第7話 卒業するころに、僕らがSランクチームになってれば問題ない

「僕はキミと組む」

「えっ?」

「はっ?」

聞こえない。僕には1人の声しか聞こえない。聞こえない。


「どうして?」

「ごめん。そもそも僕はなにもわかってなかった」

ってことにしてほしい。

だってそうだろ?僕はまだ転入1日のいわば赤ちゃんだよ?

全てを理解して、俯瞰して判断なんてできなくて当然だろ?


「もちろん、君が……天城さんが実習でソロになってるなとは思った」

「うん……」

僕の話を聞いてくれるらしい天城さんはやっぱり素直で優しい子だ。

横に感じる『ふざけたこと言ったら殺す』っていう怨念のようなものは無視だ。気にするな夢乃間燈真!


「さっきの話の後、教室に戻った時、みんなから色々聞いた……というか、言われた」

「うん」

「横にいるだけで天城さんの魔力でボロボロになるって」

「うん……」

「知らなかったの?」

くそっ、入ってくるな!……普段だったらお言葉をありがとうございますと言ってしまいかねない美人さんなんだけど、今は遠慮してほしいんだ。


「横にいてプレッシャー感じるな~とは思ったけども……」

僕のバカ野郎!気絶しかけたくせになに言ってんだよ!


「そうだったの……」

まだ疑ってるな……。なにかもう一押し。いや、天城さんの表情を見る限り、この話はもういいな。

さっき即答で『はい喜んで』って言わなかった理由に移ろう。

そうだ、それがいい。

ここは同情作戦だ!

そうでもしないと、今だに睨みつけてくる美人さんはいつまで経ってもクリアできないし、天使さんの気分も優れないままだろう。


「僕はのんびり適度にこっそりやりたかったんだよね……」

「えっ?」

「はぁ?」

やばい。天使2名が般若2名に変わってしまった。どこかに穴がないかな?完全に言うタイミングを間違えた。猛暑日なのに冷たい視線で凍りそうなんだけど。というか凍ったらやり過ごせるかな?凍れ俺の体……。


「えっと……」

「それは、日本最高の探索者育成学校に来ながら、適当に合わせて適当に成績を納めて卒業すると?バカにしてるの?」

「ごめんなさい……」

はい土下座~。

慰めようとして地雷を踏みぬいたバカはこの僕です。

やばい……身を乗り出した鞘村さんはめっちゃ怒ってる。

天使さんまで怒ってるように見えるよ。


「えりりん。話を聞こう?夢乃間くんの事情だってあるし……転入生なんだから」

怒ってなかったね。これはあれかな?友人のキレっぷりにどう抑えようかと悩んでたのかな?


「くっ、咲良がそう言うなら……」

きっと咲良さんはこの鞘村さんの急所というか、弱点というか、保護対象とかなんだろう。

良い友達だよね。


「僕が転入してきた理由は、とあるチームを抜けたからなんだ」

「チームを?」

「それで転入ってどういうこと?」

話を聞くと決めたからだと思うけど、普通に聞いてくれてる。きっと二人とも真面目な性格なんだろうな。

 

「ようは逃げたんだよ。僕がいたチームはSランクチームだったから」

「えっ、Sランク???」

「日本でSランクなんて、このあたりだと神宮司照光、鷹村光輝、祠堂清澄のそれぞれのチームがあるけど、高校生くらいのメンバーなんていたかしら?」

2人の驚きが籠った視線を感じながら、僕は苦笑いを浮かべる。あまり思い出したくないことだけどね……悪魔の視線を思い出したくない。


そもそも日本にはSランク探索者が5人しかいない。

それぞれが組んでるチームはSランクチームという扱いになる。


「えりりん、確か祠堂さんのチームにいたと思う」

「あそこって祠堂の逆ハーチームでしょ?」

「……そう言う噂だね」

2人は僕の話を聞くことで少しは落ち着いたのかな。

態度から刺々しさや、訝しむ感じが減った気がする。


かわりに悪魔を思い出して僕の表情が硬くなる…・・・。いや、負けちゃダメだ。僕は踏み出すんだから。

 

