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それは田辺淳たなべあつしが17歳のとき、彼にとって3度目の転校だった。

特に、親の仕事の都合というわけでもない。

学校側から転校を打診され、世間体を気にした両親が彼を転校させた。

淳は学校には滅多に顔を出さなかったが、たまに顔を出せば喧嘩、カツアゲ、器物損壊などやりたい放題だった。

いわゆる不良少年。

とはいえ、彼の容姿は世間一般的な不良少年のイメージ通りという訳ではなかった。

淳は中肉中背で、特段、相手を畏怖させるような容姿をしているわけではない。

だが、クラスメイトたちは彼を敬遠し、その内にある狂気に怯えていた。


なにも初めからこうだったわけではない。

中学1年生のころまではそれなりに上手く回っていた、と淳は思う。

教育に無関心な父と過保護な母。

ある種、典型的な家庭に生まれた彼にとって、この変化は必然ではなかった。

一人前の人間として認められたいが、父親から相手にされない悲しみ。

母親からは自由にさせてもらえない怒り。

そんな不満が渦を巻いて積もっていき、どんどんと彼は悪い方へ流されていった。

そしてそれゆえに、彼の両親も適切な対処法が分からずに、ここまで淳を放置してしまった。

今では、父は相変わらず淳に無関心で、過保護だった母も自分の手に余る息子をコントロールすることを諦めてしまった。

急に窮屈な首輪を外された淳は、あとは駆け回る犬のごとくやりたい放題であった。

心の奥底では、また首輪をつけて欲しいと願っているなんて気づきもしなかった。

淳自身、なんども立ち直ろうとはした。

真面目に学校に通い、同級生たちと友好な関係を結んで勉強や部活にいそしむ。

そんな普通の生活を取り戻そうと模索したが、そのたびに失敗した。

立ち直ろうと思った時には、もうその方法が分からなくなっていた。

そして積み重なった失敗の経験は、彼を一段と苦悩の底に追いやった。

思い通りに行かない人生。

それと向き合う苦悩から逃げるようにして、淳は非行に走った。

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