第52話

タクシーに乗り込み、

二十分ほど

走ったところで


そこに到着した。


長い階段が続く。


それをようやく

昇り終わって


上を見上げると、

空があまりにも近くて

驚いた。


雲が足早に流れていく。


アカネの母親が

花を供えた墓は、


じいちゃんのと比べると

小さな、小さな墓だった。


その花は菊や、

白や黄色ばかりの花束で、


アカネは

好まないだろうなと思った。


近づいていくと、


そこには

“橋本アカネ”

と書かれていた。


いまだにその名前が

しっくりこないのは、


僕だけじゃない、

アカネもきっと

そう思っているはずだ。



まるで他人の墓に

来ているようだった。


実感が湧かない。


淡々と

過ぎて行く時間は

ここにいても変わらない。


と、加奈が


階段の所で

僕を手招きしていた。


こっそりと墓前の集団から

抜け出していくと、


「ちょっと話があるの」

と加奈は言った。

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