第53話

長い階段を下りながら、

僕らは一言も

言葉を交わさなかった。


その沈黙は

僕が戻ってきてからの中で

なぜか

一番心地よく感じられ、


僕と加奈の間に、

まるでアカネがいるように思えた。



「私ね」


最後の一段を降りると

同時に加奈が口を開いた。


「アカネのお母さん、

どうしても好きになれないの」


「どうして?」


「どうしてっ言われると

言いにくいけど、


アカネから

色々話聞いてたから」


「ああ、そういう事か」


「後悔してるのはわかる。


わかるけど

やっぱりダメなの」


「まあ、好きにすれば

いいんじゃない?」


「だからって

わけじゃないんだけど、


ちょっと抜け出さない?」


「え?それはまずくないか?」


「だって、

あんなしんみりした会、


アカネが喜んでいるとは

思えないもの。


あの好奇心旺盛な

アカネよ?


せめて

私達二人だけでも


いつもみたいに

迎えてやりたいのよ」


加奈は隣にいるアカネに

微笑みかけるように言った。

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