第58話

「そう。アカネ、


最後の方

すごく痩せてたでしょう」


「…ああ、そういえば」


「アカネ『太るのが怖い』って、


ずっとろくなもの

食べてなかったのよ」


「でもダイエットだって」


「ダイエット…


確かに始めは

そうだったと思う。


だけど、どんどん歯

止めが利かなくなった。


元から痩せてたのに、

さらに食べなくなって、

食べても

全部吐き出してたの」


それは僕の知らない

アカネの姿だった。


少なくともアカネは

僕の前でそんなところを

見せたことなどなかった。


「…で、でもそれと、


死因と何の関係があるんだよ」


口にしてから

声が裏返っていたことに

気付いた。


「あの子の心臓ね、


無理なダイエットのせいで

著しく弱ってたの。


心臓だけじゃない。

他の色んな内臓も

弱りきってた。


摂食障害って

よくある病気だけど、


すごく怖い病気なの。


私のママもそうだったから、


昔調べててよく知ってるわ。


私、ただ一人

それを知ってたのに、


殺してしまったのは、

あなたじゃなくて

私の方だわ。


もっと早く病院へ

無理やりにでも

連れていくべきだった」



「…でももし、


それが原因だったとしても、

そもそも摂食障害って


やつになった原因は

俺にあるんじゃないのか?」


「それは違うわ。


アカネすごく

優しい子だったでしょう?

なぜか分かる?」


僕は黙って首を横に振った。

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