第38話
膝を付いて、崩れ落ちる。
隆貞さんはそんな俺を見て、少し笑った。
「姫に・・・」
呟いた声を聞いて、顔を上げる。
「姫に、私の分まで・・・生きてください、と」
こくりと頷く。
伝えられるかどうかなんてわからなかったけれど。
「大塔宮様に、諦めるな、と・・・」
赤が、さらに伸びる。
隆貞さんを中心に、華開く。
涙が、ぼろぼろと、散った。
もう堪えられなくて。
正しい歴史も、もう、辛い。
苦しいよ、姉ちゃん。
突然東湖さんが、笑った。
嬉しそうに。
「・・・最期の最期で、いらっしゃるなんて・・・」
「え?」
何を、と思って顔を上げる。
その指先が、床を離れてそっと上がる。
誰かの手を、取るように。
誰かに手を、差し伸べているように。
「貴女は本当に、意地悪な御方ですね・・・」
誰もいない。
いないけれど、光に向かって、手を。
「お会い・・・したかった・・・芹・・・姫・・・」
ばしゃりと、血の海にその指先が沈む。
あ、と思った時には、もう、
全てが、事切れていた。
ただ、その顔を瞳に映す。
血に濡れていたけれど、そっと微笑んでいた。
最期の最期まで、優雅で、強い人。
心の底まで、強い人。
込みあがる涙に勝てない。
俺は何一つこの人のことなんて、知らないけれど。
けれど、胸を焼くこの寂しさは、
この苦しさは、
何だと言うのか。
余りの強さを見せ付けられて、ただただ涙した。
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