第四章
24枚目
学校に行きたくなかった。
翌朝の事だ。体調不良だと言って、このままベッドの上で一日を過ごしたかった。
そうしなかったのは、今逃げる事が、取り返しの付かない状況を生んでしまいそうだったからだ。昨日の一件があってから、結と連絡を取っていない。そうする事は躊躇われた。だからこそ、直接会って、結としっかり向かい合わなければと思った。
家を出た爛楽は学校に向かうバスへと乗り込んだ。数分間バスに揺られる。次が結の乗って来るバス停となり、爛楽は鼓動が煩くなるのを感じた。
「おはよー爛楽ちゃん!」
鶏の鳴き声のような、元気な挨拶だった。その声を聞いてそちらを見れば、そこには爛楽の予想を裏切る笑顔があった。
「おはよう、結」
その挨拶はぎこちなかった。爛楽の隣に結は座る。いつもの事だった。
「ねえ見て見てこれ!」
そう言って、コンビニの袋を見せ付けて来る結。意味が分からなかったが、その中からパンを取り出した。
「期間限定の、ダブル梅干しかまぼこパン! バス来るまでに時間あったからコンビニに寄ったらこれが売ってて、思わず買っちゃった! 今日のお昼ご飯はこれだよ。あ、爛楽ちゃんにも分けてあげるね」
「遠慮するわ」
【挿絵】(https://kakuyomu.jp/users/hachibiteru/news/16818093087790179627)
どう見てもゲテモノだった為、爛楽はきっぱり告げた。結が残念そうな顔をする。
いつもと何も変わらない。
そう思って安堵しかけた。
だが、爛楽の脳裏に昨日の結の表情が浮かぶ。悲痛な表情。それは彼女の抱える闇の片鱗だ。
それが、たった一日で消え去ってしまうものなのか。取り繕っている、と考えるのが自然だ。
その思考が結に悟られてしまったのか、結は落ち着いた雰囲気に切り替えてから、告げる。
「わたしは大丈夫だよ。本当に、もう大丈夫なんだ」
微笑みを浮かべる結。
「昨日は理桜さんに注意されて、それで落ち込んじゃって、変な事言っちゃった。それはごめんね。忘れて、って居てもそうはいかないよね。でも、今日のわたしはもう大丈夫、いつものわたしだから、気にしないでいいよ」
彼女は大丈夫という言葉を頻繁に使う。その事に爛楽は気付いた。
「あ、でも昨日の戦いの時には、相当グロいの見せちゃったよね。その事は、本当にごめんっ。もうあんな事はしないって約束するから」
顔の前で手を合わせ、結は頭を深く下げた。
「……結が平気なら、それで良かった」
爛楽はそう言ってしまった。
その言葉で片付けてはいけないという事は理解している。
けれど、他にどうすれば良い。皮一枚だけであろうと、塞いだ傷をほじくり返すような事は、爛楽には出来なかった。
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