2
淳が
その日、淳は仲の良い先輩に連れられて商店街の裏通りに位置する小さなバーに行った。
そこは街の中心地にありながらも、狭くて小汚い、いかにも手入れが行き届いていない場所だった。
だが、淳にとってそこは、居心地のいい場所となった。
自分と似たような者たちだけで構成された空間。
淳のような不良少年たちの溜まり場となっていたその場所は、彼をひどく落ち着かせた。
連れられて来た先輩に促されるまま、何が美味しいのか分からないウイスキーを煽る。
しばらくすると、先輩は店内に知り合いを見つけて、数人の男女で話し込みだした。
淳のほうを一瞥して何かを話すと、その知り合いたちも淳の方をちらっと見たが淳の元へ寄ってくることも、呼び出されることもなかった。
放置された淳は若干のアウェー感を感じながら、泥水のようなウイスキーを味わいながら周りを見わたす。
しばらくそうしていると、だんだんと酔ってきた。
ふわふわとした感覚に包まれて眠たくなる。
そんな自分だけの世界に浸っていると、ふいに声をかけられた。
「ねえ」
反射的に自分が呼ばれたのだと思って顔を上げる。
「あんた、西高のやつなんだってね?」
淳の返答を待たずに、目の前に立った女が言った。
その女は鮮やかなニットのパーカーの下に制服を着ているようで、どうやら淳と同じ高校生のようだった。
酔いのせいか頭がうまく回らず、淳はまじまじと女の顔を見つめる。
かなり整った顔立ちをしている。
淳は彼女の容姿に一瞬で惹きつけられた。
「…聞いてる?」
ポカンとして何も言わない淳を不審に思ったのか、女は訝しげに質問を続けた。
「そうだけど…何?」
ようやく動き出した脳みそから言葉を搾り出す。
「ふーん…」
女は少し考えるようなそぶりをして、手に持ったグラスを翳した。
その先では淳の先輩たちが先ほどと同様に楽しそうに話し込んでいる。
「さっき教えてもらってさ。」
「あたしも西高。こっちで一緒に飲まない?」
「別に、いいけど。」
淳はそう言ってもう一度ちらっと先輩の方を見る。
先輩はまだ話に夢中な様子だった。
むしろ、淳のことが邪魔だったのか、淳の視線に気づくとすぐに「行ってこいよ」言わんばかりに手をひらひらとさせた。
全く、なんで連れてきたのか。
とは言ったものの、このまま一人で飲み続けてもつまらない。
それに美人の女が一緒に飲もうと誘ってきたのだ。
こんなチャンスは滅多にない。
淳は席を立ち上がり飲みかけのグラスを持って、その女の後に着いていった。
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