前の天使にくぎ付けなんだから。

僕の心の中の10割は今、天城さんでいっぱいだ。

心の中で思うくらいいいよね?


目の前の天城さんはめちゃくちゃご機嫌だ。笑顔が尊すぎる。


僕がパーティーを組むと宣言し、一緒にパーティ申請用紙を書いて提出し、冷やかしてきたクラスメイト達に対してにもう一度、『僕は天城さんとパーティーを組む!』って宣言したことで彼女の機嫌が上がりすぎてしまったようだ。


もし今告白とかしたらワンチャンOK貰えるんじゃないだろうか?

いや、しないけど。

断られたらまさに天国から地獄だ。これからどうしろって言うんだよ状態になる……自重しよう……。


僕みたいな平凡な男には彼女みたいな天使が似合わないことはわかってる。

きっとラノベで言うスパダリが現れて彼女を救い上げていくだろうから、僕はそれまでのつなぎだ。

勘違いして手なんか出したらあとで手ひどいざまぁを喰らわされるだろう。


それに……


「おっ、おはよう、天城さん」

「おはよう、夢乃間くん。今日もがんばろうね!」


まずは挨拶。

これだけで心が天国に飛んでいきそうなくらい素敵なあいさつが帰ってくる。

我ながら昨日、良い決断をしたと確信できる素晴らしい笑顔でだ。

あぁ、幸せだなぁ。


 


ただ、1つ問題がある。


覚えているだろうか?

えっ?何をだって?


ほら、ダンジョン探索実習の時にさ、僕って最後倒れたじゃん。

なんかアークデーモンの自爆攻撃から天城さんを庇ったことになってるけど、あれ、偶然じゃん?

気絶寸前だったんだよ。

 

つまり僕って、天城さんの魔力放出、完全には耐えられてないんだよね……。





 


いや、みんな黙らないで?


僕だってどうするか悩んで……いや、考えているんだ。

きっと昨日はアークデーモンや傷ついたクラスメイトに気を取られていたんだ。

今日はもっと気合を入れて耐えるよ。

それしかないよね。


僕の"ド根性"、頼むぞ?

お前があることで僕は我慢強くなってるはずだし、こいつの効果は耐性スキルの獲得難易度低下だ。

つまり天城さんの魔力放出に耐えながら、魔力耐性を身につけることだって可能なはずなんだ。


さらに"ド根性"使用時間が1万時間に達したら解放されると表示されている3つ目の固有スキルにも注目している。期待している。というか縋りつきたい。

この書かれ方でネガティブスキルが出ることはない。

 

ネガティブスキルはそもそも単独では出現しないんだから。

"超ド根性"みたいな発展形が出ることはない。でも、"我慢強い者"みたいな似てるやつが出たら暴れるけど、きっとそうじゃない。感じるんだ、予感を。


だから耐えまくればいいことしか待っていない。

そのためには気絶してる場合じゃないんだ。


死に物狂いで耐えて、涼しい顔で『天城さん、先を目指そうぜ』って言うんだ。

例え夜に自室で悶絶していたとしても、クラスの掲示板にすら入ってないから僕の夜中の状態がばれることはない。


 

これで行こう……行くしかない。


 


僕が決意を固めているそぶりも見せずに天城さんの隣の席について授業の準備をしようとすると……


「夢乃間くん、これ。私のLineのID。良かったらその……パーティを組むんだし、もっとお話ししたいなって……夜とか自主トレ時間に……ね?」

「えっ……?いいの?あっ、うん、ありがと。必ず連絡するよ!」

「ありがとう♪よろしくね♡」


僕のバカヤロー!!!!!!!!

バレるだろ?

夜悶絶してて返信しなかったり、通話なんか来ちゃったらバレちゃうだろ!!!!!?


いやいやいや。

天城さんはパーティを組むからその連絡とかのためにIDをくれるだけなんだ。


にやけるなよ僕!勘違いするな!


役得だしラッキーだけど、勘違いしたらただの痛い奴で悲しい未来しか待ってないから!

ここは爽やかに、軽く受け流せたことにホッとしつつ、僕は気を抜くと暴れ回りそうになる純情を押さえるのに必死だった。



天城さんの"魔力放出"には気合で耐える!耐えてるそぶりは見せない!夜、消灯時間まで気を抜かない!これだ!



ようやく無理やり方針を整理したと思い込んだことで気持ちが落ち着いたのは、昼食を食べた後だった……。

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