第54話

「いつもみたいに…か」


「アカネ、あそこ

好きだったんでしょう?」


「あそこ?」


「あのぉ…


高校の近くの…」


「桜並木道?」


「そう、それよ。


よく話してたから、


私、


一度行って見たかったのよね」


「でも今行ったって

桜は咲いてないけど」


「それでも、いいの。

アカネが言ってたわ。


“桜の咲かない季節にも

桜の木は変わらずそこにある”


って。


でも私とは行きたくない?」


僕は首を横に振った。


僕ももう一度

あそこに行きたかった。


けれど、

一人で行く勇気はなかった。


昔よりもあそこでの

思い出が

増えてしまったせいだ。


加奈はアカネの親友だし、

誰かを誘うとすれば

やっぱり加奈になるだろう。


僕らはタクシーに

乗り込んでそこに向かった。


相変わらず、


その中でも僕らの間には

アカネが座っているのだった。

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