第6話 決意

「うるさい……」

「えっ?」

あっ、思わず本音が……。

まぁいいや。


これは不快だ。

こんなのは不快だ。


僕はぼっちだし陰キャだけど、誰かを傷つけたり貶めたりするようなことはしたくない。

それが本来尊敬されるべき心根の良い人ならなおさらだ。


「みんながそんな考えなんだったら、僕が天城さんと組むよ」

「はぁ?」

「お前、わかってんのか?」

「私たちの言ったこと聞いてなかったの?」

僕の宣言に対して一気にみんなヒートアップした。


ガラ……


「なんで?私たちの言ってること聞いてよ」

「ほんとだよ。あんな女、モンスターと一緒だろ?」

「海人をやった女なんかクソじゃん」

「えっ?」

「あっ……天城さん……」


教室に入ってきたのは天城さんで、僕たちの話の一部を聞いて走って行ってしまう。

僕は追いかけようと……


「まぁ待てよ。俺たちの話は終わってねぇ……」

「通してくれ!」

「おぃ!」

追いかけようとしたらそれを一人の生徒が遮ってくる。


たしか木瀬遊心だったかな?

最初っから天城さんを暴力的な女とか言ってたやつだ。

だが、断る。


僕はひらりと横を通り抜けて教室を出て天城さんを追った。

天城さんが階段に向かう姿が見えた。

ここは1階だから上に行ったか下に行ったかで悩む必要はない。

上を目指して登っていく。


って、全然視界に入らないんだが……。身体能力化け物か?


もうすぐ昼休み終わりなのに、このまま進んだら屋上だ。

先生ごめんなさい。

僕には天使の方が大事です。



バン!


屋上につながる扉を開けるとそこにいたのはストレートな栗毛の美人さんだった。


「鞘村さん?」

僕を睨みつける視線がきつくてぼっち陰キャには何の拷問なんだろうかと思ってしまうけど、昨日見た天使の笑顔だけを思い浮かべながら話しかける。

 

「……なに?」

まだ穏やかさなんてまるでない真夏かよと突っ込みたくなる暑苦しさの中で吹きすさぶ隙間風。

当然怒ってますよね、はいわかります。すみません。


まだなにもしてないのに謝ってしまいそうになるのを堪える。


「天城さんが来なかった……かな?」

「もし来てたとしたらなに?」

くっ、苦しい。

正面から僕の姿を捕らえる鞘村さんの視線がさらにきつくなった。

 

教室で怒った彼女はきっと天城さんの友達なんだろうな。

あんなに良い娘に、いくら魔力放出っていうデメリットがあったとしたってダンジョン探索関係なく仲が良い友達がいるのはおかしくない。

というかいて当然だと思う。


まだ知り合って1日半の僕ですら苛つく陰湿な陰口だ。

あの天使さんには全く似合わないし、そもそも魔力放出に耐えれない弱者なのが悪いくらいには思ってしまう。いや、思おう。

そうだ、みんな弱いんだ。


僕はもう覚悟を決めたんだ。

たとえ耐えれなくても……いや、耐えるんだ。

あんなに可愛い女の子の涙なんか見たくない。


「黙っててもわかんないんだけど……」


おかしなもんだよね。

前のときは怖い女性からのプレッシャーで嫌になってやめてきたのに、陰キャでちょろい僕は天使の笑顔に触れただけで助けたい、力になりたいなんて思うなんて。


いや、笑顔だけじゃないな。

たった1日半でも彼女が優しいのを知ってる。そもそも彼女にはアークデーモンにやられたクラスメイトを助ける責任なんかないんだ。

助けに行く義務すらない。


なのに迷いもなく行動した。


今朝だって、僕に直接聞かずに先生を巻き込んでからなし崩し的にチームになる道だってあっただろう。

なにせ授業でソロぼっちなんて風聞は良くない。先生だって気にしていた節もある。

それをしなかった。

真っ正直に僕のところに来た。

そして玉砕して落ち込んで……。

『まだ断ってなんかなかったんだぜ?』とか言ってもいいかな?いややめとこう。目の前の美人さんにぶっ飛ばされそうだ。


「ねぇ……」


プレッシャーが増す。

何なのかな?

アークデーモンと対峙した時よりも強い圧が……。


いや、負けちゃダメだ。

僕は言うんだ。

教室で宣言したように。

天城さんとチームを組むんだ。


「夢乃間くん、追いかけてきてくれたの?」


そんな僕の逡巡とは裏腹に、陰にいた天城さんが声をかけてくれた。

いやちょっと待ってまだ心の準備が……。


この学校の屋上は、入ってすぐ右手から後方にかけてが広いスペースになっている。


つまり、鞘村さんに対して『天城さんとチームを組む』と宣言できていれば天城さんにも聞こえていた可能性が高いわけで……。


「うん……」

僕の軟弱者!!!!!!!

それだけかよ!もっと男らしく『キミを迎えに来たんだ』とか言えよ!


「どうして?」

天城さんは涙を貯めた目で僕を見つめる。


その姿は可愛くて、切なくて、不憫で……見ていられない。

僕が作り出した姿なのに、申し訳なさすぎる。


言え!言うんだ!


「さっきの返事……」

「さっきの?」

「うん」

言えよ!戸惑うな!ここには天使しかいない!きっとゴミを見るような目で見てくる美人さんなんていない!だから言え!


 

僕はなんとか声を絞り出す。

勇気なんていらない。ただ言うだけだ!




 

「僕は、キミと組む」

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