第39話

「父上っっ!!!!」





その血が、真紅から色褪めた緋色へと姿を変えた頃、そんな声が耳元で響いた。





「父上ええっっ!!!」






御簾の外から、駆け込んできたのはまだ十ほどの幼い子だった。




子供が、いたのか?



いや、そんな感じはしなかったけれど。




隆貞さんはまだ充分若かったし。




呆然と、冷たくなったその体にすがりつくその子を見つめる。






「貴方が・・・」




突然そんな声が伸びた。






「貴方が殺したのか!!!!」







明確な殺意に、体が震える。





「そ、そうだ・・・よ・・・」





呆然としながらも呟くと、床に落ちていた隆貞さんの刀を掴んで、俺に向かって振りかざす。



あ、と思った時にはすでに、その刀は弾かれて落ちていた。




黒い長い髪が、目の前を侵食する。






「刃を向けるなど、もってのほかでございます!!」






声を荒げた呉羽に、その男の子の体がびくりと震える。






「四条隆貞殿は、帝への反逆の罪で鎌倉へ配流された大塔宮様の側近でございました!!四条様の罪も同様!この御方が四条様を葬ったのは、後醍醐帝の命令でございます!!」






帝の。



その子の顔が、くしゃりと歪んで瞳から大粒の涙が散る。






「ち、父上ええっっ!!!」






天を仰いで涙するその子を見て、安王、と言ったのはこの子だと知る。





この子だけは、助けてくれ、と。






「嫌です!!嫌です!!!父上!!!大塔宮様なんて!!大塔宮様なんてええっっ!!!」







正しい歴史と言うのは、一体何なのか。





そんなことを考えながら、安王から散る涙を見つめる。






一体、誰のための歴史なのか。



700年後のためだと、月子のためだと、家族のためだと思うけれど、時折わからなくなりそうになる。






こんな想いを繰り返して進める正しい歴史に、それほどの価値があるのかどうかわからなくなる。







それでも俺は、前に行かなければいけない。



前に。






正しい歴史を選んでいることは、間違ってはいないと、信じて。

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