第32話

「・・・わかった。側近たちは全て処刑にする」






全て。



唇を横に広げて、笑う。





「主上の善政のために」





その覇道は血に濡れているのに、善政だなんてね。



胸の奥で嘲笑った。






俺は、俺のやるべきことを、やる。





足利に天下を。



尊氏の手に、この国の覇権を。





それが700年後まで続く、正しい歴史。



そのために、いらないものは全て排除していく。






「主上、一つお願いがあります」



「・・・何だ?」






思い出すのは、あの姿。



にこにこと笑いながらも、目だけは冷えているあの男。







「四条・・・四条隆貞殿の処刑に、私を立ち合わせてください」








大塔宮様の、右腕。



それを切り落とすのは、きっと俺の役目。




「構わぬ。頼んだ」





後醍醐帝はどうでもいいと言うようにそれだけ言って立ち上がる。





「主上、何か私に告げたいことがあったのでは?」




その背を繋ぎとめるように、言葉を落とす。


後醍醐帝は足を止めて、少しだけ振り返った。




「・・・よい。次に何かすることはないか、大和に聞いておきたかっただけだ」






次にやることは、側近殺しでいい、と。






「そうですか、それでは首尾よく、進めます」





何のぬかりもほころびもなく、淡々と正しい歴史を紡いでいく。





大塔宮様を支える、東の水瓶を壊すのは、俺の役目。






大塔宮様はそうなったことを聞いたら、今度こそ揺らぐのかもしれない。



その姿を思い描いて、誰もいなくなった世界でただ笑う。






嘘みたいに、冷静だ。



俺は。






さあ、また一手。








絶望も、衝撃も、




この愚鈍な雲が、重なり合って色を増すように、




何度も何度も、重ね重ね、終わりのないさざ波のように、追い詰めて追い詰めて、行く。




大塔宮様と、姉ちゃんを。






ねえ、月子。



そろそろ俺、月子の隣で眠りたいよ。

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