第59話

「…あの子、


人に嫌われるのを

一番恐れてた。


たった一人の親に

酷い扱いを

受けてきたのに、


あんな良い子に

育つなんて、


その裏でアカネが

どれだけ色んな事を

我慢して胸の内に

秘めてきたからだと思う?


きっと計り知れない

孤独との戦いだったに

違いないわ。


それなのに神様は

アカネに試練を

与え続けたでしょう?


親に恋人を作って

家から離れさせたり、


グリを逃がしたり。



でもね、たった一つだけ

アカネに与えられたものが

あるのよ。


何だと思う?」


加奈は

じっと僕を見つめた。



「…木口くん。


あなただけが

アカネの希望だった。


私なんて

無意味だったもの。


きっと

あなたがいなかったら

とっくに

取り返しのつかない事に

なっていたわ。


アカネは全部

自虐的に捉えてしまうから、


太ったら

木口くんまでいなくなる

って思ったのね。


そうやって考えなくちゃ

生きていけないほど

精神的に

追いつめられていたのよ。


それは

あなたのせいじゃない。


あの子らしい決断だったの。


悲しいけれど、

あれがあの子の出した答えだった」


そう言いながら、

加奈はポロポロと涙を流していた。

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