第51話

「この子、


名前何て言うんですか?」


「…“葵”っていうのよ」


「茜と葵か。


…葵ちゃん、

それ君によく似合ってる」


葵は胸元で

ピンク色の石を輝かせながら、


クシャリと

愛らしい笑顔を見せた。


その笑顔にほんの少し

アカネの面影がある。


「あの…」


そう言いかけた時、


墓地までの送迎タクシーが

二、三台入ってきた。


母親は顔に切なげな

笑みを浮かべて、


隣に立っていた男の人と

葵と一緒に

それに乗り込んだ。


この人も

きっと一緒なのだ。


たいていの事は

気がついた時にはもう遅い。



気づいていても、

やらない事だってある。


できない事だってある。


生きるという事は、

手遅れになってから

悔やむ事だらけなのだ。


僕は唇を噛みしめた。


後ろから肩を叩かれて

振りかえると、


加奈が母親と

同じように微笑んでいた。

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