第2話 ダンジョン探索実習①

「全員集合したな。では行くぞ!」

冴えない顔の教師は後藤先生というらしい。

彼の引率で、クラスの生徒全員が順番にダンジョンに入る。


この学校は優秀なダンジョン探索者を育てる学校だと話したと思うが、なんと学校の敷地内に低ランクではあるが、ダンジョンを持っている。

そしてそのダンジョンを自由に使えるため、こうして探索実習なる授業を組んでいるんだ。

こんな学校。日本中探してもここしかない。これこそがこの学校の売りなんだけどね。


ここに転入するにあたって構内ダンジョンに興味を持ったのは確かだ。


低ランクというかDランクのダンジョンだから5層までしかない。でも、特殊なダンジョンで、ボスがランダムに変わるんだ。

過去にはBとかAランクダンジョンで出現してもおかしくないようなモンスターが出たこともあるらしい。


これ、事件の匂いしかしないよね……と思いながら僕もみんなに続いてダンジョンに入る。


なぜか天城さんは僕よりも後に1人で入ってくる。



「2名ずつ並べ。今日の休みは2名だけだからあまりはいないはずだ」

「先生!?天城さんと並ぶのはさすがに……」

ん?


ダンジョンに入る通路は少し狭いから2人ずつ並んで入るという先生の指示はおかしくない。

でも、先頭の方にいる男子生徒から異論のような声があがる。なんで天城さんが避けられてるんだ?

まさかいじめ???


「今は移動するだけだ。行くぞ」

しかし後藤先生は取り合わない。

結構早いな。


僕達は遅れないようについて行くのだった。



今日の実習は5層でのモンスターとの実践訓練らしい。

まだ入学して数カ月の学生のはずなのに。

思いのほか高度な授業を受けているようだ。


訓練はチームでもソロでもいいらしいが、ほぼすべての生徒がチームで散っていく。


「夢乃間君、一緒に来ない?」

「えっ……あ、ありがとう。よろしく……お願いします。」

僕は誘われたことに少し戸惑いながらも、彼女について行くことにした。

彼女は確か授業の始まりと終りに掛け声をかけている子だ。たぶん学級委員長とかなのかな?世話を焼いてくれたことはありがたい。

聞けば騎士職らしい。


メンバーはこの子の他にもう2人。

魔道士の男と鍛冶師の女の子。

鍛冶師はちょっと珍しい。本来生産職だが槌を使うため腕力を活かして自分で戦うものも多い。けど、女の子で、というのははじめて見たよ。


本来はここにメイン火力となる戦士職の大柄な男子生徒がいるらしいが、今日は風邪で休みなんだって。だから僕を誘ってくれたんだろう。


僕は魔法剣士で、一応バフをかければそこそこ火力は出せる。予想以上にバランスのいい戦闘をいくつかこなし、この学校のレベルの高さを実感する。


「夢乃間君、先生の言うとおり凄いね」

「うんうん。指示が的確だし、回復まで」

「鰐淵君がいなくて今日はどうしようかと思ってたから助かったよ」

口々に僕に高評価をくれるのも嬉しい。

以前所属していたとこでは、僕の役割はひたすら支援だったから。思い出すと吐き気が……。


「夢乃間君?大丈夫?」

「あっ、あぁ。大丈夫」

いかんいかん。僕はもうここの生徒だ。あんな無茶苦茶な探索につれて行かれて、四六時中精神をガリガリ削られることはもうないんだ。

ここでのんびり適度にこっそりそこそこ優秀な探索者を目指すんだ。



そう思いつつクラスメイトと適度な距離感を保って実習をこなしていると、


ぶわっ……


なんだ?



突如として巨大な魔力の放出を感じた。

その不穏な事象に僕が……僕だけが呆然としていると、不意にスマホが鳴る。


ピコーンピコーン!!!


「緊急アラートだ!」

「さっきの場所に集合だって。行こう!」


3人は即座にスマホを確認すると、走り出す。

当然僕もついていく。

何か起きたんだろう。


集合場所には多くのクラスメイトがいた。

そして血を流しながら先生に向かい合っている男の子。

一瞬回復魔法の使用を申し出た方がいいかと思ったが、大きなケガではないようだ。


「それは本当ですか?」

「先生!俺は見たんだ。5層のボス部屋から不気味なモンスターが!」


ボス部屋から?まさか出てきたのか?


「しかし、ボスが自分からボス部屋を出てくるなど……」

話を聞いた後藤先生は逡巡している。

確かにボスの移動はBランク以上のダンジョンでしか発生しないはず。


たださっきの嫌な魔力の放出は……。


「先生。信じてくれよ!俺は出てきたモンスターが放った魔法でふっ飛ばされたんだ。それに他の2人が……」

「今学院に報告して指示を待っています。待ちなさい」

「待ってる間にあいつらが!」

どうやらパーティでボスと思われるモンスターに遭遇して彼だけがここに辿り着いたらしい。それは心配になるよね。


そもそもここは珍しいボスのランクすら変化するダンジョンだ。もし彼の言っていることが正しいとすると、Bランク以上のボスが出たのかも。


「先生!私行ってきます!」

「まっ、待ちなさい、天城さん!」

そして天使が走っていった。


ってなんでだよ。

君は関係ないだろ?

僕はもう理解している。彼女はなぜかハブられてる。

今の実習中もずっとソロだったんだろう?


少なくとも僕がパーティに加えてもらったときに横目で見た限り、ただ1人で佇んでいたじゃないか。

それも寂しさすら感じない眼をしてあまりにも当然のように……。


なのになんでそんな真摯な表情でクラスメイトを助けようとする?


「先生!僕も行ってきます!」

「えっ?ちょっと待ちなさい!天城なら心配いらない!」

「夢乃間君待って!」

後ろで声がするけど聞かない。



流石にこれであの天使が死んだりしたら寝覚めが悪すぎる。

僕はいじめられる側に問題があるとか、あいつは大丈夫とか、そんな考え方は嫌いだ。


隣の席になっただけで、こんな僕にも話しかけてくれる優しい天使。

のんびり適当にこっそり探索者をやりたいと思っているけど、守りたい人を見捨てるようなことをするつもりはないんだ。

たまに見る悪夢のように、泣き叫ぶ人たちを残して逃げ出したくないんだ。



「天城さん!」

「えっ?夢乃間くん?」


僕は追いついた。



そこには僕の方を見て少しだけ驚いた天使がいた。


そしてその後ろには……巨大な角と翼を持つ赤黒い大柄のモンスター。


なんだよこれ……。


なんでこんなやつが学院のダンジョンなんかに出るんだよ!?



おかしいだろ!?


僕はそう叫びたい衝動に駆られる。

なぜかって?

それは天使が相対しているのは、まさしく悪魔だったからだ。

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