第35話

「何故、そう思うのです?」





どうして、知っているのか。



それくらい、知りたい。





「・・・雛鶴姫がおっしゃっておりました」





「え?」




眉を歪める。



姉ちゃんが歴史を知るわけがない。



何一つ知らないような人なのだから。




けれど、姉ちゃんが?







「・・・大塔宮様が御配流になった際に、雛鶴姫が酷く心配してくださっておりました。私たち側近の身を」







それを聞いて、ただのカンか、と思う。



けれど、遠からず当たっている。






「私たちが処刑されやしないか、と」







そう言った隆貞さんの瞳に、光が灯る。



案の定、笑顔だけれど。





「・・・何か伝えることはありますか?」






誰に、とは言わなかったけれど、そう尋ねた俺に、隆貞さんは少し俯いた。



そうして、そっと口を開く。






「・・・誰よりもお幸せに、と」







そう言って笑ったその顔を見て、胸が詰まる。



今度はその瞳まで、笑っていたから。





「大塔宮様を宜しく頼みますと。あの方のお傍にいるのは、雛鶴姫しかいない、と」






700年の時の壁をぶち破って、姉ちゃんが存在する意味が、この言葉に尽きるのかもしれないと思う。




大塔宮様の傍にいるのは、姉ちゃんでしかないと言う、言葉に。






「大塔宮様と姫にお会いできて、私は幸せです」







そっと自分の手を刀にかける。



できる限り、一撃で。




痛みも感じる間もなく、できれば殺してあげたい。






「・・・私の上に降る、長い雨」






え?と思って顔を上げる。






「同じような雨を、大塔宮様や姫の上に降らせたくはありませぬ」






隆貞さんの手が、刀に掛かっているのを見た。



はっと息を呑んで、刀を瞬時に抜く。






その瞬間、鉄のぶつかる音が辺りに響いた。







「貴方様はきっと、この先私の大事な方々の前に立ちはだかるでしょう。例え雛鶴姫の弟君であろうと、私は厭いませぬ」






ギリッと、力が籠もる。



その重みに、圧倒されそうになる。

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