第二章
8枚目
〈キャンサー〉との戦闘によって損壊した街並みはその後一瞬にして元通りになった。結の説明によれば、〈
何はあともあれ事は解決したようなので
いつもより多めに睡眠を取り、次の日も元気に登校した。奇妙な疲れが全て取れていた事に爛楽は安堵した。バスに乗っている最中や授業中、ふとした時に、昨日あった事は全て夢だったのではないかという気持ちに駆られた。それ程、馬鹿げた出来事だった。
(でも、夢じゃない……)
爛楽は自分の手の平を見詰めながら思った。手にはまだ銃を撃った時の感触が残っている。
ゆっくりと時間は流れて、昼休みになった。
爛楽は弁当箱を持ち、教室を出た。廊下を歩いていると、背後から自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
「四島さーーーーん!」
自分を呼ぶ人間がこの学校に居る筈が無い。だが一応確認するかと振り向けば、そこに居たのは結だった。大きく手を振りながらこちらに駆け寄って来る。
「廊下でクソでかい声出すんじゃないわよ」
「ごめんごめん。今日のお昼ご飯なんだけどさ、良かったら一緒に食べない?」
「え!? いいの!?」
爛楽の瞳が硝子玉のようになった。ようやく孤独な昼食に終止符を打つ事が出来る。棚から牡丹餅とはこの事か。
「い――いや! あんた、そうやって仲良くする振りをして、〈メルメディック〉として一緒に戦うように説得するつもりでしょ! その手には乗らないわよ! 人の孤独に付け込むなんて、駄目でしょ倫理的に!」
他の人に聞かれていた場合、奇妙に思われてしまうので爛楽は声量を落として結を非難した。
「いや! いやいやいや! そんなつもりは……まあ、一〇パーセントくらいはあったんだけど……でも! それよりも純粋に四島さんと仲良くなりたかったから!」
「爛楽と、仲良く……!?」
自然と口元が緩んでしまう。友達と仲良く昼食を食べる。そんな青春の一ページが目の前にはらはらと飛んでいる。誘惑に負けてはいけないと自らに言い聞かせ、表情を律しようと試みるが、上手くいかない。尻尾を振っている犬みたいだと自分が恥ずかしくなる。
「勿論無理に、ってわけじゃないよ。他の人と食べるっていうなら、わたしが四島さんを取っちゃうのも悪いし……」
「い、いや! 別に構わないわよ!」
気が付けば、爛楽はそう口走っていた。
「えっ! いいの!?」
「まあ、一緒にお昼食べるくらいなら? 全然いいわよ。丁度今日は空いてるし?」
「やったー! ありがとう四島さん! それじゃあどこで食べよっか? 屋上とかでいいかな?」
「構わないわよ」
それから結と並んで歩いている際、口の端が上がらないように努めたが、やはり上手くいかなかった。
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