「噂というか、そうだ。さすがに10歳以上離れてる僕に直接的な関係はなかったけど」

「そうだったんだ」

「けど、迫られてはいたね」

「えっ?」

「まじ?」

「うん」

だから正直に話す。

きっと驚くだろうけど、それでもここを話さないと僕が迷ってる理由は理解してもらえないだろう。

あれだけ真っすぐに誘ってくれた言葉には、僕も真摯に答えたい。


「それが嫌で出たの?」

「まぁそうだね。そもそも扱いは酷かったしね。休みも何もなく呼び出されて連れまわされるし、僕の固有スキルの2つ目が原因でその……セクハラ的なこともされたし」

「えぇ~」

「その……肉体関係って言うとストレートすぎるかもしれないけど、迫られた」

「えぇ???」

天城さんは真っ赤だ。しまったな、耐性なかったかな?


「それが決め手だね。即押し倒されたりとかじゃなかったからその間にね。最初は僕の話なんか聞いてくれなかったけど、セクハラの証拠を残しておいてダンジョン協会の話の分かる人に渡して。まぁ、たいていは高ランクの探索者には逆らわないから、話を聞いてくれる人を探すだけで半年くらいかかったんだけどね」

2人とも無言になってしまった。

でも、聞いてくれているようだから話を続ける。

ごめん。僕の自己満かもしれないけど、今さら止めれない。


あとは正式に脱退する紙を提出して、探索者育成学校の中でも日本トップクラスであるこの学院への転入手続きをしてもらって、逃げた。

 

国をあげて探索者を育成している中で、ただ逃げて探索者をやめますだと誰も話を聞いてくれないからね。

探索者は続けるけど、問題のあるチームでは嫌だという方向に持っていったんだ。

話を聞いてくれたお偉いさんは、僕の身元保証人になってくれた。


それでもきっと諦めてない悪魔は、僕が卒業して自由になったらまた勧誘してくるかもしれない。

だから僕は目立ちたくはなかった。


2人に対してそんな話をした。


「事情も知らずに誘ってごめんなさい」

「ごめん、咲良のことしか気にしてなくて、君のことを何も考えずに怒っていたわ」

「うん」

謝罪された。

やっぱり良い子たちだな。


「でも、それでなんで咲良と組むの?組んで大丈夫なの?」

「えっと……」

「無理はしないで。私は大丈夫。ずっと1人だったし……」

そんな寂しそうな顔をしないで欲しい。

僕はもう決めたんだから。


「いや、決めたんだ。僕と組んでほしい」

「えっ?」

改めて言う。言わなきゃだめだ。

 

こんなイベントが起こった状態で、僕はこのまま引き篭もって周りに目を背け続けるやつになりたいわけじゃない。

そもそもイベントすら起こらない地味で平凡なやつになるはずだったんだ。


既に失敗している。

あぁ、気負ったのが間違いだったんだろうな。


でも、仕方ない。

それでこんなに可愛い女の子と組めるんなら、マイナスからプラス側に天元突破できる期待だってある。



そして言い放った。妄言を。

でも、天使と一緒にこれに向かって進むためなら……悪い選択じゃない気がしたんだ。

 

「卒業するころに、僕らがSランクチームになってれば問題ない」

「おぉ……」

「夢乃間くん……♡」


あれだけ冷たかった風が、生暖かいものに変わった気がした。



***あとがき***

お読みいただきありがとうございます!

無事、燈真と咲良はパーティーを組むことになりました♪


これからの活躍にご期待ください!

そして、より多くの方に読んでいただくため、フォローや☆評価(☆☆☆→★★★)を頂けると嬉しいです。作者も舞い上がります。

応援(♡)やコメントもお待ちしております。

どうかよろしくお願いいたします!

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