10
拳が警備員を羽交い絞めにしている間、淳はその場に立ち尽くしていた。
目の前の光景が現実とは信じられず、頭の中は混乱していた。
「おい、淳!」
拳が叫んだ。
「ぼっーとしてんなよ。」
拳の叫びで、淳はようやく我に返る。
しかし、次に何をすべきか分からない。
警備員の男は恐怖でガタガタと震えながら、
「お願いだ、何も言わないから…」
と哀願している。
淳にはこの状況をどうすればいいのか分からなかった。
と、いうよりも初めての状況にパニックとなり、上手く考えることができない。
その瞬間、突然、桃子が動いた。
一瞬、淳には何が起こったのかわからなかった。
ただ、拳がガッチリとホールドしている警備員の胸に桃子が体当たりした様子だけが、淳の脳内に映像として捉えられた。
桃子がポケットから取り出したナイフを、警備員の胸に突き刺したということがわかったのはワンテンポ遅れてからだった。
「うっ…!」
警備員は声を漏らし、床に倒れ込む。
その体躯からは血が溢れ出し、瞬く間に床を染めていく。
淳はその場から目を逸らすことができなかった。
「桃子、何やってんだ!」
拳が叫んだ。
だが、桃子は冷静な目で拳を見つめ返し、淡々とした様子で手に持った血まみれのナイフを弄んでいる。
「だってこのままじゃ、私たち全員捕まるよ。」
その言葉にそれまで黙っていた里香が反応した。
「そうよ」
「だから、全員が共犯になるしかない。」
梨香は桃子からナイフを取り上げた。
そして、床に倒れたまま小さくうめく警備員に向かって、ナイフを突き立てた。
警備員は「ぐっ...」と声にならないうめき声をあげた。
一体、何をやっているんだ。
淳には目の前で起こっている状況が全く理解できない。
「こうなったらもう、やるしかないんだ」
拳も黙り込んでいたが、梨香から無言でナイフを受け取り、同じく一刺しした。
もう、警備員は何も声をあげなくなっていた。
淳の心臓は激しく鼓動し、頭の中は真っ白になっていた。
だが、彼らの視線を感じて、淳もナイフを受け取った。
「淳、お前もだ。」
拳が低い声で促す。
そこで初めて、淳は自分の手が震えていることに気づく。
淳はナイフを持ち、ためらいながらも警備員に近づいた。
そして目を閉じ、心を無にして一突きした。
その瞬間、警備員の身体がピクリと動いたが、すぐに動かなくなった。
「これでいい。」
拳は深い息をついて言った。
「俺たち全員が共犯だ。」
たったそれだけの言葉だったが、淳たちにはその言葉の持つ意味がしっかりと刻み込まれた。
これで誰も裏切ることはできない。
それから拳と莉香は急いで金庫から現金を取り出し、鞄に詰め込み始めた。
桃子は呆然とした様子で、その様子を見守っていた。
淳は依然としてその場から動けず、ただ無感情な目で仲間たちの動きを見つめていた。
「淳、早く来い!」
拳が声をかけた。
その声でようやく淳は足を動かし、仲間たちに合流する。
4人は店を出て、暗闇の中へと消えていった。
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