第40話
「・・・俺を憎みなよ」
ぼそりと呟く。
「おやめ下さい!!」
呉羽が叫んだ。
「大塔宮様は、悪くない。何にも。隆貞さんも、悪くない。何にも」
ただ、二人ともまっすぐに生きただけ。
悪いのは、誰なのか。
正しい歴史が悪かったのか。
いや、悪いのは、俺。
正しい歴史の名の下に、淡々と駒を進めているのは、俺。
「俺を、憎めばいい。俺の名は、桜井大和。安王の父を殺したのは俺」
憎しみは、生きる原動力になると、俺は知っている。
痛いくらい、知っている。
そうやって、俺はこの時代で生きてきたも同然だから。
そして今もその力に頼って生きているのだと思い知る。
何とかして姉ちゃんを、大塔宮様を憎んでいようと必死になっている。
この黒は全てを破壊するけれど、
もう、世界が何にも色付かないと思い知るけれど、
それでもこの子に、生きて欲しいと思うのは、俺の傲慢だとわかっているけれど。
「俺を、憎め。安王」
呆然と、安王は俺を見詰める。
涙だけ、ぼろぼろと散っている。
「か、帰りましょう、大和様」
呉羽が慌てて俺の腕を引いて、その場から引きずるように離れさせる。
俺もその力に抗わずにその赤い部屋から出て行く。
血が少し乾いて、ひざめいろ――緋褪色に染まった部屋から逃げるように。
「生きろ。安王」
ただぼそりと呟いた。
まだ俺を見つめている安王に向かって。
涙が散って、ぱたりと落ちた。
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